推しがいる生活
スマホを片手に急いでいた私は、いつもは通らない公園の中の小道を突っ切ることにした。
この小さな選択が、私の人生に新たな彩りを添えることになるとは、その瞬間はまだわからなかった。
「ああ、もうライブ配信がはじまったじゃん」
画面に視線を落としながら、早足で舗装されていない公園の小道を進んでいく。足元を見ないで歩いていると、ズズッと足をすべらせた。
「うわっ!」
その場で踏みとどまることに失敗して、派手にすっ転んだ。
「痛ッー」
じんじんするお尻を涙目で押さえて、足元に目を向けると、濡れた木の根っこが見えた。どうやら、これで足をすべらせたらしい。
すると、上から男の人の声が降ってきた。
「おい、あんた大丈夫かい? 怪我はないかい?」
「ああ、大丈夫で……す?」
そう言いながら顔を上げると、そこには着物姿のおじさんがいた。人当たりが柔らかそうなその人は、心配そうにこちらを覗き込んでいる。
しかし、私の視線はその人の髪型に釘付けだった。なぜなら、頭頂部まで剃られていて、髷がちょこんと乗っている。まるで、歴史の資料集から抜け出てきたかのような姿なのだ。
「あっ、ごめんなさい。もしかして、何かの撮影とかでした?」
「? 何を言ってんだい?」
「え? だってそのカッコ。時代劇とかの撮影じゃ……」
そう言ってあたりを見渡すと、そこに広がるのは見慣れた公園ではなかった。銀杏の木が並ぶ先には、見たこともない木造の家が建っている。それは、古民家と呼ばれているような、雰囲気のある建物だった。建物の奥に見える人影は、目の前の人物と似たような格好をしている。
「え? え? なに? もしかしてタイムスリップ?」
「ん? たい……む? あんた、本当に大丈夫かい? 頭でも打ったんじゃないかい?」
「大丈夫、大丈夫ですよー。私は正気ですけど、あー、困ったなぁ。これじゃあ、レンちゃんのライブ見れないじゃん」
手に握りしめたスマホを見ると、ライブ画面が落ちていて、上には圏外の文字が表示されている。
レンちゃんと言うのは、ここ最近動画配信サイトで人気が出てきたアイドルの女の子だ。黒髪ストレートで大きな瞳に笑顔が可愛い美少女なのだが、訛りのあるおっとりとした話し方と、配信中なのに毎回お漬物を食べながらお茶を飲むという、まるでおばあちゃんのようなライブスタイルに私は惹かれたのだ。
ここ最近はずっとレンちゃん一色の生活で、今日の緊急配信を学校で知り、放課後ダッシュしたのだ。この配信は、家で落ち着いて見たかったのに、こんなことになってしまった。
「絶対に今日、なんか供給あったはずなのにー。なんだったんだろー。あーうー、どうしたら戻れるのかなぁ」
「お節介かもしれねえが、あんたのその格好、目立つから早く着替えたほうがいい」
おろおろと周りを見渡しながら、先ほどから心配してくれるおじさんは、きっと良い人なのだろう。明らかに不審者であるはずの私に忠告してくれる。
その忠告通り、確かに建物のほうから視線を感じる。なので、まずは立ち上がり、捲れ上がったスカートの裾を手でパタパタと払って整えた。
「着替えるって言っても、この着てる制服以外に服なんて持ってないし、家に帰る方法もわかんないし……」
教科書やノート、小物などが入ったリュックにもそんなものは入っていない。しかも、きっとここで言う「普通」の服装は着物だろうから、当然持ってない。なんなら家に帰ってもない。
「よくわかんねぇが、おまえさんは帰る家が無いんだな。そんなら、とりあえずウチにこい。母ちゃんがなんとかしてくれる」
そう言って、見えていた木造の家に連れて行ってくれた。そこで、なぜかおじさんの奥さんらしいおばさんは、目を潤ませながら着物を着付けてくれた。
そして、私はその日から、その家でお世話になることになった。
最初のうちはスマホも使えなくて、電気も水道もない生活に戸惑ったが、おじさんとおばさんが良くしてくれるので、なんとかやっていけた。
どうしてふたりがこんなにも優しくしてくれるのか不思議だったが、その謎はすぐに解けた。
どうやらふたりには、娘さんがいたらしい。しかし、若くして亡くなってしまったという。その子が生きていたら、どうやら私と同じくらいの歳だということだ。
ここの暮らしのことをさっぱりわからない私を、小さな子供に教えるように丁寧に教えてくれるのは、子育てをしている気分なのかもしれない。
「今日は、巷で評判の笠森稲荷に行ってみようじゃないか」
そう誘ってきたのは、おじさんではなくおばさんの方だった。
「評判って、もしかして水茶屋の?」
最近では、私もふたりの商売の手伝いをすべく、浅草にある店に立つようになっていた。
なんとなくだが、この時代が江戸時代だということは薄っすらわかってきた。「お上が」とか、「公方様が」という呼び方をたまに聞くし、江戸城らしきお城もあるっぽい。
でも、おじさんにこの時代の元号を聞いたら、「明和だよ」と言われ、本当に江戸時代なのか確信が持てなくなった。こんなことなら、歴史の勉強を真面目にやればよかったなと、少しだけ後悔した。
そして、店で接客している時によく聞く噂話のひとつに、「笠森のお仙」という娘の話があった。どうやら、その娘は大変可愛らしいと評判で、素人なのに姿絵まで出ているとのことだ。
可愛い女の子好きの私としては、なんとしてもその娘を見てみたかったので、ウキウキでおばさんについて行くことにした。
「いくら可愛いからって、うちのお藤には敵わないわよ」
おばさんはそう言って、楽しそうに私の隣を歩く。
お藤というのは私のことだ。
自己紹介の際、名字の藤を聞いた瞬間に、おばさんが泣き出してしまったのだ。そして、「やっぱりあんたは藤だったのね」と言われてしまったので、下の名前を言えずに、ここまできてしまった。
どうやら亡くなった娘さんの名前が藤だったらしい。そんな偶然が相まって、私はますます大切にされるようになり、新しい着物や流行りのかんざしを買い与えられたりしている。
そんなわけで、名字が藤だなんて今更言えないので、他の人にも藤と名乗っている。
「あ、見えてきたよ。あそこじゃないかい?」
すでに人だかりができている水茶屋が見える。
しかし、朝早くからせっかくここまで来たので、まずは参拝をすることにした。
そして、気もそぞろに噂の鍵屋という店名の水茶屋へ向かうと、先ほどと変わらない人気ぶりだった。
「鍵屋で休むのは難しそうだから、お仙を見たらあっちの店で休もうかね」
おばさんは野次馬根性丸出しで、人だかりを押しのけて前に進んでいく。私はその後ろにピッタリくっついてついていく。
「え? やだ、めっちゃ可愛い……」
店の奥からお盆にお茶を乗せて出てきた娘が、噂のお仙とすぐにわかった。
そして、その姿を見た瞬間に、私は間抜けにもあんぐりと口を開けた。
年齢は私とそれほど変わらない女の子だが、化粧気もないのに艶のある肌に澄んだ大きな瞳。完璧に配置された顔立ちは、今まで見てきたどのアイドルよりも可愛い。日焼け止めのない時代に、あの肌の白さはハンパない。黒髪もCMのモデルかと思うくらいツヤツヤと輝いていて、とても同じ人間とは思えない。
「いらっしゃいませ。どうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ」
微かに聞こえてくる声は、鈴が鳴るような涼やかさがあり、私の心を鷲掴みにした。
「推せる……」
心が高鳴るのがわかった。
これは推すしかない。
「おい、あれ、浮世絵師じゃないか?」
周りの野次馬のひとりがそう言った。
私はその男が示す方向をつられて見る。
そこには、熱心にお仙を見つめる中年男性の姿があった。どうやら彼があの美人画の作者らしい。
それを見て、私は閃いた。
「あのー」
人混みを掻き分け、お仙を描いたという浮世絵師に声をかける。
すると、驚いたようにこちらを見てきた。
「な、なんだい?」
「お願いがあります。お仙ちゃんのイラストをもっと描いてください! そして、それをもとに色んなグッズを作りましょう!」
「なに? いらす? ぐっず?」
「お藤、急にどうしたんだい?」
後ろからおばさんがやってきた。
「いや、この人にお仙ちゃんの絵をもっと描いてもらおうと思って……」
「あら、やだよ。さっき実物を見たけど、やっぱりお藤も負けてないんだから。描くならこの娘を描きなよ」
おばさんが浮世絵師に向かってそんな話をするので、私は慌てて止めに入った。
「いや、私はいいんで。お仙ちゃん、お仙ちゃんの絵を描いてください。よろしくお願いします」
そう言って、おばさんの手を引いて、近くの別の茶屋へと引きあげることにした。
そんな出来事があって、しばらく経ったある日、なんとあの浮世絵師が私を訪ねてやってきた。
「もしかして、本当にお仙ちゃんを描いてきてくれたんですか?」
最近やたらと客が多くて、客足が途絶えた隙に急いで近づいた。
すると浮世絵師はコクリと頷いて、その絵を見せてくれた。正直、最初の頃はこの浮世絵のひょろっとした線で書かれたイラストの良さがわからなかったのだが、慣れてくるとこれも可愛く感じるから不思議だ。
「仕事早いですね〜。ぬいも欲しいけど、さすがに無理か。でも人形ならいけるのかな? あ、これなんか手ぬぐいのデザインにすると可愛いかも」
本当はぬいぐるみやアクスタ、バッジなんかが良いが、この時代にはまだ存在しないようだし、コストがかかりそうだ。でも、手ぬぐいなんかは普段使いできるし、飾ることもできる。
いくつかある絵を見てそう提案すると、近くで聞き耳を立てていた近所のおじさんが顔を覗かせてきた。
「手ぬぐいといったら俺だろ。なんだ? お仙の手ぬぐいを作るのか?」
「私が欲しいんです!」
「お藤ちゃんがか? そんなら俺が作ってやるよ!」
「わ! ホントに? 嬉しい!」
きゃっきゃとそんなやり取りをしていると、浮世絵師が咳払いをした。
「勝手にそのような物を作ったりしたら、鍵屋の旦那が黙ってないだろう」
「あ、そっか。じゃあ私が話してくるね」
「ちょっ、ちょっと待て。それなら俺もついていく。手ぬぐいにするなら、もう少し構図を変えたいからな」
先ほどの絵でも充分だったのに、さすが一流ともなると、凡人には理解できないこだわりがあるらしい。
そうして、翌日には鍵屋へ話をつけに行った。
「あの……、もしかして、あなたがお藤ちゃん?」
浮世絵師と鍵屋の主人が、なにやら話し込んでいるのを眺めていると、奥からそっと声をかけられた。その心地よい可憐な声には聞き覚えがあり、勢いよく振り返ると、そこには麗しい推しの姿があった。
「え? 私、推しに認識されてる? ヤバい。死んじゃうかも」
「お藤ちゃん、どこか悪いんですか……?」
「あー、違う違う。こうやってお仙ちゃんと話せるなんて夢にも思ってなかったから。嬉しいって言うか、緊張してるって言うか……」
しどろもどろに答えていると、お仙は白く柔らかな手を、胸の前で合わせた。
「それならわかります。わたしもお藤ちゃんと話してみたかったから、嬉しいです」
まばゆい笑顔で、頬を赤らめてそう同意するお仙は天使そのものだった。
昇天しそうになっていると、「あんたが柳屋のお藤か。評判は聞いてるよ」と、鍵屋の主人であるおじさんに声をかけられた。
なぜかそう言って、値踏みをするような視線を送ってくるが、私はなんのことかわからずに首を傾げた。
「?」
「こんなところに何しに来た?」
「お父ちゃん!」
そう焦ったように静止をするお仙を見て、私はピンときた。きっとこの父親は、有象無象がこの天使に付き纏わないよう、普段からこうやって牽制をしているのだと。
「私はお仙ちゃんのこと大好きだし、大切に思ってます! だから、これからもがんがん応援しますし、もし変な輩がいたら、すぐに報告しますよ」
腕まくりをしながら、そう宣言した。
「おっ、ああ……そ、そうか、そうか……。じゃあこれからも、お仙と仲良くしてやってくれ」
鍵屋の主人は、先ほどまでの強気な態度とは打って変わって、少し気圧されたように一歩下がった。
「任せてください。ファンのひとりとして、お仙ちゃんを守り、そしてトップに押し上げてみせます」
江戸のナンバーワン茶屋娘にするべく、努力は惜しまないつもりだ。
それからしばらくすると、お仙の手ぬぐいが発売された。手ぬぐい屋のおじさんが笑顔で持ってきてくれたが、私は丁重にお断りをした。
なぜなら、推しへ課金するために、今まで頑張ってお小遣いを貯めていたのだ。
そして、店がお休みの日に、自らお仙のいる茶屋まで赴き、行列に並んで買い求めた。どうやら手ぬぐいだけでなく、イラスト集や人形まで出したようだ。
私はありったけのお金を注ぎ込んで、それら全てを購入した。
本当なら観賞用、保管用、布教用でそれぞれ三つは欲しかったが、さすがにお金が足りなくて、泣く泣く諦めた。
すると、接客の合間に、お仙がこちらに向かって手招きをしているのが見えた。
キョロキョロと周りを見渡すが、どうやら私に向かってしているらしく、私は急いでお仙のもとに向かった。
「お藤ちゃん、来てくれたんだね」
「当たり前じゃない。グッズが出たって聞いたから、急いで来たんだよ。ホント売り切れる前に買えてよかったー」
胸を撫で下ろしている私を、お仙は少し複雑そうな顔で見ている気がするが、きっと気のせいだろう。
「そういえば、今度、浅草で観音様がご開帳されるでしょう?」
「うん」
そんな話をおじさんとおばさんがしていた気がする。
「その時にうちのお店もそちらに出すのよ。そしたら気軽に会えるでしょう? その時に、たくさんお話ししましょうよ。わたし、お藤ちゃんに話したいことがあるの」
そう言って嬉しそうに微笑むお仙は、直視できないくらい可愛い。
「もしかして、撮影会なんかもしていいの……?」
「さつえかい? よくわからないけど、お藤ちゃんがやりたいことならやりましょうよ」
実は以前から、その姿をスマホの待受画面にしたいと思っていたが、さすがにイケナイことのような気がして、今まで行動に移せなかった。
しかし、ずっと電源を落としているスマホは、もうほとんどバッテリーがない。複数持っていたモバイルバッテリーも、あとわずかになっていたので、普段は電源を落としてリュックに仕舞っている。
電源が入らなくなったら、もうスマホで撮影できないので、ちょっと焦っていたのだ。
「他のファンの人たちには申し訳ないけど……」
しかし、せっかく許可してくれたのだ。それに、みんなもスマホを持っていたら、心優しいお仙は、普通に要望に応えていた可能性が高い。
そう言い聞かせて、私は次に会う時は絶対にスマホを持って行こうと心に決めた。
浅草寺の開帳がはじまると、それはそれは多くの人たちがやってきた。店にはひっきりなしにお客さんが訪れて、悠長に出かける暇がない。
なぜか店には私の姿絵が売り出されていた。不思議に思ったが、きっとあの浮世絵師が、お仙のグッズの売れ行きに気をよくして、おばさんのリクエストに応えて描いてくれたのだろう。
そして、人気の浮世絵師の作品だけあって、飛ぶように売れている。
人手が足りないからと、途中から私より年下の女の子が奉公に入ってきたほどだ。その子も可愛らしくて、私は隙あらばその子と遊んでいた。
その様子をおじさんたちは微笑んで見ていた。
「やっとお休みがもらえたー」
売るものが無くなるんじゃないかという勢いで商品が消えていき、そろそろ開帳が終わる時期に、やっと休むことができた。
早速、白い息を吐きながら、この近くに臨時店舗を出しているお仙のところに向かった。そして、忙しそうに接客している中、こちらに気付いて来てくれたお仙と、夕方に会う約束をした。
「スマホは持ってくとして……。あれ? よく考えたら、ウチの制服を来てもらうのもアリじゃない?」
リュックに畳んで入れてある制服を見て、ハタと考えた。
「絶対にこれも似合うよね。それにこのリュックも肩にかけたりして……。いやいや、教科書を片手に歩く姿とか?」
妄想がはかどってしまい、結局あの日に持っていた荷物を全部持って行くことにした。
気がつくと約束の時間の鐘が鳴っている。
「やばっ。遅刻しちゃう」
バタバタと出かけて、待ち合わせの銀杏の木の下へ向かった。いつもは人通りが多い大通りから行くのだが、待たせているかもしれないので、近道の路地に入って行くことにした。
すっかり履き慣れた草履で駆けていくと、銀杏の木が見えてきた。その下には人影も見える。
「おーい」
そう声をかけながら近づくと、足元が突然すべった。
「ひゃー」
見事に尻もちをついて、手に持っていたリュックを地面に落としてしまう。
「アイタタタ」
そう言ってお尻を押さえていると、上から女の人の声が降ってきた。
「あのー、大丈夫ですか?」
遠慮がちな声に反応して顔を上げると、そこにはワンピースにロングカーディガンを羽織った女の人が立っていた。
「え? あれ?」
急いで周りを見渡すと、そこには懐かしい公園の風景が広がっていた。どうやらもとの時代に戻ってきたらしい。
「うそーっ! このタイミングで? マジかー」
せめてお仙ちゃんをスマホで撮ってから、戻ってきたかった。
しかし、そんな願いは叶うわけもなく、私はその足で我が家へと帰っていった。
向こうで過ごした時間分が進んでいるかと思ったが、どうやら親切設計だったようで、まさにタイムスリップしたあの日に戻っていた。
「じゃあ、レンちゃんの配信も見れる?」
自分の部屋のパソコンを立ち上げてみると、まだはじまったばかりの配信を見ることができた。
「こうやって見ると、お仙ちゃんはヤバかったんだなー。でも、やっぱりレンちゃんも可愛い。久しぶりに見たけど、和むわ〜」
急にいなくなって、おじさんおばさんは悲しんだりしていないかなと、胸が痛んだ。しかし、今からお別れにも行けないので、心の中でお礼とお詫びをしておいた。
「そういえば、お仙ちゃんは何か言いたいことがあるって言ってなかったっけ?」
急に思い出して、充電をはじめたスマホで検索してみた。すると、そこには武家へと嫁いだという、あの後の出来事が書かれていた。
「じゃあ、あの時、結婚報告をしようとしてたのかー」
それは直接聞かなくてよかったかもしれない。もし本人の口からそんなことを言われたら、しばらくショックで立ち直れなかったかもしれない。
「でも、なんか玉の輿みたいだし、よかったー」
そこに、同じ時期に柳屋のお藤が姿を消したと言う文字が目に入った。
「もしかして、これって私? なんかよくわかんないけど、歴史上の人物になってるじゃん。……あっ、ホントだ。おじさんが言ってたとおり、元号が明和だ」
そして、検索を続けていくと、あの浮世絵師の絵も出てきた。
その中には、お仙とお藤のふたりが描かれたものもあった。
「ま、これもアリかな」
その浮世絵をスクショして、私はスマホの待受画面を変更した。
後日、その待受画面を見た友達から、「それ、渋くない?」と言われた。
「でも、推しとの貴重なツーショットだからねー」
私はそう笑って、今となっては自分の記憶の中の存在となってしまった、可愛らしいお仙の姿を思い浮かべて、その浮世絵をそっと撫でた。
お読みいただきありがとうございます。
史実と比較すると、少し時空が歪んでいますが、ご愛嬌ということでお願いします。