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賭けましょう。③


 2人は顔を見合せる。レオはにや、と笑い、納得した様子で頷く。アストリスが突っかかるように言う。


「なんであんたの土俵に乗らないといけないの? そもそも箱を開けるためには4人の魔法が必要なはずだけど。それなら4人の同意が必要だと思わない?」

「……わたくしはお嬢様のご意向に沿っているだけで……。そもそも1人で開けられますよ。この箱」


 そう言ってシリウスは、箱に触れ、小さく呟いた。


「"万能鍵(マスターキー)"──」


 ──カチャリ。


 琥珀色の魔法陣が光り、鍵の音がする。

 そして、彼は箱にトンと指で軽く触れる。


 ──カチリ。


 たったそれだけの動作で、箱が意のままに開閉された。


「わたくしの"常時発動魔法パッシブ・マジック"です。触れるだけで、あらゆる鍵を解錠・施錠できます。もちろん、カルテットロックも例外ではありません。

 ──そもそも、わたくしには賭けとやらに乗るメリットなんてなかったんです」


「そういえば、ゲームの中のシリウスはそんな魔法持ってたな」……と私は思い出す。

 レオはキラキラした目で立ち上がった。


「すっげえ! 今度俺と一緒に銀行いかね!?」

「犯罪に躊躇いがない。……駄目です。魔法陣は個人を特定する証拠になりえます。鍵にわたくしの瞳の色の魔法陣が残っているでしょう?」

「なんだぁ〜。じゃあ、逃亡生活前提の最終手段って感じかぁ」


 私はレオの言葉にドン引きしつつ、シリウスを守るように前に出た。

 シリウスは丁寧に私の肩をそっと掴み、後ろに下げた。


「わたくしはそれを最終手段にするつもりもありませんけれど……いかが致しましょうか?

 乗るか反るかはご自由に」


 シリウスの声に、レオが目を細める。アストリスがぼそっと言った。


「……鍵なんか最初っから開けれるくせに、あんたはお嬢様のお友達作りに乗ってただけってことね」


 その言葉にシリウスは、小さく肩をすくめた。


「お嬢様は、"レクリエーション"とやらをしたがっているご様子でしたので」

「シリウス……」

「ふーん。まあ、別にいいけどさ……。でも、この箱の中身なんて検討もつかないんだけど。レオばっかり有利じゃない?」


 アストリスの快諾に、レオがにこりと笑う。


「んじゃ、サービスに教えてあげる。確率としては、食券が4割、回復薬が3割、魔石で作ったアクセサリーが3割ってところかな。先に選んでいいよ。被りなしにしよう」

「確率に偏りがあるけどいいの?」

「情報を出したのは俺だからね。嘘か本当かは分からないだろうし、特別に譲ってあげよう。ただし、1度決めたら変えるのはナシ! お先にどうぞ?」


「じゃあ、食券で」

 アストリスが即答。


「私は……アクセサリーで」

 ルナフィアは迷いながら選ぶ。


「あんたは残った回復薬?」


 アストリスの問にレオが、ふっと表情を崩す。

 レオは、じっと箱を見つめてから、ぽつりと呟いた。


「──"空"」


「え? 外れもあるの?」

 私が思わず聞き返す。

「いや。1度もなかったよ。でもさ、さっきの呪文──あれ、変じゃなかった?」


 レオは誰に言うでもなく、淡々と続ける。


「《パッシブ・マジック》って、常時発動魔法だよね? 呪文なんて唱えなくても勝手に発動するんだよ。なのに、わざわざ唱えた。しかも二度も。……ってことはさ、あれってなにかの演出だよね?」


 その場の空気が、一瞬で張りつめる。

 アストリスが眉をひそめ、「だから先に答えさせたのかよ」と呆れたように呟いた。


「例えば、箱に鍵なんて最初からかかっていなかったのに、かかっているフリをしたとか」


 レオの言葉に、周りの生徒たちが「おぉ」と、感嘆の声を漏らす。完全にアウェイな空気だった。


「つまり──君は中身を当てられないよう、あらかじめ持ってた“空の箱”を見せた。鍵がかかってるってミスリードするために、わざわざ"万能鍵"を使った……」


「あっ……」


 そういえば、シリウスは空の箱を持ってた。突然箱が現れたと思ってたら、そういうことだったんだ。


「そもそも賭けの内容が不自然だ。箱の中身を当てるゲームなら、シリウスも参加すればいい。

 なのに、"推測が外れたらシリウスの勝ち"って、変だよ。まるで中身を知ってるみたいじゃない?」


 レオの目が、いたずらっぽく細められる。

 シリウスはわずかに肩をすくめたが、否定はしなかった。「すげぇ……」と遠巻きにしている生徒たちが声を上げた。


「──推理は以上。中、見てもいい?」


 箱に手を伸ばす。

 パカリと開いた蓋の中には──飴の包み紙が一枚だけ、くしゃりと丸まっていた。


 誰かが息を呑んだ。


「……正解は“ゴミ”でした」


 シリウスは目を伏せ、淡々と告げる。


「じゃあ、わたくしの……勝ちで」


 その言葉を受けて、レオは箱の中を覗きこみ、ふっと笑った。


「うわ……ずっる……」


 レオは飴の包み紙を、つまむように指先でつまみ上げる。しかし、その顔は笑っている。随分嬉しそうだ。

 アストリスが真顔で呟いた。


「──いや、本当に、どっちもずるいが?」

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