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もう一度、王子様とお茶会をします。③

(──って、私、何を言ってるのかしら……! ソリオは心を読まれたくないって言ってたじゃない!)


 言ってしまってから、私は自らの失言に気づいた。


「あ、あの、ソリオ……嫌だったらいいのよ?」


 ソリオに逃げ道を作ろうとすると、すかさずフィンが言った。


「大丈夫だよ。大きな揺らぎ以外聞こえないからさ。僕もさっきの状態がどこまで聞こえたかわからないけれど──どこまで聞こえたの?」

「……。あんまり、聞こえなかった、かもしれません」

「それは嘘。顔を真っ赤にしていたじゃないか」


 ソリオは少し拗ねたような顔で私達のやり取りを見つめていた。

 私はソリオに助けを求めるように目を瞑り、手を差し出す。


「大丈夫だよ、姉さま……ほら……」


 ──ソリオは困った顔をしてから、ゆっくりと、ぎゅっと、確かに、私の手を繋いだ。


『かわいい──』


 小さくて控えめな、彼の声がそっと響いた。


『手──小さい──温かい──柔らかい──』


「〜っ!」


(な、なんて恥ずかしいことを考えているんだ。この子は!)


 私は思わず手を引っ込めそうになったが、ソリオが傷つきそうでそれをためらう。


『──この声────どこまで聞こえてるんだろ──別のことを考えよう──』


 その後、若干のノイズが走る。多分、魔法の計算式か何かが私の頭の中に響いた。

 何を言ってるかはあまりわからない。


『──────どうしよう───聞こえてくる──────姉さまの声が聞こえてくる──────』


(ああ、そうでした!)


 ソリオには私の心も読み取られてしまうんでした!!


 私は慌てて別のことを考えようとした。

 その奥から、声が聞こえてきた。ソリオの声だった。


『──好き。────好き──好き────』


 ソリオの声が、私の頭の中に響く。最初は小さな声だったが、だんだんとその響きが私の胸を突き刺すようになった。

 私の顔まで釣られて真っ赤になるのが分かる。どうしよう。

 逃げられない。──逃げたく、ない。


 だって、その言葉は、あまりにも嬉しくて──。


(──もっと、聞きたい)


『すき──すき、──かわいい──、したい────』


 心臓が激しく打つのが、耳まで響いてきそうだった。

 ソリオの声が私の中で鳴り響く度に、意識がどんどんと遠くなっていくような感覚がした。

 ソリオは顔を真っ赤にしたまま、相変わらず目をぎゅっと瞑っていた。

 聞こえてくるのは、また、魔法の計算式……。


『──ああもう、うるさい──! ()()()()()()! ──"毒見"の報酬の話なら、後で──』

(え? ──"シリウス"?)


 そう思った時、ソリオがハッとした様子で、慌てて私から手を離す。


「ど、どうやら、……ちゃんと、聞こえているようですね……心の、声……」

「へえ。そうなんだ。サジに伝えておこう」


 フィンとソリオが何やら話をしているが、頭に入ってこない。


(──シリウスって、暗殺者シリウス?)


 私はゲームの記憶を思い出す。

 暗殺者シリウスって、別に、ルナフィアから派遣されるまでソリオと関わりなかったよね……。

 なのに、どうして彼が、今、ソリオの心の中に登場するの?


(毒見……毒見って、さっきの?)


 私は紅茶をちらりと見る。そういえば、さっきの特徴的な声はシリウスのそれだった……ような気がする。


 ……もしかして、ソリオはソリオで、なにかしら裏で暗躍してる──?

 その考えが私の頭に浮かんだ瞬間、胸の奥がひどくざわつく。


 それから、あの夜の誓いを思い出してしまった。

 ──並べられた、あの言葉の違和感。

 ──私を置いて、彼はなにか、危険なことをしているんじゃないか?


「ルナフィア」


 フィンの声が聞こえた。

 手を繋いだ時の響くような感じじゃなくて、それは現実の声だった。

 フィンはさっきとは打って変わって、私を心配そうな顔で覗き込んでいた。


「ごめんね、ルナフィア。意地悪をしてしまって……」


 その表情は、フィンルートの優しい王子様のそれだった。

 恋なんてもうどうだっていい──そう思っていたはずなのに、その端正な微笑みには思わず胸が高鳴ってしまう。

 視界の端のソリオはなぜかフィンの顔を苦々しげに見つめていた。


「い、いえ……」

「本当、そんなつもりはなかったんだ。サジの薬を渡したらそれで終わるつもりだった……。毒をいれたかもなんて言われて怖かっただろう?」

「ううん。全然。……むしろ、二人の心を覗き見する体験は少し楽しかったです」

「! うん。魔法って、楽しいだろう?」


 フィンはぱあっと笑顔になる。

 友達と好きなものを共有したような、そんな邪気のない笑顔だった。

 つい、一気に毒気を抜かれてしまう。子犬のように純粋な笑顔だ。


「ねえ、ルナフィア、良かったら魔法学園に通わないか? ずっと思ってんだ。ルナフィアって、すごく魔力が大きいんだ。それなのに魔法を使わないの、勿体ないなあって……」

「そ、それは……」


 ──私がどうしようか考えていると、ふと、ソリオがいつも使用人の身体に触って魔法の出力を訓練していたことを思い出した。


「……魔法って、学んだら、出力もコントロールできるんですか……?」


 私は、呟くように浮かんできた言葉を並べた。


 ──ルナフィアの身体には、"嫉妬の魔女の素質"がある。

 ルナフィアには豊かな魔法の才能と、チートじみた無限に近い魔力があった。だけど、ルナフィアは魔法を男や兵士の使うものと見下して、一度も学ぼうとしなかった。

 それ故に、ルナフィアはコントロール不可の魔力が暴走し、皆を危機に陥らせるのだ。


「ああ。もちろん。すぐに制御できるようになるだろう」


 フィンは少し考えてから頷く。

 私は食い気味に、思ったことをそのまま口に出してしまう。


「だ、だったら通うわ! 私も、魔法学園に通う!」

「!」


 その言葉が私の口からこぼれた瞬間、胸の中で何かが弾けたような気がした。

 フィンもソリオも、驚いた顔で私を見つめている。


 ああ、なんだ。簡単なことだ──。


(私も、魔法を学べばいい!)


 そうしたらきっと、主人公(ステラ)たちの動向も直接うかがえるわ。

 ソリオにそこまで頼り切りにならなくていい。

 ソリオが一人で危険なことをする可能性だってきっと減る!


(それで、私は──姉として、ソリオの学園生活をサポートしながら、裏で破滅ルートを直接回避するんだ。──完璧な計画だ!)


 その思いが胸に広がり、私はしばらくの間静かに瞳を閉じた。

 これで私は、また新しい一歩を踏み出すことになる。

 恐れと希望の混じったその決意に、自分でも少し驚くほどだった。


「──だから──フィン、ソリオ、私に魔法の勉強を教えて……!」


 その決意を声に出した瞬間、まるで全てが一気に清々しくなったような気がした。2人は目を見開く。

 新たな扉が開かれる音が、私の耳にまで響いて来るようだった。

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