◆ギャンブラー
「俺さぁ、"常時発動魔法"持ちなの。その名も、"簒奪銃"!」
「知ってますよ。銃で撃った相手の運を吸い取る魔法。あなたは拳銃を魔道具にしてる。でも本当は違う。……銃を常に使うことで、銃を使わないと運は奪えないと誤認させるため。
本当はボールだろうと石ころだろうと、あなたは、『相手になにかぶつけた』時点で相手の運を奪える」
「……なんで知ってんの?」
「先に言っておきますね。1度でも僕に何かぶつけたら、あなたの魔法の特性を全生徒の前でばらしますよ」
関わり合いになりたくなくて、そう冷たく言ったのに、レオはむしろ目をキラキラと輝かせた。
僕はそこで、完全に立ち回りを間違えたことに気づいた。
「ねえお願いお願いお願い! 意地悪しないで、一緒に組もうよ。俺たちいいコンビになれるって。ね?」
「あなた、イカサマするじゃないですか。犯罪には手を貸しません」
「大丈夫! 俺、違法カジノしかいかないから!」
「なおのこと犯罪だし危険じゃないですか」
淡々と返すと、レオは「うーん」と考える素振りを見せる。その後、自身のポケットをまさぐった。
「じゃあさ……1から6で好きな数字を言ってよ。サイコロを振ろう。その出目以外が出たら俺は諦めるよ。……当たったら、それは運命ってことで」
「あなたは重心が傾いてるサイコロを6つ持っています。それぞれ指で触れるとわかる印が着けてあります。僕の数字を聞いた後に、ポケットから目当てのサイコロを取り出すんですよね」
レオはポケットから手を出して、にこりとわらう。
「ならさ、トランプでもいいよ? それなら52分の1! ソリオが持ってるカードを当てられたら俺の勝ち。それ以外はソリオの勝ち!」
「そのトランプ、カードの裏に小さなマークがありませんか。そのマークを見れば表のカードがわかるとかじゃありませんよね」
すぅ、と息を吸ったあと、レオは両手を上げ、こちらに向かって手のひらを見せた。
それから、わざとらしい満面の笑みを浮かべて続ける。
「……学生らしく枕投げで勝負しない? それなら運とか関係ないでしょ? 先に枕ぶつけたら勝ち!」
「そうやって僕の運を奪おうとして……。っていうか、あなた、イカサマ道具幾つ持ってるんですか。人から運を吸い取れるくせに……」
「んー……やっぱり分かっちゃう? 運否天賦は最終手段が俺のポリシーなの。運なんて信用出来ないじゃない?」
僕は呆れて返した。
「ギャンブル、向いてないんじゃないですか?」
その言葉に、レオは突然真顔になって固まる。
そして、笑顔を引き攣らせ、まるで子供が言い訳をするかのように僕に言った。
「だ……だってこの世界には魔法があるんだよ? みんなイカサマしてるに決まってるぜ。信用できるわけなくないか?」
「そこまで分かってるなら、やめた方がいいんじゃないですかね。そもそも儲けられないシステムなんですから」
「違う違う。正義のためなんだよ。正義のため! 俺が潰すのは悪徳カジノだけ!」
「でも、あなた、僕をはめようとしてたじゃないですか」
「俺だって、好きでやってないよ!?」
そう言ったレオの目はぐるぐると渦巻いていた。狂人じみたその目に、少し体を仰け反らせる。
レオは、少し青い顔で片手で軽く頭を抑えながらこう言った。
「そうだ、なんでこうやって君を誘ってるんだろう……。賭博は1週間前にやめるって決めたのに……」
「……」
「やめられないんだよ。やめようとしたら手が震えるんだ……。カジノコインが減りも増えもしない期間が1週間続くとぶっ倒れそうになるんだよ!」
「その話を聞いて、絶対に賭博には手を出さないでおこうと思いました」
「た、楽しいのは、楽しいんだよ? 悪くないと思うんだよなぁ。仲間になってくれれば、借金した時にお互いに貸しあえるじゃん。リスク分散?」
「分散どころか、むしろお金を使っている感覚が薄れて危ないのでは……もうこの期にやめたらいいんじゃないですか。そういうの」
「なんて言うかさぁ?! 俺にとって賭博は……こう……呼吸? みたいな感じなのよ。ソリオだって二酸化炭素排出しちゃうってわかってても、呼吸やめらんないでしょ?」
「その例えはよく分かりませんけど……とりあえず、今日は諦めてください」
「えー……」
(設定が、破綻してる……)
過去が改変されたのに、レオのギャンブラーの設定は変わらない。
そもそも原作でのレオがギャンブルにのめり込まざるを得なかった理由は至極真っ当……かは置いておいて、まあ一応納得できるものだった。
少年期に稼ぎ頭の母が死に、レオは金も保証もない世界で、生き延び、成り上がらなければいけなかったからだ。
そもそも彼の母が生きているなら、レオが無理に金を稼ぐ必要はない。というか彼は、必要に迫られてもいないのに、どうしてギャンブルなんかと出会ったと言うんだろう。未成年だぞ?
ただの賭博ならまだ救いようがあるが、彼が得意とするのは”イカサマ”である。ちょっとそれは、擁護するのが難しい。
僕は、この世界の歪みに気づいてしまって、だんだん頭が痛くなってきた。枕に顔をうずめる。
思い出すのは、昨日接触してきたアストリスのことだった。
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