部屋割りを決めましょう!
***
「それじゃあ、手っ取り早く決闘で勝負をつけるのはどうでしょうか?」
にっこりと笑うリリィに、困った顔で笑うステラと私。学園から与えられた一人部屋の中に、私たち3人はいた。
入学試験後、私たち一人一人に部屋が与えられた。しかし、ひとつ問題があった。
今年の女子は学年一位が二人もいたのだ。そしてその二人が、私とステラだった。
先生曰く、「好きな方法でこの部屋の主を決めてください」とのことだ。
そのため、私たちのうち一人と同室になるリリィも加わり、私たちは三人で話し合いを始めた。
──それから、今に至る。
「ごめん。俺、別に強いわけじゃないんだけど……」
ステラは少し困った様子で、頭を掻きながら言った。
「でも、ステラさん、見事に精神魔法で相手を翻弄していましたわよね。得意魔法……『魅了』でしたか? あれ、素晴らしかったですわ! 対戦相手が自ら魔石を破壊するなんて、素晴らしい魔法ですわ!」
「ああ、あれは……緊急事態じゃなければ、女の子相手には使わないようにしているんだ」
「そうなんですの?」
ステラはほんの少し視線を外し、ふっと息をつく。彼女の声は、女の子には似つかわしくないほど低く、ハスキーな響きがあった。得意魔法も、ゲームの中で見せていたものとはまるで違う。彼女は、まるで別人のようだった。
(本当に、ステラが転生者だなんて……)
アストリスではなく、ステラが転生者であることを、ソリオから教えてもらった。そして、ステラが目指しているのは、フィンのルートだということも。
ソリオは言っていた。「ステラアストリス含め、誰にも、姉さまが『転生者』だってことは言わないでほしい」──と。
だけど、どうしてそんなに必死に隠すのか、私はわからなかった。
「というか、話し方が全然違いませんこと?」
「男所帯で育ったんだよ。男がいる前では猫かぶってるけど、こっちが素」
「あら、あたしたちには素を見せてくれるのね。嬉しいわ!」
「随分優しい解釈だな……。ありがとう」
「あたしだって乙女ですもの。男の人には可憐でお淑やかに見られたいわ。それって普通のことじゃないかしら? ねえ、ルナフィアさん?」
「え、ええ……でも、私は今のステラもとても素敵だと思うわ。なんだか、すごく格好いいもの」
「……そう?」
ステラは髪の毛を指先でくるくると巻きながら、少し照れたように微笑んだ。
彼女の言動や仕草に、とくに悪意は感じられなかった。むしろ、どこか親しみやすい。
同じ“日本人”だったからだろうか。会ったばかりなのに、なぜか懐かしいような気がする。
(もし許されるなら──もっと、仲良くなってみたい)
前世の話を、彼女と共有してみたい。
日本のこと、日常のこと。どこに住んでいたのかとか、見ていた番組だとか、100キスのゲームについてだとか。……そういう記憶を語り合えたなら。
だけど、ソリオがあれほどまでに警戒している以上、それは軽率すぎる行動だ。
彼があんなふうに強く制してきたのは、きっと何か大きな理由があるはずだ。
(裏切りたくない。……それに、裏切ったら、”接続”ですぐにバレてしまうし)
日課の約束──彼との定期的なスキンシップは、相変わらず続いている。
だけど、ふと思ってしまう。
私、このままでいいのだろうか。
小さく息をつく。胸の奥にひとつ、重たい思いが浮かんだ。
ソリオが、私に恋愛感情に近い好意を持っていることを、私はようやく自覚した。
だけど、それは私が彼が寂しいときに優しくしてしまった結果だと、心のどこかで思っている。こうなることは、私には予想できたはずなのに。
それが、無責任だとわかっているのに、どうしても逃げてしまいたくなるし、こんなことを考えている自分に少し嫌気がさす。
無理に距離を置いて傷つけたくない気持ちもある。あの子を愛おしいって思う気持ちだってしっかりある。
「……ルナフィアさん?」
ステラの声が、遠くから響いてくるようだった。
意識がふっと戻り、私はハッと顔を上げた。視線の先には、心配そうにこちらを見つめるステラの姿。
「ご、ごめんなさい。……部屋割りの話だったわね」
言いながら、少しだけ肩の力を抜く。
「私は、二人部屋で構わないわ」
「え……本当に? 助かるけど……無理してない?」
「ええ。リリィと一緒なら、きっと賑やかで楽しいと思うし」
そう返すと、すぐそばでリリィがぱっと笑顔を咲かせた。
「あら! あたしも楽しみですわ!」
明るく弾んだ声と笑みが、まるで部屋の空気を和らげたようだった。
私は、ほんの少しだけ息を吐く。張り詰めていた心の糸が、静かに緩んでいくのを感じた。
ステラもまた、安心したようにほっと息をつき、目を細める。
「ありがとう、ルナフィアさん」──その小さな声が、妙に懐かしく思えた。
……前向きに考えよう。少なくとも、ステラは悪い子じゃない。
彼女が目指しているのは、第一王子にして――私の婚約者でもある『フィン』のルート。
わざわざ悪役令嬢になる道を選ぶなんてまっぴらだし、そうじゃなくたって友達の恋は応援してあげたい。
(でも、そうなると――やっぱり言われちゃうのかしら)
”100キス”みたいに、『君との婚約は破棄する』って。
フィンに対して、恋愛感情はない。これははっきりしてる。
というか、そもそも“恋”そのものに、私は興味がない。
……なのに。
彼のいたずらっぽい顔を思い浮かべた瞬間――胸の奥が、ほんの少しだけ、チクリと痛んだ。
(……友達に彼氏ができて、急に距離ができてしまった時みたいな。そんな、置いていかれるような気持ちね)
そのとき、リリィが楽しそうに言った。
「んー……これで解散というのも少し味気ないですわね。……せっかく集まったんですもの。『恋のお話』でもしませんこと?」




