表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/65

◆暗殺者③

 ──僕は息を吸う。こいつは駄目だ。


(早くしつけないと)


()()()。上下関係がわかってないみたいだな。シリウス」


 わざとプライドを崩すように呟いたその声に、シリウスは何の躊躇いもなく、その場に跪いた。

 目すら逸らさず、音も立てず、ただひざをつく。


()()


 シリウスは、ごく自然に、僕の手のひらに手を重ねた。

 冷たい。血が通ってるのかすら怪しい。


 僕はその手を、握った。跡がつくほど、ぎゅっと。

 そして、なるべく威厳を保つように、笑いながら言った。


「シリウス・スノーホワイト? 僕の頸動脈に、そんなに惹かれますか?」

「……癖なんです。他意はなく……。……急所ばかり目がいくんです。なにかあった時、行動に移せたほうがいいので」

「そうですか。お前の実家も、拠点も、弟妹のいる場所も、全て把握済みです。守りたいなら、黙って従いなさい」

「……は」

「姉さまに爪一本でも触れたら──その瞬間に協力関係は終わりだ」


 シリウスは目を伏せたまま、まるで言い訳をするように口を開いた。


「心の中の、映像は……本気ではありません。……心を読まれるのって、初めてで……。少しくすぐったいですね。

 あなた様の言葉が“本物”か、試したくなってしまって──つい」

「あはは。試すのはいいけれど──その瞬間、契約は破棄です。

 シリウス。良いご家族ですね。僕に見つかるような無能を、セレシアが雇い続ける余裕があることを願いますよ」


(こいつは、今、セレシア家に弟妹を人質に取られて、奴隷契約を交わしているんだっけ──)


 そう思うと、少し罪悪感で心が痛む。

 ああ、嫌だ。こいつらの裏事情(ルート)を全て知ってしまっているのは──。

 シリウスは目を伏せ、小さく呟くように言った。


「……ええ、前向きに……検討、いたします。……別件で報酬をいただけるのならば」

「ああ、今後は口じゃなく金で解決してくれ。姉さまを守ったら追加でボーナスをやる」

「……どうせ、全て見抜かれているんでしょう。最初から、そんな気はありませんよ」


 改めて、僕の前でシリウスは跪く。


「……もちろん──従いますとも。貴方様の、御心のままに。

 ……お望みならば、騎士の契約の口づけを──」

「不要だ」

「は」


 掴んだシリウスの手からはなんの感情も感じない。

 ──まるで、生きていないみたいだ。

 僕はぱっと手を離した。


「回れ」

「……かしこまりました」

「ワンって言え」

「ワン」


 ためらいもない。ただ言葉に従ってくる──だからこそ、たまらなく不気味だ。

 こうして素直に従われてしまっては躾をする理由もできない。


「……シリウス。命令だ。

 ──人を、殺すな」


 いくつか簡単な命令を聞くことを確認してから、僕はシリウスを見下ろしながら、そう言った。


「……は。──いつか、ソリオ様が……お義父様よりも豊かなお財布をお持ちになられた時には、必ず」


 やんわりと断られた。

 ……やっぱり、こいつとは関わらない方がよかったのかもしれない。


 結局のところ──こいつは生粋の暗殺者だ。“恋”でもしなきゃ、シリウスの心は動かせない。


(……となると。あとは、金か)


「──ところで、ソリオ様。『100日間と聖女のキス』とは……いったい、何の呪いですか?」

「……! ……」

「……。ああ。犬には理解など不要ですか。随分、嫉妬深いご様子で……。

 ──では、また御用の際に」


 振り返った瞬間、そこにもう彼の気配はなかった。

 ……──いや。反応するな。

 “隠すことが無駄”だと、思い込ませておかなくてはならない。

 そうじゃないと、シリウスは何をしでかすか分からない。


「シリウス。……姉さまに……触れるなよ」


 僕はそれだけを言い残して、その場を離れようとした。

 声が少し震えていたのは、きっと気のせいだ。


(早まった、か……?)


 頭の中で考えてももう遅い。……。


(あいつは……僕の手元に置いても、おそらく変わらない。変わらない。

 ……変えられるとしたら──主人公(ステラ)しかいないだろう)


 ふ、と頭に姉さまの顔が浮かんだが、僕はその妄想を吹き消すように首を振った。

 いやだ。あいつに姉さまの方に関わってほしくない。


(……ああ、頼むよ。主人公(ステラ)。お前のことはいじめないよ。何もしない。

 だから、できればシリウスを──”攻略”しておいてくれ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ