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8/14

◆優越感

***


 僕は、唇に残った熱を指先でなぞった。

 口紅のついたティーカップ──彼女の痕跡に、そっと唇を重ねる真似をする。

 ほんの一瞬、自分でも何をしているのかと我に返り、笑いが漏れた。


「……姉さま……」


 キスなんて、将来「仕事」以外で使う予定なんてなかった。だから、初めてだ。

 その感覚が、妙に新鮮で、胸の奥を刺すような痛みを伴う。


(姉さま、かわいい……)


 この感情には、"あれだけ怖かった姉さまが、自分に怯えていた"──そんな不純な優越感も混じっているのだろう。


 頭の中がゾワゾワする。

 あの人の怯えた瞳。震える声。逃げられないと悟ったときの息づかい。

 胸がゾワリとざわめく。


 また見たい。もっと追い込みたい。

 できるなら、泣かせてみたい。そうして僕に縋らせたい。


 自分の手を握る。

 だけどそれは、あの細くて柔らかな指じゃない。


(ああ、また"約束"の時間が来ないかな……)


 それよりも、これから警戒すべきは姉さまよりも、姉さまの周囲だろう。

 僕は姉さまのことを大層気に入ってしまった。そばに置きたい。


 ────姉さまはこれからの未来で、あの男(王子)から婚約破棄を申出されるらしい。

 王子から婚約破棄された女なんて、悪い噂が立って、貰い手はどこにもなくなるだろう。

 可哀想だ。

 でも──助けてあげたいとは、思わない。


「まあ、でも、そっか、婚約破棄か……」


 ステラという女(主人公)がフィン王子に関わったとしも、深く関わらなかったとしても、ルナフィア(姉さん)は婚約破棄を言い渡されるらしい。

 姉さまが死んでしまうルートは困るが……。"婚約破棄"される程度ならむしろありがたい。

 だって、貰い手がなくなるなら……僕が『貰える』もの。


 今の姉さまは面白い人だ。そして、僕に"温もり"をくれそうな唯一の人。

 あんな人もう二度と現れないだろうな。だから、逃がしたくない。そばにいてほしい。


 彼女をもっと感じたくて、もっと支配したくてたまらない。

 ……だけど、なんで、こんな感情になるんだろう……変なの。

 でも、いいや。これで。

 頭がふわふわとして何も考えられない。


(今度は、どうやって理由をつけようかな……?)


「また、キスしたいな……」


 自分の手の甲に、唇を落とす。

 今度は、彼女が泣いて、逃げられなくなってから。

 今度は仕方ないからって顔で、泣きながら受け入れてほしい。


 ──ああ、あの細い首。


(締めて、みたい……)


 自分の中で湧き上がる感情は、なんだか後ろめたいものだった。


(……本当、なんでこんな気持ちになるんだろう)


 ────だけど、なんか、今は、どうでもいいや。

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