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賭けましょう。②

 シリウスがあきれたように眉をひそめ、私の前に出る。

「デート」──そんな単語に、レオを遠巻きに見つめていた女子たちがにわかに騒ぎ出した。レオは慣れっこなのか、全く気にしていない。


「……ソリオ様の報告通りの人ですね。お嬢様には婚約者様がいらっしゃいます。それも王家の方です」

「ごめんごめん。言い方が悪かったね。デートじゃなくて、一緒に遊ぼうって意味!

 行きたいところがあるんだけど、ちょっと出入りするのに"公爵家の身分"が必要なんだよね」


 レオはクスクスと楽しそうに笑いながらそう告げる。

 ──多分、行先は裏カジノだろうな、となんとなく察しがついた。


 裏カジノの出入りは、レオのルートの重要なイベントだ。

 ステラが攻略するのはフィンルートらしいけど……。


(他にも可能性があるに越したことはないだろう)


「……まあ、それでもいいわ」

「……お嬢様?」


 シリウスは、信じられないものを見るような目で私を見つめた。私はシリウスから視線を逸らす。


(ごめんね、ソリオ。もちろん、むざむざ虎穴に入ろうって気はないのよ?)


 だけど、ステラの事情を聞いてしまって以上──できることなら、協力はしたい。


 レオは自身のルートで、自分で裏カジノに出入りしていた。

 その方法とは、『公爵家の弱みを握って揺すって入場券を手に入れた』──というものである。

 当然そんなことは許されるはずもなく──公爵家を利用しすぎた彼は恨みを買い、王国に指名手配されることになる。

 彼のルートではそんな彼と共に、ステラは逃亡生活を送ることになる。──弟の同室の人にそんなあぶない橋、渡って欲しくない。


 レオは『ギャンブル』の結果に異様なほど誠実だ。それがたとえレクリエーションの口約束だとしても、彼は律儀に約束を守るのだと思う。

 シナリオ内でも"トラブルメーカー"の彼の手綱を握るチャンスがあるのは、私たちにとってもメリットになる。

 そうでなくても接点を作れるならそれに超したことはない。


 アストリスは少し考えてから意見を述べた。


「んー、じゃあ俺が勝ったら一年間俺の言うこと聞いてよ。ルナフィア」

「……」


 シリウスがじとっとアストリスに咎めるように目をやる。アストリスは両手をあげながら言った。


「そっちだって1年契約の奴隷でしょ〜? イーブンイーブン。……別にルナフィアじゃなくて、シリウスでもいいよ?」


 私を見て、はぁ、とシリウスがわざとらしくため息をついた。それから、彼はゆっくりと口を開いた。


「構いませんよ。その場合はわたくしのことは1年間使っていただいて構いません」

「シ、シリウス?」

「このまま真面目に報告するとソリオ様に叱られてしまいますし──丁度いいではないですか。お嬢様も学園生活を送るにあたって、"手駒"……お友達は多いほうがいいでしょう?」


 シリウスはゆっくりと私に視線をやって呟いた。


「……この学園は、なんだかお嬢様の敵が多いみたいですし」


 いつの間にか、何人かの生徒が私たちの会話を遠巻きに見つめていた。


「レオくん、何やってるの?」

「よく分からないけど……魔女と死神の奴隷にされそうなんだって」

「え!? どういうこと!?」


(まさかとは思うけど、"魔女"って私じゃないよね……?)


 ああ、どうしてこんなにも大事になってしまったんだろう。私はレクリエーションに真面目に参加したかっただけなのに。


 シリウスはマフラーで口元を隠し、考える。


「それで、"賭け"の方法なんですけど……」


 レオが笑顔でひらひらと手を振る。


「はーい。俺、色々持ってるよ。ダイスにトランプ。ボードゲームは……さすがに授業が終わるまでに決着がつかないかな? 好きなのを選んでいいよ」

「却下。あんたの道具はイカサマが仕込まれてそう」

「えー、そういう発想するやつほど仕込んでたりするけどね? イカサマ」

「お? 経験則か? 知ってるよー。魔法嫌いのギャンブラー、レオ・グランヴェル。"小手先"が随分"器用"なんだって」

「おや、誰かなぁ。俺の噂をしてるの……。そういった場所に出入りしないとわかんないはずだけどなぁ?」


 話している内にギスギスしだした2人に頭を抱える。縋るようにシリウスの方を見ると、シリウスがそっと呟いた。


「人の話を聞いてください。……お互いの持ち物を信用できないなら、その場にあるものを活用しましょう」


 シリウスはそっと宝箱をテーブルに置いた。


「この箱の中身を当てられたら、あなた方の勝ち。当てられなければ、わたくしの勝ち。……それでいかがでしょう?」

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