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寡黙な花火

作者: 桂螢

遠い夏の宵に、打ち上げ花火を観た。ポーカーフェイスな同僚の傍らで。彼は、私と同い歳の男性で、筋金入りのお喋り屋だ。ところが無口な私と二人だけになると、私の寡黙が伝染するのか、彼まで無口になる。最初、嫌われているのかなと思っていたが、案外悲観しなくてもいいみたいだ。彼の側にいる際に幾度か、自信がもてる場面に遭遇した。彼が誰かとマシンガントークを繰り広げた後、私にぼそっと「疲れた」と、不機嫌そうにつぶやいた。なかなか複雑な人だ。


私たちは、残業を終えた後、お腹をすかしつつも、昼間にパートのおばちゃんからもらった塩レモン味のラムネをバキバキ噛み砕きながら、夜空を彩る大輪の花々を見上げた。


花火が打ち上がっている間も、私たちは黙ったままだった。仕事の相談も愚痴も、テレビやインターネットの話も、何も喋らなかった。それで良かった。気まずいという感覚はなかった。喋らなくても構わない。彼と私の間の、そんな気楽な空気が好きだ。


私は唐突だが、何気なく尋ねた。

「お子さんもやっぱり花火は好きなの?」

彼は珍しく、言葉を探り選び、自信なさそうに、返事をした。

「実は子どもと観に行ったことはない」

マイホームを建て、小学生の子どもが二人もいる彼の、意外な一面が垣間見えた。実は円満家庭ではないのか。隠し事を抱えているのか。思っていた以上に、人間臭い人なのか。それ以上、根掘り葉掘り踏み込むことは、私はしなかった。元々の引っ込み思案な性格ゆえか、異性に対する反射的な遠慮なのか、はたまた社交辞令という演技なのかは、自分でも分からない。


私の質問に呼応してか、彼も口も開いた。ぶしつけな質問をしたにもかかわらず、配慮ある言葉をかけてくれた。優しい人だ。

「職場には馴染めてないの?」

「…うん」

「…そっかぁ」

優しさがあふれ出る沈黙とは、思慮深すぎて不器用ながら、情熱的な人の機微に触れられる瞬間である。彼は宝だ。花火が終わっても、私たちは黙して突っ立っていた。

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