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離婚相談所へようこそ  作者: 槙月まき
離婚相談所の仕事

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第3話 夫の愛人の正体

 アンネの夫、ピエタリ・ロウタ男爵の借金と愛人サデの関係を突き止めたヘルミたち。しかし、ただ事実を伝えるだけでは、アンネが離婚に踏み切るとは限らない。彼女自身が決断し、行動を起こせるようにしなければならなかった。


「まずは、アンネ様に報告ね。」


 ヘルミは手元の書類を確認し、彼女が住むロウタ男爵家の屋敷へと向かう準備を整えた。ノアとユーリも同行する。


 ロウタ男爵家の屋敷は、閑静な住宅街にひっそりと佇んでいた。表向きは何の問題もなさそうな貴族の邸宅。しかし、その扉の向こうには、耐え難い苦悩を抱えた若き男爵夫人がいた。


「ヘルミ様……!お待ちしておりました。と頃でそちらの男性方は?」


「紹介していませんでしたね。こっち私の護衛兼補佐のノアよ。そしてこちらが…


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私は手伝いをしているユーリと申します。アンネ様。」


 アンネは何か気づいたように強張った表情をしたが、すぐに笑顔を作り、彼女たちを客間へと案内した。


「どうぞお座りください。侍女たちはこの部屋に近づかないように言ってあります。」


 そんな彼女の目の下にはうっすらと隈ができ、昨夜も眠れていないことが伺える。


「体調がすぐれないようですが、どうかいたしましたか?」


 ヘルミは優しく尋ねた。


 アンネは少し躊躇いながらも、ぽつりぽつりと話し始める。


「実は…ここ数日、夫が屋敷に帰ってこないのです……。使用人に問い詰めても誰も口を割りません。でも、あの女のところへ行ってるのはわかっているのですがね…。」


 彼女の手は小刻みに震えていた。ヘルミはそっと彼女の手に触れ、静かに告げる。


「アンネ様、あなたの夫が何をしていたのか、はっきりした事実があります。」


「……本当ですか?」


「ええ、まず、ロウタ男爵はサデという女性と長年関係を持っています。彼女は裕福な未亡人で、莫大な財産を相続しています。」


 アンネは息を呑んだ。


「サデ…。やはり愛人がいたのですね。」


「それに加えて、彼は単なる愛人関係でなく、経済的に彼女に依存しています。借金を重ね、事業の失敗でさらに負債を増やしています。そして、サデからも多額のお金を借り続けています。」


「そんな……。夫はそんなにお金に困っているのですか?」


「はい、あなたの持参金だけでなくご実家からの仕送りも全て事業資金として使われている可能性があります。」

 アンネはぎゅっとドレスの裾を握りしめ、顔を伏せた。


「私…私はどうすればいいのでしょう…?」


 その問いにヘルミは静かに答えた。


「アンネ様、今こそ決断の時です。あなたはこのまま夫を裏切りを受け入れ、彼の借金の負担を一生背負い続けますか?それとも、自分の人生を取り戻しますか?」


 アンネは苦しそうに唇を噛んだ。


「でも、離婚なんて…。そんなことしたら、私は貴族社会で社交界で生きていけなくなってしまう…!」


「確かに、貴族社会は離婚した女性に厳しい。でも、今のままではあなたの未来はもっと厳しいものになります。」


 ヘルミは優しく、しかし確固たる意志を持って言葉を紡いだ。


「あなたが耐え続けても、彼は決してあなたを大切にはしません。愛人と共にあなたの財産を食い潰し、最後にはあなたを捨てるでしょう。それでも、この結婚にしがみつきすか?」


 アンネの瞳が揺れた。心の奥底では答えは決まっていたのかもしれない。ただ、それを認める勇気が足りなかっただけなのだ。


 沈黙が流れる中、ユーリが軽く口笛を吹きながら言った。


「お姫様、もうひとつ重要なことを伝え忘れてるんじゃないかな。」


「……何でしょう?」


「ピエタリ、つい最近、サデ嬢に結婚を申し込んだらしいぜ。」


「な……!?」


 アンネの顔が驚愕に染まる。


「夫が……サデ様と結婚を!?」


「正確には「もし君が許してくれるなら、後妻として迎えたい。そしていずれは正妻になってほしい。」って口説いてるみたいだな。でも、当の本人は結婚したくはなさそうだね。」


 ヘルミは目を細めた。


「ロウタ男爵は社交界での面子を気にするため、平民出身のサデを妻にする気はない。つまり、アンネ様と離婚してしまうと、サデと結婚せざる得なくなってしまう。」


 スオミ王国は王以外は一夫一妻制だ。同時に二人のものと結婚はできない。婚約者にはなれるが、現伴侶と離婚、または死別しない限りは新しい伴侶と結婚することはできない。


 ユーリはニヤリと微笑む。


「そういうこと。だからピエタリはアンネ嬢を縛り続けるつもりだろう。妻の立場を維持しつつ、愛人とは婚約状態。どちらからも金が入る。それに加え、貴族の妻がいるという社交界の体裁が保たれ、愛人は借金を肩代わりさせる都合のいい存在ってことだね。」


 アンネの表情が強張る。だが、次第にその瞳に怒りが宿り始めた。


「……私はただ、夫に愛されたかっただけなのに…どうして…どうしてこんな仕打ちを受けなけばならないのですか……!」


 ヘルミは静かに彼女の手を握った。


「あなたがそれを許すかどうかは、あなた次第です。」


 アンネは涙をこらえながら、言った。


「私はもう耐えられません!」


 彼女は拳をつくり


「私はピエタリ・ロウタと離婚したい!」


 その瞬間、ヘルミは微笑んだ。


「そのお言葉を待っていました。では、ピエタリ・ロウタ男爵に離婚を認めさせるための準備を始めましょう」






 アンネがついに決意を固めたことで、戦いの火蓋は切って落とされた──

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