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離婚相談所へようこそ  作者: 槙月まき
元夫との再会

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17/24

第17話 駆け引きの始まり

 サムエルの離婚相談所への二度目の急な訪問にヘルミは疲れていた。『君が侯爵夫人に戻れる』その最後の言葉がヘルミの中にずっと残っていた。


 サムエルが去った後も、ヘルミの心臓は強く脈打っていた。長い間、彼と顔を合わせることはなかった。


 それなのに──


 彼は今も私を所有物の一つだと考えている。自分の手元にあり、いつでも元に戻せる物。そしてそんな彼に驚かない自分もヘルミは嫌だった。


 そして怒りもあった。サルメという婚約者が今いるのにヘルミにまで侯爵夫人になれるという彼にとても怒っていた。サムエルは女性は自分の意思でどうにでもできると思っているからだ。また、ヘルミはされるがままの女性に悔しさを抱えているのだった。


「ヘルミさん、大丈夫ですか?」


 ノアの声が現実へと引き戻す。


「……ええ。」


 ヘルミは息を整え、静かに微笑んだ。


「ただ……彼が相変わらずで安心しただけ。」


「いや、前よりひどくなってるよ。」


 いつからいたのか、ユーリが腕を組みながら口を挟む。


「あの執着の仕方、やばいね。お姫様を取り戻す気、満々に見えたよ。」


「……そうね。」


 ヘルミも、それを感じていた。


 かつてのサムエルは、冷徹な貴族だった。彼の支配は静かで、計算されたものだった。


 だが、今の彼は違う──


 彼の目は、逃した獲物をもう一度追いかける捕食者の光が宿っていた。


「アンネ、あなたは何か気がついたことはある?些細なことでいいのだけど?」


 アンネは考えたあと、気になる点について述べた。


「サムエル様はサルメ様に興味がないという態度をとっていました。ですが私にはそれも少し違うのかなと感じました。サルメ様はサムエル様について何でも知っているという印象を受けました。そのため、サルメ様がサムエル様を監視しているのではないかと思うのです。そして、サムエル様はそれを知っていると私には思えるのです。」


 アンネの考えにヘルミはまた悩み魔始めた。


「それでもアイツ、サルメ様のことを思ってないのは確かですね。」


 ノアが、渋い顔をして呟く。


「そうだね。まるで、彼女の存在なんてどうでもいい、という風に聞こえたよ。」


 ユーリがノアに同意した。


 そこにアンネも続ける。


「気になるのはそこなんですよね。でも、ヘルミちゃんのことを今もサムエル様が思い続けているとすると、いろりわかってくることもあるんです。そうすると、サルメ様の最初の違和感にも繋がってくるんですよね。」


 アンネはまだサルメの『彼に愛されていない』という言葉が引っかかっていた。愛されたいと心からの叫びに聞こえたためだった。


 ユーリも同意しながら続ける。


「お姫様みたいに反抗してくる刺激的な女性に見えないからね、サルメは。従順な女性なんて、サムエルみたいな男にとってはよくも悪くもただの飾り物だろうね。」


「……だから、また私を取り戻そうとしているってこと?本当に迷惑だわ。」


 ヘルミは眉を寄せる。


「お姫様は元からサムエルにとって特別だったんじゃないかな。」


 ユーリは少し皮肉めいた笑みを浮かべる。


「逃げられて執着が加速したんだね。」


「きもちわる。」


 ノアが低く呟く。


 ヘルミも、その感覚は同じだった。


「でも、サムエル、ずいぶんわかりやすくなったね。前はもっと皮を何枚も被って自分を偽っているようにも見えたけど今回は表情がよく見えたような気がするんだよね。あと、やることが大胆になった。」


 ユーリが面白いものを見たと言いたげな表情を作りながら笑った。


 ヘルミも頷きながら思い出した。


「そうね。裏から手を出すことが多かったわ。少しずつ、証拠を作らないようにし、状況が悪くなったら自分だけ逃げるという雰囲気をしていたわね。それに加えて、アンネとピエタリ・ロウタの件について助けるとは思わなかったは。もっと臆病な性格だと思っていたとに。」


 ヘルミはもう二度と彼とは関わりたくないと思っていた。


 自由を求めて離婚したはずなのに、彼はまるでそれを許さないような態度を見せてくる。


「……これから、彼はどう動くかしら。」


「お姫様を追い詰めるだろうね。」


 ユーリが断言する。


「そして、最終的には──お姫様を取り戻す。」


「……そうはさせないわ。」


 ヘルミは静かに言い切った。


 すると、部屋の扉が控えめにノックされた。


「……サルメ様?」


 アンネが扉を開けると居たのは、サムエルの婚約者であり相談者のサルメだった。


 彼女の表情は微妙に揺れている。そして悩んだのか迷ったのか涙のあとがあった。


 だが、その瞳には確かな決意の色が宿っていた。


「少し、お話できますか?」


 ヘルミは小さく息をつき、サルメを迎え入れた。






 ここからが駆け引きの始まり──

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