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宝の中身を山分けしましょう。

「開けるよ? ──せーの!」


 四人の手が一斉に宝箱へと伸びる。その一瞬、教室の空気は止まったかのようだった。 ──蓋が跳ね上がり、中から現れたのは、光を反射するきらびやかな香水瓶が四本。


「これ……香水?」「っ、アストリス様、無言で香水を振りかけるのはやめてください……」「うわ、これ高いやつだ。まあ、特等ってほどじゃないけど」「フローラル、女の子向けだ。ルナフィアにあげる」「お嬢様、私も進呈します」「じゃあ俺も〜」


 アストリスが軽く指先で瓶を投げる。シリウスは丁寧に両手で捧げ持ち、レオは机にカタンと香水瓶を置いた。

 私はその光景を、ふと、デジャヴのように眺めていた。


 そうだ。あった。序盤の方に。

 好感度トップのキャラが香水をプレゼントしてくれるイベントだ。 流れで、結局全部私のものになってしまった。


「レオはいいの? これ欲しかったんじゃなかった?」「う〜ん、当たった瞬間がピークなんだよね。もう満足!」


 レオはにかやかに笑った。


「ありがとう。……なら、他の宝箱もさくっと開けましょうか。……回復薬と……こっちは……」


 ひとつ、またひとつと、宝箱の蓋が開かれていく。 そして──最後の宝箱を開けた、その瞬間。


 ──「パァン!」という小気味良い破裂音とともに、教室の空気が一変した。

 虹色の紙吹雪が、天井高く舞い上がり、ひらひらと私たちの頭上に降り注ぐ。

 私は反射的に手を引っ込めて、そのカラフルなきらめきに目を奪われた。夢の中みたいな光景だった。 ざわめいていたギャラリーも一瞬、息を呑む。

 レオが歓声を上げる。


「──やった、当たりだ!」


 興奮を隠せないまま、レオは身を乗り出して宝箱の中を覗き込む。 だが、箱の中身は──


「……あれ、空っぽ?」「いや、違う。これ、紙吹雪じゃない。──チケットよ」


 よく見ると、床いっぱいに舞っていた紙吹雪は、実は色とりどりのチケットだった。 シリウスが静かに一枚拾い上げ、淡々と告げる。


「“魔法チョコレート交換券”──ですね」

「思ったより庶民的な景品だな……でも、これ何枚分あるんだ? こんなに必要か?」

「いるいる! チョコなんて、いくらもらっても困らないじゃん」


 私はしゃがみ込み、床に散らばったチケットを両手ですくい上げる。 ざっと数えてみても三十枚は下らない。その時、ふと気づいた。

 ──いつの間にか、私たちのまわりに生徒たちの輪ができている。好奇心に満ちた瞳が、一斉にこちらを見ていた。


「……わかった。これ、きっとクラス全員分あるんだわ」


 私の声が静かに響くと、レオが「なるほどね」と満足げに頷く。 でも、その余韻を断ち切るように、担任教師の張りのある声が場を制した。


「──そこまで!」


 ピンと張り詰めた空気に、私は思わず背筋を伸ばす。 担任教師は壇上に進み出て、厳粛な口調で語り始めた。


「宝箱には特別な魔法が施されていました。どの順番で開けても、最後の箱が“当たり”になるようになっていたのです」


 生徒たちが一斉にざわめく。どよめきが波紋のように広がる。


「その宝箱には“収納(アイテム)”と“疾風(ウィンド)”の魔法もかけてありました。今日はこうした楽しい仕掛けでしたが──魔法で“罠”を仕込むこともできる。だから、校内で見つけた宝箱は、絶対に先生に相談するように」


 チケットに印刷されている写真には見覚えがあった。

 きっと、サジのチョコレートだ。昔一緒に開発したチョコレート。

 いつの間にか、きっちりと製品化されていたらしい。

 嬉しいサプライズに、思わず頬が緩む。


「さて、チョコレート交換券の行方ですが……宝箱を開けた君たち四人で分配方法を決めて構いません。多数決でどうぞ」


 一瞬の沈黙。 アストリスが真っ先に口火を切った。


「別に分けなくてもいいんじゃない?」


 どこか投げやりな声で言い放つ。

 続いて、シリウスがまっすぐに目を閉じる。


「ルナフィア様のご判断に従います」


 そして、レオが、明るい調子で手を挙げた。


「じゃあ、俺も〜! ルナフィア様の意見にまるっと賛成!」


 全員の視線が、自然と私に集まる。教室の空気が、そっと張り詰める。 私は息を整え、ほんの少し唇を噛んでから、みんなをゆっくり見渡した。


「……アストリス、本当に私が決めていいの?」


 アストリスは困ったように眉を下げ、苦笑しながら彼は私の髪を手を伸ばす。

 それから、くしゃくしゃと乱暴に撫でた。思わず目を瞑った、


「俺に聞くなよ。……多数決って言ってるでしょ?」


 私は彼の返答にそっと微笑んで頷く。

 それから、手に持ったチケットを胸の前で掲げた。



「──じゃあ、私、みんなで分けたいです」



 一瞬の沈黙の後、教室に静かなざわめきが広がる。 私は思い切って続けた。


「……それと、できれば……私、みんなと仲良くなりたいです。そんなに怖い人じゃないので。

 だから、もしよかったら……これから、よろしくお願いします」


 私はペコリと頭を下げる。

 するとレオが苦笑しながら言った。


「そうそう。勘違いしないであげてね。びっくりするほどお人好しで真面目な子だから」


「レオくんが言うなら……」「というか、まあ、ずっと止めてたし……」と教室中に生暖い空気が蔓延し始める。

 私はその空気がくすぐったくて、温かくて、顔がどんどん熱くなっていくのを感じた。


「……それと!」


 ──私は息を吸って、それから言葉を吐く。


「私のことは。……魔女って呼んでもいいけど、……アストリスのこと、死神って呼ばないで」

「は──」


 その言葉に、アストリスが目を見開く。

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