◆レオ・グランヴェル
ルクサリア魔法学園の寮には特別なシステムが存在する。
『成績絶対主義』と呼ばれるこのシステムでは、成績の優秀な生徒ほど質の高い生活環境を得ることができる。
具体的には、1年生の部屋割りは入学時の成績で決まり、2年生と3年生は前年度収めた成績で部屋が決まるのだ。学年一位は一人部屋、学年二位と三位は二人部屋が与えられ、それ以下は三人部屋となる。
例えば、ゲーム内の部屋割りは次のようになっていた。
男子学年一位の一人部屋は、ソリオ・セレシア。
男子学年二位と三位の二人部屋は、レオ・グランヴェルとシリウス・スノーホワイトが同室。
また、女子寮のリリィとステラは女子学年二位三位で二人部屋に割り当てられる。リリィはこのゲームにおける、主人公の親友的な存在だ。
しかし、現実の部屋割りはゲームとは異なる。
男子学年二位と三位は二人部屋は、ソリオ・セレシアとレオ・グランヴェルが同室。
男子学年一位は男子一人部屋で、アストリス・ノクターンがその部屋を得ている。
───つまり、ソリオは成績でアストリスに負けたのである。
***
「はぁ……」
寮に持ってきた荷物を整理していると、視界に二段ベッドが目に入る。思わず口からため息が漏れた。
「なんでそんな暗い顔してるんだよ、仲良くしようぜ?」
レオはそんな僕を怪訝な顔で見ていた。僕は息を吐くように呟く。
「……一人部屋前提で家具を買っていたんだよ」
「すげえ自信だな……。まあ、ドンマイ? アストリスってさ、筆記で満点取ったらしいぜ。実技も……まあ、そりゃ……あんな魔法ぶっ放されたらなぁ」
レオの慰めの言葉は頭に入ってこない。想像以上に、僕は落ち込んでいるらしい。
別にそこまで自信過剰だったつもりはない。ただ、ゲームの中の僕が一人部屋にいたものだから、完全にその気分で計画を立てていた。
せっかくだから部屋に姉さまを招こうだとか、それなら部屋のレイアウトをどうしようかと考えていた時間を考えると、思い上がっていた自分が少し恥ずかしい。
「ベッドどっちがいい? 俺上」
「上」
「自己主張する元気はあるみたいだな。平等に、コイントスで決めようぜ。裏? 表?」
そう言って、レオは銀のコインを取り出す。見慣れないデザインのコインだった。
彼は慣れた手つきでコインを指で弾き、手の甲に隠す。
僕はその動作に少し呆れてしまって、思ったことがそのまま口から零れた。
「……あなたって、相変わらずそういうのが好きなんですね」
「え? なんの話?」
レオは怪訝な表情を浮かべる。
バッドエンド『復讐』。レオは、姉さまが1番最初に消した”破滅の可能性”に関係している。
ゲームの世界では、ヴェルノクとルクサリアで起きた国交断絶により、母を失ったレオ。彼が、ルナフィアを誘拐、監禁し、王国に対して復讐するルート。
あれが起こる可能性は、最初の王子とのお茶会で潰された……のだと思う。少なくとも彼から、母を殺した魔法使いへの嫌悪は感じとれない。
僕は淡々と、姉さまの記憶から推察できる情報を並び立てた。
「それ……僕たちに馴染みのない……だけど、あなたが持っていてもおかしくないコイン──例えば、あなたの故郷の……今の、じゃないでしょうね。昔の硬貨ですか?」
「!」
「どうせ、裏表がわかりづらいデザインなんじゃないですか?
僕がどっちを選ぼうとあなたは自分が当てたことにする。……あなたがやりそうなことは、そんなところでしょうか」
「え、……接続だっけ。心を覗く《常時発動魔法》……。でも俺、君に触ってないよな?」
「触っていません。どうやら当たりのようですね。不正がバレたのであなたの負けです。これから出し抜こうとするのはやめてくださいね。上、もらいます」
レオの返答も待たずにベッドの上に上がり、問答無用で荷物を置いた。他人が上にいるのは居心地が悪い。
そのままベッドに沈む。心做しか硬い気がした。ちなみに、学年一位はキングサイズのベッドを独り占めである。いきなり喪失感が襲ってきて、枕に顔を埋めた。
(ああ、せめて前向きに考えよう)
同室の相手がシリウスじゃなかったのは、不幸中の幸いだった。あいつが同室にいたら、ずっと気を張らなきゃ行けなくなる。
レオはしばらく考え込んでいたかと思うと、唐突になにか思いついた様子でベッドのハシゴを登る。
彼はにんまりと笑いながら、ベッドの縁に腰かけ、僕の顔を覗き込む。
「ソリオ、ソーリオ。ね、カジノとか興味ない?」
「ありませんけど」
「えぇ、行こうよ。一緒にさ。……きっと向いてるよ?」
即答で断ったのに、楽しげに出されたのはろくでもない提案だった。僕は少し考える。
「レオくんって……お母様はご存命ですか?」
「うん? 超元気だけど」
姉さまの行動で、設定は変わったらしい。
原作だと、レオは母親をルクサリアに間接的に殺された復讐心で、魔法を使って荒稼ぎしている国中のカジノを潰して回っていた。
レオは楽しそうに話を続ける。
「知ってる? この学園の地下には、生徒が運営してるカジノがあるの。と言っても、もちろん無策で挑むわけじゃない。勝算があるんだよ!」
(……その設定がなくなったら、いよいよただの女好きのギャンブル中毒だな……)
僕は半ばあきれながら、興奮するレオを見つめていた。




