宝探しをしましょう。
いたずらっぽく目を細めながら、冗談とも本気ともつかない声で続ける。
「だってさ、悪役令嬢でしょ、あんた」
「先生が見てる前でそんなことできるわけないでしょ! ちゃんと誰かに頼みましょうよ!」
「ああ、じゃあ、先生がいなくなってから? どのグループが開けたか、覚えておこうね?」
「それもうカツアゲよ!!」
「あんたさ、何のために“悪役令嬢”として生まれてきたの?」
「……少なくとも、レクの景品を脅し取るためじゃないわよ……」
少しムキになって言い返すと、アストリスはふっと手を放した。
その動きがあまりにあっさりしていて、逆に戸惑う。
「……真面目だねー、あんたって」
そう言いながら、彼は周囲を見渡す。
その視線の先で、クラスメイトたちはグループを組んで笑い合っている。
「俺はルナフィアがいてくれないとなんも出来ないけどねー。魔法1回使うと気絶しちゃうから」
「もちろん、あなたと一緒に参加する前提よ」
「いやあ、そこは、『私があなたの面倒見る前提なの?』でしょ」
「面倒見て当然でしょ。友達だし。私、このクラスにはあなた以外友達いないし……」
いつの間にか、教室にはにぎやかな空気が広がっていた。
私たちだけが、その輪の外にいる。
「私たちみたいな“余り者”が出るまで待つのはどう?」
「うーん……5人以上で組んでるとこもあるしなあ。魔法の種類は多い方が開けやすいんだろうね。二人で縮こまってるの、俺たちだけ」
アストリスは少し考えてから、いいことを思いついたように。
「……あ。先に宝箱を確保できるだけ確保しちゃう? それなら協力せざるを得なくなるかも」
「だめ。レクリエーションで裏技はなし」
「え〜、企画が悪いんだってば。……せめてあと一人いたらなぁ。グループメンバー2分の2鼻つまみ物じゃ交渉しようもないや」
「あと一人……」
私はそっと頭にとある人を思い浮かべ、顔を上げた。
「一人だけでいいなら、私、宛てがあるわ。シリウス──」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
耳元で囁かれた声に、首筋の産毛が逆立つ。
「わっ!?」
反射的に振り返ると、そこには、黒いマフラーを巻いた、褐色の少年が静かに立っていた。
全身を黒で包んだその姿は、まるで影のよう。
だがその中で、爛々と光る猫のような瞳だけが異様に目立っている。
暗殺者──シリウス・スノーホワイト。
いつからそこにいたのかも分からない。けれど確かに彼は、私のすぐ背後にいた。
「……シリウス、いつからそこに?」
「はぁ、クラスメイトと親睦を深めたいとは思わなかったので、気配を消してその辺に……。一応教師から注意されないよう、その辺で空箱だけ拾って、それで終わりですね」
「やる気ないなぁ」
「アストリス様には言われたくはありませんが……」
ぼそりと返したシリウスは、無造作にマフラーで口元を隠したまま、すっと私の足元を指さす。
「お嬢様。足元に落ちていますよ。宝箱です」
「えっ……!? あ、本当だ……!」
私は慌てて机の影を覗き込み、小さな宝箱を拾い上げた。表面には四つのルーンが刻まれていた。
「属性は……光、水、記憶魔法、精神魔法……」
「俺が持ってるのは火と光と……あと、初級なら記憶魔法が使えるよ」
アストリスがあっさりと手を挙げて言う。
「精神と風なら」
シリウスが静かに補足する。
「私は……光魔法だけ」
三人の視線が自然と宝箱へ集まった。
足りないのは──水。
「じゃあ、後は水魔法が使える人がいたら、開くのね?」
私は教室を見渡しながら考える。
その間にも、教室中はにぎやかさを増していた。
「光魔法持ってる人、こっち来てー!」
「誰か水属性いない!? あとひとり!」
「宝箱、もうないかも〜!」
声が飛び交い、あちこちで魔法が弾ける光が見える。
レクリエーションは、もはや小さな戦場のような熱気を帯びていた。
「新しいお方、わたくしが連れてきましょうか? お二人と違って警戒されていませんし」
「お、ナイスアイデア〜」
「騙し討ちみたいにならないかしら……でも、ううん。このままじゃできる友達もできないもの。出来れば女の子……は、可哀想か」
「──いいねぇ、それ、俺じゃダメかな?」
その声に、私は反射的に前を向いた。
──レオ・グランヴェルが、まるで最初からそこにいたかのように、自然にその場に立っていた。
彼は手元の宝箱を、指先でくるくると器用に弄ぶ。
金属の蓋がかすかに鳴るたび、整った笑顔が、何かを試すように揺れている。
「普通に盗み聞きすんなよ」
「箱、もうそろそろ全部なくなるからさぁ」
「はぁ……」
「この箱は土と光と精神と水。こっちは火と風と光と土。開けられるよね。……開けるの手伝ってよ」
「意外ですね……。レオ様であれば、人望ならいくらでもありそうなのに、わざわざわたくし達に声をかけてきたなんて」
「うん。協力してもらって、いくつかはもう開けたよ。箱の中身は、全部4人分。金券とか、魔石とか……まあ、オマケだよ」
ふっと、レオは宝箱を持ち上げて、こちらに片目を向ける。
「面白いよねぇ。──まるで、“ガチャ”みたいじゃない?」
その瞳は、怪しく緑色に光っていた。
「これは俺の勘だけど……担任が言ってた"大当たり"はまだ出てないと思うんだよね。どれも似たり寄ったり」
まるで魔石に魔力が宿ったように、じわ、と内側からにじむような光。
「ね、賭けをしない? 勝った人が中身、総取り──ってことで」
バチ、と空気が重くなるのを感じた。
私は小さくため息をついて、肩を落とす。
「な、なんでここの人たちって……
レクリエーションのルールの裏かこうとするの……?」
でもまあ……勝てる気がしないのは、ちょっと悔しい。




