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12.彼の贖罪と彼女の甘え

 



 「月が……あれ?私…?」



 状況を呑み込めず、晶は身を起こしてキョロキョロと周りを見回す。


 「ここは…?」


 自分がまた見知らぬ部屋にいることに気付き、晶は周りの状況からここが病室のような所だと当たりを付けた。


 先日入院した部屋とは違い、落ち着いた色合いで統一されたこの部屋は、所々に高級感があった。サイドテーブルに置かれた繊細な造りの花瓶には生花が活けられており、その瑞々しい香りがほのかに漂っている。黒に近いグレーの大きな引き戸の前には,、堀越が安堵の表情を浮かべて立っていた。


 「静野様。気が付かれたようで安心しました。気分はいかがですか?」


 「…大丈夫、です」


 未だに状況を飲み込めていないが、それでも自分の体調におかしな所はなかったので晶は堀越にそう答えた。


 「それはよかった。とりあえず今はそのままお休み下さい。ここなら安心ですから」


 「はあ…」


 何が安心なのか気にはなったが、晶が無事だったことに嬉し涙を流さんばかりに相好を崩していた堀越は、そのまま医者を呼んでくると言ってすぐさま部屋を出て行ってしまった。


 堀越の出て行ったドアをぼんやりと見ていた晶は、混乱していた頭が徐々に落ち着いてくると、途端に先程のことを思い出し、急いで振り返った。


 植物の柄が入った若草色のカーテンが引かれた窓の前に、膝に肘をついて身体を折り曲げた姿勢で椅子に座っているダークブラウンの髪が目についた。


 深く俯いて手で顔を覆っている彼は一言もしゃべらない。そのひどく疲れている様子に、晶は慌てて声をかける。


 「こっ、香月さん!大丈夫ですか?」


 「…大丈夫。少し疲れただけだから」


 そう言うものの、香月は俯いたまま顔を上げない。応える声も何処か力ないように聞こえて、晶はいつに無く余裕のない彼の様子に狼狽えた。


 「す、すみません!私、また迷惑を掛けちゃったんですよね…」


 この状況に、晶は慌てて記憶の断片を掻き集めるように、自分に起きたことを必死に思い出そうとした。しかし、ひどく曖昧で何処からが現実なのかはっきりしない。


 申し訳ない気持ちで尻窄み気味にそう言うと、香月はバッと顔を上げ、その美しい瑠璃色の目を見開いて晶を見つめてきた。


 相変わらずキラキラしたその瞳は、先ほどまで見ていた月と同じ輝きで、あの現実とは言い難い世界から救い出してくれたのはやはり彼なのだと確信する。


 「あっ…と、じゃなくて、助けてくれて、ありがとうございました」


 謝られるよりは感謝されたいと言っていた彼の言葉を思い出し、晶は慌てて言い直して頭を下げる。しかし、香月は何故かしばらく晶を見つめた後、視線を逸らし、そのまま黙り込んでしまった。


 その反応を不思議に思っていると、やがて彼は息をひとつ吐くと顔を上げ、真っ直ぐに晶の目を見つめ返してきた。


 「君が謝ることも、礼を言うことも何一つない。すべて僕の落ち度だ。…本当にすまなかった」


 そう言って彼は俯く様に頭を下げる。


 彼の言動に驚いてその顔をまじまじと見つめると、その表情はいつもの柔和なものとはかけ離れた固いもので、殆ど無表情だった。憮然としているというわけではなく、感情が何一つ窺えない人形のような表情に見える。


 その表情がまるでいつもの香月とは別人に見えて、晶は内心驚きつつも慌てて首を振った。


 「謝らないで下さい!香月さんは何も悪くないです。私が勝手に飛び出したんですから!」


 悪霊に支配された晶が飛び出して勝手な行動をしたのは決して香月のせいではない。むしろ、そんな状態だったにも関わらず晶が無事に無傷でここにいるということは、またもや香月に助けられたということなのだろう。


 しかし、記憶の断片を思い出してきた晶は、そのことで不可解な疑問が浮かんだ。


 「そういえば…私、屋上から飛び降りた記憶があるんですが…。それが本当なら、私…どうやって助かったんでしょう?」


 確かに自分はあの屋上から飛び降りたはずだ。飛び降りた瞬間の、あの浮遊感と心臓が凍りつくほどの恐怖は今でもリアルに思い出せる。そして、あのマンションの屋上の高さから飛び降りて平気なはずはない。今頃は死んでいるか、良くても大怪我は免れない状況だったと思う。


 晶は自分の身体に異常が無いか確かめるため、慎重に身体の細部に力を入れて少しずつ動かしてみた。微かに所々筋肉痛のような鈍い痛みを感じるが、それ以外はどこにも異常は無さそうだ。それを確認した晶は、安堵すると同時に眉を顰める。


 何故、何処も異常がないのだろう。もしかして、屋上でのことは悪霊の見せた夢だったのだろうか?


 一体何処からが夢で何処からが現実だったのだろうか。もしかして、たった今も夢の続きを見ているなんてこともあり得るのか。晶は先程まで見ていた学校の夢がやけにリアルだったことを思い出すと、途端に今が現実かどうか自信がなくなってきた。


 そんな晶の様子を見ていた香月は暫く黙っていたが、ふいにこう切り出した。


 「―――君は、不思議な現象について、どこまで許容できる?」


 「えっ?…不思議な現象、ですか?」


 急な質問に晶が思わず香月の顔を見返すと、彼は真摯な瞳を向けてきた。その強い視線に一瞬戸惑うが、晶はすぐさま言われたことの意味を考える。


 不思議な現象ならここ最近でお腹がいっぱいになるほど味わっている。幽霊に捕り憑かれたり、幽霊が見える様になったり、自分が幽霊になる体験もした。こう考えるとすべて幽霊絡みだが、月に向かって走り続けるなんてファンタジーな経験もした。こう色々な経験をしていたら何が常識で正常なのか、感覚が麻痺してしまいそうだ。


 だから晶は率直に答えることにした。


 「…ここ最近、色々と不思議なことがありすぎて、次に何が起きても『あぁ、そんなこともあるのか』とそのまま受け入れてしまいそうです」


 そう答えると、香月は晶をじっと見つめたまま、また黙り込んでしまった。


 「あの、そのことと私が助かったことは、何か関係があるんですか?」


 恐る恐るそう言うと、しばらく黙っていた香月は軽く息を吐き、その綺麗な瞳を伏せてようやく口を開く。


 「…実は、僕には不思議な力があってね。その力を使って君を助けたんだ。―――そう言ったら、君は信じる?」


 そう言った彼は、先ほどの真剣な様子からがらりと変わり、今度はおどける様な調子で晶に訊いてきた。明らかに冗談を言っているような雰囲気に、晶は面を食らい増々戸惑ってしまう。


 「不思議な力…ですか?」


 これは、自分を揶揄っているのだろうか?口ぶりからしてこれは冗談として流したほうが良いのだろうか。


 そう思ったが、彼の瞳が何となく冗談を言っているようには見えなかった。

 

 表面上は軽薄そうに振る舞っているが、彼の瞳の中に冷たくて淀んだような色が一瞬見えたような気がして、晶は何故か心臓がぎゅっと掴まれるような気持ちになった。


 そしてあの先ほどの夢とも現実ともしれない出来事を思い出す。


 あの綺麗な瞳の月があったから自分は迷わず進むことができたし、彼の意思とは関係がなくとも自分を救ってくれたのは香月だ。それは確かなことで、その彼の瞳をこれ以上陰らせてはいけないような気がした。


 それなら、これ以上この話を掘り下げないほうがいいのだろう。冗談でも何でも今、晶が無事に生きていられるのは香月のおかげなのだから。


 「――それなら、私が助かったのは香月さんのおかげってことですよね?…なら、信じます。助けてくれて、ありがとうございました」


 そう言って晶は頭を下げようとしたが、その頭をぴたりと止める。


 一瞬考えた晶は、意識して口角を少し上げ、ぎこちない笑顔を見せた。


 信じる気持ちをどうやって示そうかと考えた結果、笑顔を贈ろうとしたのだが、久しぶりのことで上手くできた自信はない。感謝の気持ちも込めつつできるだけ最大限の笑顔を香月に見せようとしたのだが、ひどく不格好になってしまった。


 「っ…いや…」


 香月は一瞬驚いて言葉に詰まった様子を見せたが、その後、額に手をあてたまま再び身体を折り曲げて俯いてしまった。

 

 (…笑われた?ううっ…変な顔になっちゃった…笑顔なんて意識したの、久しぶりなんだもん…)

 

 香月の反応がどういうことなのか分からず、晶も黙リ込む。沈黙がこの空間を支配したまま、室内に飾られた花の香りだけが二人の間を漂っていた。


 香月がずっと黙り込んだままなので、晶は徐々に不安になってきた。


 (もしかして、いや、もしかしなくてもやっぱり怒っているのかも…)


 何せ取り憑かれていたとはいえ突然走り出して行方をくらませた挙句、屋上から飛び降りて――何にしても自分の行動のせいで迷惑を掛けたことは変わりない。それなのにヘラヘラと笑ってお礼を言ってしまった。もしかしたらその時は決死の救出劇が繰り広げられたというのに、晶があまりにも呑気すぎるから相当な怒りを買ってしまったのだろうか。


 ハラハラ落ち着かない気持ちでどうしようか悩んだ晶は、やがてこの沈黙にも耐えられなくなり、覚悟を決めて大きく息を吸った。


 「あの、やっぱり本当にすいませんでした!」


 思いのほか大きい声になってしまい、自分でも内心驚いてしまう。


 俯いていた香月もびくっと肩を揺らし、ゆっくりと顔を上げる。その表情は驚きと戸惑いに染まっていたが、構わず晶は言葉を続けた。


 「突然わけのわからない行動を取ったあげく、また命の危険を助けてもらって。本当に迷惑かけてごめんなさい!」


 そう言って勢いよく頭を下げようとすると、「待って」と慌てた声がした。


 「いや…本当に違うんだ。君が悪いんじゃない。本当は僕が…いや違うな、…クソっ」


 そう言って、彼は何故か苦い顔で前髪をクシャリとかき上げる。今まで見たことのない表情と悪態に、怒りをぶつけられることを覚悟していた晶はかなり面食らってしまった。


 王子でも悪態なんて吐くんだなと頭の隅で思うと同時に、年相応の青年らしさの欠片を見せられたようで、晶の胸の奥で何かが鳴った。この反応は危険だと別の何かが訴えている。だが今はあえてスルーした。


 晶が自身を落ち着かせるために密かに深呼吸をすると、同じタイミングで香月のほうも短く息を吐き出した。そしてその瞳を真っ直ぐ晶に向けてくる。その真摯な眼差しを受けて、晶は再び自分の心臓が勢い良く跳ねる音を聞き、クラクラと眩暈がしそうになる。


 「君が謝る必要は一つもない。むしろ今回君を危険な目に合わせたのは、結果的には僕だ」


 言われたことの意図が掴めず、晶は首を傾げる。


 「?どういうことですか?」


 「―――実は、僕は君が霊にとらわれた状態だとわかった上で、あえて君を危険に晒し、君の中にいる彼女を炙り出そうとした。更に挑発するように揺さぶりをかけて、こちらに敵意を向けてくるように仕掛けた」 


 「あえて…?」

  

 「君に憑いている小泉純子を引き出すため、君を餌にした。でもその結果、僕の予想に反して君は屋上から飛び降りることになった。…本当に、申し訳なかった」


 「餌に…」


 そう言って頭を下げた彼の顔は先程と同じく無表情だったが、何かに耐えるような色を滲ませているように見える。


 つまり、香月は目的のために手段を選ばず、結果、晶を危険な目に合わせたということか。晶は言われたことの意味を理解すると同時に、何故か頭の中が真っ白になって急激に冷めた。


 その時、ふいにあの屋上で聞いた彼の声を思い出した。今思い出してみると、あの時の香月の声は酷く冷たく耳に響いた。


 『――あなたの居場所はそこにあるとは限らない』


 ゾクリと胸の底を冷やす声は、まさに晶に向けられた言葉のようで、今更ながら心を抉られたような気持ちになる。更にその後に起こったあの浮遊感を思い出し、晶は震えそうになる指先をぎゅっと握る。


 香月は自分の仕事のために、仕方なく晶と共にいるだけで、そもそも晶を助ける義理などないのだ。むしろ好意に胡坐を掻いていたのは自分の方だった。


 晶は今度は無性に恥ずかしくなった。その行為に報いるためには自分に多少の危険が振りかかることは当たり前のこと。それにきっかけはどうあれ、飛び降りたのは晶に取り憑いた小泉純子の霊のせいで、香月は悪くない。

 

 (そういえば私は香月さんのことを、表面でしか知らない…)


 今更ながら当たり前のことに気付く。そもそも、香月とはまだ出会ったばかりで、彼の何を理解していたというのだろう。表面上でしか彼のことを知らないのに、こんなにも彼に信頼を寄せている自分のことが信じられなかった。


 そして同時に気付いた。


 (今まで私は一体何をしていたんだろう)


 晶は香月の厚意にただ甘えて、この事態に流されるだけで今まで何もしていなかった。彼は自分の保護者じゃない。それなのに、まるで父親のように信頼を寄せて頼りきっていた。


 その事実に愕然とする。まるで頭を思い切り殴られたような気分だった。もしくは悪い魔法から覚めたような気持ち。


 (そうだ…。私は、ひとりなんだった…)


 もう無条件で頼れる相手も、寄りかかっていい相手もいない。その事実を改めて思い出す。すると冷えきった心にますます冷たく乾いた風が吹き抜けたような気がした。

 

「いえ…結果的に無事だったんですから、謝らないでください」


 平静な顔を作って何とかそう答える。しかしその時、自分の頬に暖かい雫が伝っていった。


 (だめだ!!ここで泣くな、私!!)


 気付いた晶は慌てて頬を拭おうとする。すると、自分のとは別の指が素早くその雫を優しく拭い去っていった。


 驚いて顔を上げると、香月の真摯な瞳と目が合う。


 彼はその手を晶の頬に添えたまま、次から次へと流れる晶の涙を親指で優しく拭っていく。その表情は相変わらず無表情だが、どこか苦しみのようなものを奥に秘めているように見えた。


 その彼の瞳に映るものの正体がわからず戸惑うものの、晶はいつの間にか冷えた胸の内にほのかに灯る温もりがあることに気付いた。この温もりは、決して嘘じゃない。独りぼっちの晶には、この温もりが何だかとても得難い宝物のように感じた。


 「ありがとう、ございます」


 そう言って少し笑って見せると、香月の表情が少し緩む。気に病ませてしまったことを申し訳なく思っていると、彼が改めて晶に向き直った。


 「これからは本当に、君のことを守りたい。いや、守らせてほしい。僕の、贖罪として」


 贖罪。そもそも、香月は成り行きで晶を守ることになっただけで、本来ならその贖罪なんて不要のことだ。


 それに、自分がこんな時に自分勝手な理由で泣いてしまったために彼に要らぬ罪悪感を与えてしまった。これは明らかに自分が悪い。


 だからここは勇気を持ってはっきり言おうと晶も姿勢を正す。


 「…お断りします」


 「えっ」


 香月は断られると思っていなかったのか、ぽかんとした顔で晶を見つめ返す。


 晶は呼吸を整え、自分の思いを整理するようにゆっくりと言葉にした。


 「目が覚めました。私は今まで自分自身のことなのに香月さんに頼り過ぎていました。…そんな自分が恥ずかしいです。だから、そんなに気に病まないでください。これからは自分のことは自分で何とかします!ご厚意はとても嬉しいですが、もう守ってもらわなくて大丈夫です!」


 そうきっぱり言うと、何だか胸の奥がスッキリして、少しだけ力が湧いてきた。香月を見るといまだにポカンとした表情をしている。それが何だかおかしくて晶は少し笑ってしまった。


 「今までありがとうございました。色々と助けてもらったこと、本当に感謝しています。それに――」


 少し照れくさいので目線を逸らしてから告げた。


 「実はいつの間にか香月さんのこと、勝手に心の支えにさせてもらっていました。それにも感謝を。ありがとうございました」


 そう思い切って言ってしまえば、何だか晴れ晴れとして、晶は自然と香月に笑顔を向けていた。泣き笑いになってしまったけど、感謝を込めて贈る笑顔は二度目だ。一度目より上手に笑えた気がする。


 そんな晶を香月は驚いた様子で見つめていたが、その顔がだんだんと曇っていき、しまいには何だか複雑そうな、少し悔しそうな表情になってしまった。


 晶が疑問に思って頭を傾げると、彼はまた深い溜息をついて俯いてしまう。


 どうしたのかと彼の肩に手を伸ばそうとした途端、その手を掴まれた。


 その手は吸い込まれるように彼の唇に近づいていき、驚いた晶はそれを他人事のようにぽかんと眺める。


 「…チュッ」


 その柔らかい唇が晶の手の甲に触れた瞬間、晶は何をされたのか瞬時に理解し、ブワリと体中の熱が上がる。


 「なっ、なっ、なあっ!!?」


 「僕に感謝をしているというなら、謝礼を要求しても、問題ないよね?」


 「…なっ!?…謝礼?ですか??」


 驚きすぎてグルグルする頭のままで、彼が何を言っているのか必死に考える。謝礼?もしかして今のが?


 「謝礼として、僕にこの事件が解決するまで、君のパートナーを務める権利が欲しい」


 それを聞いて今度は目が点になる。そんな晶の手を取ったまま、香月は真剣な眼差しを向けてきた。


 それが謝礼にあたるのだろうか?この申し出に香月の利点は一つもないような気がするし、むしろマイナスではないだろうか。


 「それは…逆に迷惑をかけることになりますよね?それが謝礼というのは…」


 「いいんだ。それにこれは僕が要求したことだから君は何も気にしなくていい」


 そう言って真摯な眼差しを向けられる。よくわからない理屈で晶はしばらく悩んだが、何やらその必死な様子に負けて、思わずこくりと首を縦に振ってしまった。


 「…わかりました。それが本当に謝礼になるのかわかりませんが、香月さんがそう言うならパートナーの件、引き続き宜しくお願いします」


 そう言って頭を下げると、香月は明らかにほっとした表情を見せた。


 そしてそのまま繋いでいた手をまた口元に持っていこうとしたので、晶は慌てて自分の手を引っ込めることになった。



 香月が晶を慮ってそう申し出てくれたことには気付いていたが、申し訳ないとも思いつつも、実際自分一人でこの問題を解決することは難しいと思っていた。なので香月の申し出は心苦しくもとても有難い。


 でも、これからは自分でしっかりしなければと、晶は密かに気合を入れ直す。今までのように香月に甘えていてはいけない。これからはできれば自力で、あるいは香月の力になれるように問題解決に向けて自分から動くようにしなければいけないのだ。



 「よかった…」


 そう呟いた香月が再び俯いた。かと思うと、身体が不自然に横に傾いていき、そのまま床に倒れ込んでいく。


 「え……香月さん?!!」


 あわてた晶は飛び起き、ベッドから降りようと掛け布団を勢いよく捲る。すると、カツンと何かが床に転がり落ちる音がした。


 

 音のしたほうを見ると、床に転がったそれは探していたターコイズの指輪だった。








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