◆大嘘 *第一部完
「勘違いするなよ。別に同性愛者ってわけじゃない」
「……なんでですか?」
「女神から神託を受けたんだ。……ゲームをクリアすれば、元の世界に帰れるって」
ステラは視線を逸らす。僕は彼女の言葉が意外に思って、顔をあげた。
ゲームをクリアすれば元の世界に帰れる、という情報も初耳だが──。
「あの……戻りたいんですか? 元の世界……」
「そりゃ、普通そうだろ。姉さんもこの世界にいるって話だから、一緒に戻れるかもしれないし……」
『姉さん』、という言葉を聞き、胸がズキリと傷んだ。だけどそれは表に出さず、「姉さんが……さっき言っていた"ルナ"って人のことですか?」と問いかける。ステラはコクリと頷いた。
「女神から……姉さんも、この世界のどこかに転生したって聞いた」
「……」
(あの女神……余計なことを)
僕は内心毒づく。ここからどうしようと考えていると、後ろから声が聞こえた。
『ねえ、ソリオ・セレシアぁ、いいこと教えてあげますわ』
(げ……)
『うふふ。あなたが呼んだんじゃないですか。さっき神託で』
嘘だ。さっき魔法を唱えてから、30分以上は時が過ぎている。ここに現れたのは、ただの気まぐれだ。
案の定、神託が使える僕以外に女神の声は聞こえていない。
嫌な気分になって、僕は思わず眉を潜めた。
「どうした?」
ステラがこちらを怪訝な顔で伺う。僕はなんでもないと首を振り、笑顔を作った。
『ステラ……星夜は死んだって言ったけど、あれは半分嘘ですわ。彼って今、植物状態なの。その子の魂をちょちょっとこの子に入れたの』
「とにかく、ゲームをクリアするなら第一王子ルートだ。難易度が低いし、そのルートがバッドエンドでも一番人的被害が少ない」
『だから、クリアすれば彼は元の世界へ戻れる──そう伝えましたわ。わたくし、実際そうするつもりなの』
その言葉に僕は冷や汗をかきながらも、必死に反応を抑え込もうとした。
「質問質問。なんで俺じゃ駄目なんだっけ」
『だけど、芦屋瑠奈は完全に死んでいる。無理よ。
わたくしの力でも、彼女を元の世界へ戻すことはできないわ。教えたら面白くないから、伝えていないけれど……』
(邪神……)
ルビナは、本当にどうしようもない邪神だ。それを僕に伝えて、この場を引っ掻き回そうとしている。
「お前のルートは嫌だ。バッドエンドで人が死ぬ」
「俺って人殺すんだぁ。怖いな」
「ああ最悪だ。女を食い殺すんだよ。女に被害出るのは嫌だ」
「ステラってシスコンだからさ、女の子が傷つくのは地雷なんだって」
ステラはぎろりとアストリスを睨んだ。アストリスは薄く笑ったまま両手をあげて降参のポーズをする。
一方的に嫌ってはいたものの、やっぱり、悪いやつには思えない。
「なあ、協力してくれたら、お前も元の世界に帰れるかもしれない! それにお前って、"神託"が使えるんだろ? それなら、あの女神とももう一度交神できるかも……」
「!」
その提案は、まるで運命を左右するような言葉だった。僕はすぐに自分の中で情報を整理し始めた。
──悪いけど、今は御霊の思惑に乗らせてもらう。
正直言って、フィンとステラがくっついてくれるなら、僕としては万々歳なのだ。
(というか、彼には元の世界で生き残ってもらわないと困る)
そうじゃなきゃ、彼女は何のために死んだって言うんだ。
「もちろん、……手伝いますよ。フィンルートに入るの。僕だって元の世界に戻りたいですし」
笑顔で彼女にそう告げた。彼女はうれしそうに微笑む。
僕が神託の役目を任せられるということは、ルビナの言葉をいくらでも捻じ曲げられるということなのだ。それほどいい条件はない。
「というかいっそ、逆ハーレムルートを目指しませんか? 同時攻略しましょうよ。シリウスとサジあたりはどうです?」
僕の提案は軽く、半ば冗談のように聞こえるだろう。しかし、ステラの表情には困惑が浮かんだ。
「さ、サジはともかくシリウスは嫌だ……あいつのバッドエンド、女死ぬだろ……」
その言葉に僕は、少しだけ考える素振りを見せてから、少し笑って答える。
「じゃあせめて、シリウスに"人は殺すな"って言ってくれません? それで回避できるでしょう」
「そもそもあのルナフィアじゃ無理だろ、俺がシリウスと出会うの……」
「僕があなたに差し向けてあげましょうか? 保険ですよ」
「……」
その言葉に、ステラはしばらく黙ったまま、手のひらを見つめる。フィンとの出会いが空振ってしまったことが、彼女の焦りに響いているらしい。
あははは。
ああ、だんだん楽しくなってきた。
──こいつには、この世界をクリアさせてもらう。
そして、安全に恋敵ごと排除してもらう。
全員の意識がステラに向けば、姉さまを心配する必要なくなる。
皆が、ステラに夢中になればいいんだ。
僕は静かに、心の中でその計画を練り直していた。
だが、それはもはや「計画」などという言葉で表現できるような生易しいものではない。
あの女神の声を聞いて、嘘をついて、僕の中で何かが決定的に変わった。
(僕はそれでも、彼女と恋をしたい)
ああ、どうか──ステラ。
(僕の姉に、婚約破棄をさせてくれ)
もう後戻りはできない。
僕はステラの未来を、無意識のうちに選ばせる。
どうせなら、ハッピーエンドがいい。
ただ、僕の心の中にはひとつだけ引っかかるものがあった。
「彼女にとって、それが幸せだろうか?」──その問いが、かすかに心の奥にひそんでいた。
それに対する答えは決まってる。こうだ。
(他の誰でもない──僕が、姉さまを幸せにするんだよ)
すべては僕の手の中にある。
僕は目を閉じ、意識を集中させる。
その瞳の奥に映るのは、大好きな彼女の笑顔だった。
僕はとりあえず、ステラとアストリス、両方と1人ずつ話すことにした。
これにて第一部終了となります。
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