王子様が嫉妬しているようです。①
「というかそもそも、婚約者がいるのに他の女の子と二人きりになったりはしないよ」
「えっ……」
「え、そんなに意外?」
フィンが言ったのは、あまりにも“まとも”な言葉だった。
でも、どうしてだろう。私の知ってる展開と、どこかズレてる。
本当なら、ステラは今ごろフィンの方から「一緒にお昼を」って言われて、そこから親密度イベントが始まるはずなのに。
「それにしても驚いたなあ。ソリオと彼女──なんだかんだで息ピッタリなんだね。ルナフィアのクラスも、宝箱レクリエーションだったよね?」
「う、うん。うちもだった。……なんか、争奪戦みたいになってたけど」
「やっぱり。アステリカさん、全属性魔法使えるからさ。もう引っ張りだこで、十個くらい開けてたんじゃないかな」
「へ、へぇ……」
圧倒的な“扱われ方の差”に、思わず笑みが引きつる。
ステラって、もっと孤立してる設定だったんじゃなかったっけ?
ゲーム本編では“浮いた優等生”として描かれていたはずなのに──。
もしかして、"ルナフィア"が強烈過ぎてステラのキャラクターが薄まっていたのか?
ゲーム本編では"聖女候補の優等生"として学校で浮いており、やっかみを受けていたステラ。
しかし、思い返すと、入学試験でもステラはそこまでの注目は受けていなかった。
(……そういえば、ステラって本来はクラスで浮いてて、フィンが気にかける役割だったよね?)
そんな人気者なら、わざわざフィンが構う理由なんてないじゃん。
そう考えた瞬間、胸の奥に小さく棘が刺さる。私はアホなのか?
「あ、それとソリオ。記憶魔法って珍しいからさ。彼と組んだらどんな箱も開くって評判だったよ」
「ちょ、ちょっと待って!? なんで私は“魔女”とか言われてるのに、ソリオは普通に人気者してるのよっ!?」
フィンはすっと黙る。
──かと思うと、そっと真剣な顔で私を覗き込んだ。
「……もしかして。ルナフィアって、クラスであんまり馴染めてない?」
その瞳には、心配と──わずかな哀れみが滲んでいた。
「ああ、いや……そんなことはないのよ?」
「ああ、そうなんだ! 良かった……。だったら、女の子の友だちもできたよね? もしかして、俺、交流の邪魔をしてしちゃった?」
「……」
「あ、できてないんだ……」
フィンは可哀想な子を見るような目で私を見つめた。それから、少し考えてから彼は呟く。
「はぁ、ルナフィアと同じクラスだったら、俺がサポートできたのに」
「や、やめて。情けなくなってくるから……」
「本当はさ、サジにこっそりお願いしたんだよ。俺かソリオをルナフィアと同じクラスにしてほしいって。だけど、ほら、俺達って、婚約者だし、ソリオは君の義弟だから……」
「うぅ……もうやめてってば……」
「あ、違う。別にルナフィアが悪いわけじゃないよ。以前のルナフィアが言ってた通り、魔法って貴族の使用人候補や、男性が使うものだから。この学園もそう。だから、貴族女性に対して偏見があるんだよ。"仮想敵"っていうか、なんというか」
「だからずっと心配はしていたのだけれど」と、フィンは子犬のように悲しそうな顔を私に向けた。
私はフィンを安心させるように、彼に向かって無理くり笑顔を作った。
「わ、私ね……女の子の友達はできなかったけど、男の子の友達はできたわ」
「え、そうなの?」
「ええ。アストリスに、シリウス。あと、レオともお友達になったの。みんな、すごく良い子よ?」
「……」
話を聞いていたその瞳に、なんだか心配とは別の色が浮かんだ気がするのは、果たして私の気のせいなのだろうか。
「ルナフィア。俺はさ、嫉妬深い男じゃないつもりなんだ。ルナフィアが誰と仲良くなろうとルナフィアの自由だと思う。
子供っぽい恋愛感情を振りかざして、君を振り回す気なんてないんだよ」
「え? ええ、知ってるわ」
「でも……でもね」
「え──」
「──もしかして、俺のこと、異性として見てない……?」
珍しくムッとした様子のフィンの言葉を聞いた瞬間、私の頭に「しまった」の四文字が浮かぶ。
そりゃそうだ。フィンは私のことを思って、ステラとの食事を断ったのだ。
対して私は当然のように男子だけと仲良くしている。あまつさえ、それをフィンに言ってしまった。
(って、もしかして、フィンがステラとの食事を断ったのは、私が同じ学園にいるせいもあるのでは!?)
「ご、ごめんなさい……。あの、そうよね。愛のない政略結婚とは言え、そりゃ、いい気分はしないわよね」
私の言葉に、フィンは「はぁ」とため息をついた。
それから、そっぽを向いて続ける。
「ちょっと視点に相違があるみたいだね。"愛のない政略結婚"は、父上やルナフィアの視点の話でしょ。
俺にとって、君はただの『婚約者』兼『幼なじみ』だよ。君との婚約を義務だと思って大事にしてるわけじゃない。君との縁だから大切にしてるだけだ」
「ええ。またまたぁ……」
「またまたって何さ。確かに昔は君のことをビジネスパートナーだと思っていたけどね。今の俺にとって、君は大切な存在だよ。恋愛感情とは少し違うと思うけど……。少しは意識してくれないかい?」
そう言って、フィンは困った顔をした。
その言葉に思わず心臓がどきりと跳ねる。──と同時に、前世の婚約者の顔が浮かんだ。
『────弟とできてるなんて、気持ち悪いんだよ!』
私を包丁で刺して、そう言った彼の言葉がフラッシュバックする。
(あ、危ない、危ない。勘違いするところだった。……恋愛はもう懲り懲りなんだってば)
私はそっと胸に手を重ね、自分の混乱を落ち着けるために息を吐く。
そんな様子を見ていたフィンは、心配したように私を覗き込んだ。
「……もしかして、嫌だった?」
「そ、そんなわけないわ! むしろ、世の男性全員にフィンの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだわ」
「……ああ。……。一番爪の垢を煎じて飲むべきなのは君じゃないのかい?」
軽いユーモアに対して帰ってきた、フィンの珍しく刺々しい言葉がグサグサと突き刺さる。




