第15話 サルメの本音
アンネとノアはサルメの真意を確かめるためにカーミル伯爵家に行っていた。アンネは『愛されていない』というサルメの言葉をずっと考えていた。結局、違和感は消えなく、さらにわからなくなるアンネだった。
深夜、アンネとノアは相談所へ戻ってきた。
執務室ではヘルミとユーリが紅茶を飲んで待っていた。ヘルミは戻ってきた二人の無事を確認してからお礼を言った。
「ごめんなさい、私、余裕がなかったわ。アンネの違和感についてはユーリから聞かせてもったわ。みんな、ありがとう。さて、作戦を練り直すわよ。」
いつもの調子を取り戻したヘルミに安堵し、アンネはカーミル伯爵家の屋敷での出来事を話した。さらに、ユーリは新しい情報をも入手していた。
「サムエルはお姫様の相談所を潰すために、いろいろ手を回しているみたいだね。貴族社会に『離婚相談所に目をつけられた家は必ず不幸になる』と吹聴して、信用を落とそうとしている。」
「……想定の範囲内ね。」
「だろうね。でも、問題はこっからだよ。サムエル、最近サルメに対してかなり寛容になっているらしい。」
ヘルミは眉をひそめた。
「寛容?」
「ああ、元々、支配的な男だったんだろう?でも最近は、彼女に自由を与えているって話だ。」
「自由……?」
ヘルミはハッとする。
(サルメが自由に動けるのは、サムエルが許しているから?)
サムエルは嬶天下のような人物だ。妻よりも夫の方が偉いと考えており、妻は自分の支配下のみで行動を制限し、監視いていたいと思うような支配的で危険な男だった。ヘルミにはサムエルがサルメに自由を与ええていることが不思議で興味深かった。
「サルメは、サムエルに私に隠れて依頼する気はない?」
ヘルミの問いに、ユーリは静かに頷いた。
「その可能性は高いね。」
ヘルミの胸に、冷たい感覚が広がっていく。
(彼女は……一体、何を考えているの?本当に離婚はしたいの?)
ヘルミの違和感を感じ始めていた。
翌日、ヘルミはサルメを再び相談所に呼んだ。
「サルメ様、あなたに確認したいことがあるの。」
ヘルミの真剣な眼差しに、サルメは微笑みを浮かべた。
「なんでしょう?」
「サムエルは最近、あなたに対して寛容になっているそうね。」
すると、サルメは少し驚いたような顔をし険しい表情に変わった。
「……どうして、それを?」
「それくらい、調べればわかるわ。」
ヘルミはゆっくり言葉を続ける。
「あなたは本当に、彼と婚約破棄したいの?」
「もちろんよ。」
「それなら、なぜ彼はあなたに自由を許しているの?」
「…それは……。」
一瞬、サルメの微笑みが完全に消えた。それを、ヘルミは見逃すことはなかった。
「あなたは私に何か隠しているわね。」
ヘルミは静かに言った。
サルメは数秒間沈黙した後、ふっとせつない顔で微笑んだ。
「やっぱり、あなた鋭いのね。」
その笑みは、これまでのものとは大きく違っており、ヘルミに対する嫌悪が感じられた。
「本当、嫌味な女。サムエル様の中にはまだあなたがいるのよ。」
「……どういうこと?」
「私はね、サムエル様に愛されたいのよ。」
その言葉に、ヘルミの背筋が凍りついた。これまで、彼は私を愛してくれい、だから私も愛が冷めてしまったという人は見てきた。でも、興味を引くための行動は初めて見たような気がした。
「でも、サムエル様はあなたのことばかり気にしている……。それが、私には許せないの。最近、寛容になってきた?自由を許している?全然良いことではないわ。それだけサムエル様は私への興味が薄れてきているってことよ。」
サルメは嫉妬した声で感情的に叫んだ。
「なんで?なんで、あなただけが彼に見てもらえるの?私は苦しいの彼に好かれようと彼の言われたように行動したわ。それなのに彼は私を見てくれない。サムエル様が私を見る目はいつもあなた比較するような目なのよ!それなのにあなたは彼のことをこれっぽちも気にしてない。されに私のことを蔑むのではなく、本気で助けようとしてくれる。これ以上、私に惨めな思いをさせないでちょうだい。サムエル様の心を返してよ!」
サルメの叫びはまるでお菓子を買ってもらえず駄々をこねるような、どうしようもならないことでも自分の思いを真正面からぶつけようとする意思が感じられた。
ヘルミは初めて、目の前の依頼人に恐怖を感じた。感情的になる人はこれまでにはいたが、夫のことであり、自分に向けられたものではなかったからだ。他にも、ヘルミは認識の誤差で相談人との口論はあった。だが、今回は怒りの他にも言葉に苦しみや切なさも隠されていた。そのため、ヘルミはどうのように対応したらいいかわからなくなっていた。
彼女はサムエルの愛を得るため──




