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離婚相談所へようこそ  作者: 槙月まき
元夫との再会

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第14話 アンネの違和感

 サムエルが去った後も、ヘルミの胸のざわめきは収まらなかった。


 彼の言葉──『お前がどう足掻こうが変わらない』まるで、彼女の努力そのものを嘲笑うかのようだった。


「……変わらないわけないでしょう。」


 彼女はそっと拳を握る。


 もう二度と、あの男の言いなりにはならない。


 今日はもう疲れた、そう思いヘルミは心を落ち着かせるため居室で休むことにした。



 ヘルミが居室に戻ったことで執務室にはアンネとノアの二人っきりになった。


 静寂を破ったのは珍しくノアだった。


「なあ、女、ヘルミさんの様子はどうだった?」


「女とは失礼ですね。私はアンネといいます。もしかして名前も覚えられないんですか?」


「ちっ、ヘルミさんの前では猫被りやがって。で、どうだったんだ、アンナ。」


「そのままお返しします、ノアさん。ヘルミちゃん、相当応えてますね。それに、サルメ様についても気になることがあります。」


 アンネは今日のヘルミとサルメの会話について自分が感じた違和感とともにノアに話した。


 ノアは鋭い目をアンネに向けながらため息をついた。


「サルメの件、慎重に動いた方が良さそうだな。でも、サムエルがわざわざここまで出向いたことは気になる。」


「そうですね。」


 また沈黙が流れようとしていたとき、扉が勢いよく開いた。


「久しぶりだね、相談所は今日も繁盛している?」


 気さくな声とともに現れたのは、情報屋のユーリだった。だが、ユーリはヘルミがいないとわかると、笑顔は消え、興味がなさげな無表情になった。


「ちょうどいいところに来ました。お願いがあるんです。サルメ様とサムエル様の動向について調べてほしいのです。」


「それはまた厄介なことだね。あの男、情報統制がガチガチでちょっとやそっとじゃ掴めないんだよね。それに君は私のことを怖がっているよね?なのにそんなことを頼むなんて、どんな風の吹き回しだい?」


 ユーリがめんどくさいというように返す。


「でも、あなたならできますよね?ヘルミちゃん、このままなら壊れてしまします。それに、あなたとの約束もこれだと守れなくなりますよ。」


 アンネの言葉にユーリが真剣な顔に変わった。


「何があったのかな?」


 表情が優しかったが、その声は背筋が凍るような恐ろしくもあり、真剣で緊張感もあった。


 アンネが今日あったことを話し始めた。最初は笑顔で聞いてユーリだったが、話し終える頃にはその表情は真顔に変わっていた。


「そんなことが……。で、君は何をしていたのかな?君はヘルミの補佐だけでなく護衛も兼ねているんだよね?なんでサムエルがヘルミの前に現れる前に止めなかった?君にはそれができたはずだろう、ノア。」


 ユーリがノアを挑発すると、ノアは苛立ったように舌打ちするだけだった。ノアはサルメの馬車を追っていたのだった。結局、まかれてしまい、何も情報を得ることができなかったため反論することができなかった。


「まあ、わかったよ。ヘルミの為だ。私の方で調査を進めてみるよ。」


 ユーリはそう言って出ていこうとしたが、ノアが引き留めた。


「今夜、俺とこの女でサルメの屋敷、カーミル伯爵家に行く。だから、お前がここに居て、ヘルミさんを守ってくれないか?」


 ノアは絶対に頼みたくないやつに頼む自分に怒りを覚えながらユーリに言った。


 ユーリは一瞬、驚いた顔を見せたが、すぐにノアの考えがわかったのか了承した。



 その夜、アンネとノアはカーミル伯爵家の屋敷の前に居た。


 最初は、屋敷のものは警戒をしていたが、ヘルミの使いのものだといえば屋敷の中に入れてもらえた。


「アンネ様、またお会いしましたね。ヘルミ様はどうしたのかしら。」


 ノアが居るからか、サルメは優しい声でアンネに話しかけた。


「ヘルミちゃんは作戦を考えています。今日はお使いですので。サルメ様、先ほど話ですけれども……本当に離婚を望んでいるのですか?」


 問いかけると、サルメは一瞬だけ驚いたような表情を浮かべた。


「ええ、もちろん。私は彼と離れたい……ヘルミ様なら私のことを助けてくれるでしょう?」


 にこりと微笑む彼女に、アンネは静かに息を吐いた。


(本当に……そうなの?)


 サルメの態度には、どこか違和感があった。


「シーカ侯爵はあなたを引き止めようとしているのではないですか?」


「ええ……でも、私は彼に愛されていないわ。」


「愛……?」


 アンネはその言葉に引っかかった。


『愛されていない』──それはまるで、愛されていれば婚約破棄をしたくないともとれる言い方だった。


「シーカ侯爵はサルメ様を手放さないかもしれませんが、それでも戦う覚悟はあるのでしょうか?」


「……ええ、もちろんよ。」


 サルメはそう応えながらも、どこか楽しげな頬笑みを浮かべていた。






 まるで、何かを待っているかのように──

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