賭けましょう。①
シリウスとアストリスが、こそこそと会話している。
「……ガチャ?」
「貴族がやってる賭け遊び。知らない? 宝石を買って、それをくじに換えるんだよ」
「……? なぜ宝石を?」
「現金をそのまま使うのは違法だから。“景品”を経由すればグレーゾーンってわけ」
「なるほど……。──それって本当に当たり、入っているんですか?」
その瞬間、横からひょいと声が割って入る。
「あはっ、気になる? 入ってないよ〜。だって、遠隔操作されてるもん!」
レオ・グランヴェルだった。
満面の笑みで、悪びれもせずに話に加わってくる。
アストリスが眉をひそめて低く言った。
「……話に入ってくんなし。てか、それならやらない方がいいよ」
紡がれた言葉は、アストリスにしては珍しく正論だった。
「あは。欲しいものほど手に入らないんだよね。
“物欲センサー”って言ってさ。絶対確率なんて信用できない。きっと魔法で操作されてるんだよ〜、ぜったいに!
──シリウス・スノーホワイトだよね? 興味あるかい?」
「え、今の話を聞いて興味が湧くと……?」
「え、湧いた!?」
「あ、申し訳ございません、はっきり言わなくて……。湧いてません」
「なんだ湧いてないのかぁ」
(……れ、レオって、こんな人だったっけ?)
胸の奥に、既視感のような違和感がじわりと広がる。もう何度も、この感覚を味わっている気がする。ゲームの登場人物はみんなどこかズレているのだ。
原作のレオも、確かに似たようなことはしていた。
でも、それは“魔法使いへの恨み”から来る冷笑だったはず。
目の前の彼は──もっと軽くて、もっと無邪気な感じだ。
(……ヴェルノクの病も、ソリオ曰く、私の小さな思いつきで収まったって言ってたし……。レオのお母さんも無事だったって聞いた)
「──あの、レオって、ソリオの同室なんだよね? 私、あの子の姉のルナフィア・セレシア」
「ん? ああ、君が……。試験の日会ったよね」
レオは目を細めて、軽く口笛を吹いた。
「へー、お姉さん、全然ソリオと似てないね。血、繋がってないんだっけ?」
「そうね」
「顔かわいいもんね。ソリオも過保護になるわけだぁ。お姉さんの方から、『レオくんは私を襲ったりしないから』って言っといてよ」
(ソリオ……一体なにを吹き込んでるの!?)
頭を抱えたくなる。あの弟、やっぱり油断ならない。
私は小さく息を吐いて、少しだけ笑った。
「……はぁ。じゃあ、ねえレオ。せっかく出会ったんだし、仲良くしない?」
「するする。仲良くするよ。
──ひと勝負、終わったらね?」
レオはにっこりと笑い、人差し指を立てた。
「皆は魔法属性のレア度って知ってる?」
「そんなものあるの?」
「希少度の高い順番で、記憶魔法、精神魔法、光魔法──ですね。
珍しいだけで、どれが強いとか、そういうのは特にありませんけれど」
私の疑問に、シリウスが答える。
「そう。その宝箱の解錠条件にはレア魔法が3つ入ってるんだよ。激アツだと思わない? 俺、ずっとその条件で開く宝箱を探してたんだよ」
「"激アツ"ってなんですか?」
「縁起がいいってこと!」
レオは笑顔で人差し指をシリウスに向ける。シリウスは少しびくりとしてから、そっと私の後ろに隠れた。アストリスは納得した様子で呟いた。
「ま、レアな宝箱は簡単に開けられたくないだろうし、解錠条件が厳しくてもおかしくはないか。
……ははーん。あんた、要は賞品を独占したいわけだぁ。それで鼻つまみ物の俺たちに声をかけたと」
「そう! 大当たりの内容は、ウワサによると食堂無料券1年分だとか、金一封だとか、貴重な魔石のアクセサリーだとか……それが4人分だよ?」
「──食堂無料券1年分……?」
「──金一封……?」
二人が割と真剣な声で反応した。なんで私の知り合いってこう、みんな欲望に忠実なんだろう。
私は慌てて笑顔を取り繕って言った。
「ねえ、それ、みんなで分け合った方が良くない……? 私、争いになるの嫌よ」
「甘いねルナフィア! 1つでも嬉しいものが4倍貰えるんだよ? 賭けるしかなくない?」
「その考え方私にはよく分からないなぁ!?」
「ルナフィア、俺、在学中の三年分あればいいから、一年分はいらないよ。だから手伝ってよ。
……なんだっけ? "決闘"で決めるんだっけ?」
「嫌よ! 教室黒焦げになるじゃない!」
「わたくしは……学園生活については、元々旦那様にお金を出していただいていますし……現金以外ならいりませんけど……お嬢様は?」
シリウスは私を伺うように目線をこちらにやった。私は辟易としながら答える。
「なんでもいいわ。というかいらないわ! 私、恨みっこなしがいい……普通に仲良くしたい……!」
「じゃあそうしましょう。お嬢様か、もしくはわたくしが勝ったら全員に賞品を分配します。それで構いませんか? 授業時間も残り少ないですし……」
「シリウス……!」
シリウスの言葉に感動していると、レオが少しつまらなさそうに言う。
「別にいいけどさぁ。リスクが少なくてイマイチ燃えないかな」
「じゃあ……レオ様。負けたら一年間お嬢様の"奴隷"に……いえ、お友達になってください」
「シリウス!?」
「いいね! 楽しそう! じゃあ俺が負けたらルナフィアの奴隷兼友達になろうじゃないか!」
「ああっ、私の友達になることを罰ゲームみたいに言わないでほしいなぁ!?」
「だったら俺も追加注文! ──俺に負けたらさ、ルナフィア。俺とデートしてよ」
「え?」




