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超越界

 人間が本気でぶち切れる瞬間ってのは単純なようで複雑だ。地雷の埋まっている場所は人によって異なり、踏んだと思っても爆発しないことはまれではなく、その逆もしばしば起こりうる。


 これは憶測になるが、信長のゲージは限界まで溜まっていたのだろう。善戦する敵、部下の悲報、ヒトラーの現界。不快な出来事が続くなか、疲労をカバーするように無駄な体力は使わず、温存に努めていたと思われる。帝との謁見を第一にすればこそ。


 だが地面に倒れ伏したサドを抱きかかえ、信長の様子が明らかに変わっていった。死にゆく悪霊を待つのは完全なる無だと聞く。詳しい根拠は定かではないが、地上で受肉した体を失い、霊にすら戻れないらしい。


 そんなサドは信長の腕のなかで微細な塵と化していく。二人の間にどれほど別れがたい絆があったか、他人のおれの目にもうっすらと見てとれる。


「短い時間でしたが光栄でした、お館様……」


 最後はやけに嬉しそうな言葉を洩らし、力を失ったサドが事切れる。次の瞬間、やつの姿は跡形も無くなっていた。


 信長は抜け殻になったコートを抱きしめ、そこに三つ編みの悪霊が嵐のような銃弾を降り注ぐ。


 カキンという金属音がいくつも重なると、でたらめに弾いた鉄琴みたいな音色を奏でる。サドが瞬殺されたことから考えると、信長の防壁は遥かに頑丈だ。かなり削ったつもりだったがまだ削り足りないらしい。


「いまの儂をさっきまでの儂と思うな。全員血祭りにあげて(つか)わす」


 低い唸り声を発し、憤怒に駆られた信長は右腕をだらりと下げた。影になって顔は見えないが、信長の肩から蜃気楼のようなものが立ち上る。その手元にサドの遺骸と同じく光の粒子が集まりだし、やがて正体を明らかにした。


実休光忠(じっきゅうみつただ)


 光の粒子は瞬時にかたちをなしていき、1メートルくらいの細長い物体が出現する。曇天の光を吸って鈍色に輝く、まぎれもない日本刀だ。


 ちょうど空からも似たような光の粒が降ってきた。雪だ。そのせいかは不明だが、信長の顔は濡れていた。流れ出た涙を思わせる紅蓮の色に。


「すまぬ侯爵、すまぬ藤吉郎!」


 気合いとも怒鳴り声とも取れる声を出し、信長が日本刀を()いだ。

 その斬撃は何もない場所を横に斬り伏せたものだが、攻撃の意味がすぐにわかった。鋭利な空気が濁流のように押し寄せてきて、咄嗟に刀で庇わなければ餌食になっていた。


 現に離れた距離に立つ三つ編みは、口元を押さえ血反吐をはいている。視線をさらに動かすと、斬撃がシャオレンに当たった様子はない。横たわった標的を“斬る”つもりはないのだろう。


「うぬらが生き残り、家臣の命が絶たれた。これほどの理不尽があるか!?」


 信長は再び何もない中空を斬り裂き、その鋭い圧は三つ編みとヒトラーに直撃する。おれは地面にしゃがみ難を逃れたが、三つ編みは首筋を押さえて顔を歪ませた。どうやらそこに攻撃が集中しているらしい。


「死を殺す。相も変わらず外道な能力である」


 斜め前に立つヒトラーが両腕を盾にしながら笑うようにいった。おれはコイツに「信長を倒せ」と命令したが、それを実行する様子は窺えない。冷静に分析し、アドバイスを送れば十分といった態度だ。


「死を殺す? 何だそれは。余計な御託はいいから信長の野郎をぶっ倒せ」


 おれがヒトラーの尻を蹴り上げるように吐き捨てると、ヒトラーは余裕の笑みを浮かべ返事をよこした。


「器というのは肉体と同様生きており、絶え間ない生成と消滅をくり返しておる。ところが三郎はそのサイクルに干渉し、器を構成する物質の消滅、つまり死を停止させてしまう。そうすると何が起きる?」


 謎かけなんてしてる場合じゃないと叱りつけてやりたくなったが、有益な助言に聞こえた。そもそも教官の教えてくれた話と一致する。消えるはずの物質が増殖する——がん細胞の増殖と同じことが起きうると座学の中盤に習った。


「急に猛々しくなったと思ったら、能力を隠してやがったのか」


 ヒトラーの説明を併せて、信長の手の内を理解したのは大きい。なぜなら信長の狙いがうっすら見えてきたからだ。


「お前の話どおりなら、あの三つ編みが標的になってる。助太刀してやれ」


 そんな命令をおれが発したのは、三つ編みの首筋を信長が狙い撃ちしているように感じたからだ。まず真っ先に三つ編みの器の位置を特定し、そこを集中的に壊しにかかっていると。


 悪霊との戦いは究極的には器の壊しあいだが、すぐれたやつはその並外れた観察眼で器の位置を特定するとされる。ブラックボックスを前にして、箱の微妙な動きで中にある物体を特定するのに近い。人間の場合、相手の無意識を読むようなものだろう。


「おいヒトラー、お前は信長の背後にまわってやつの防壁を削れ。挟み撃ちにする」


 本気を出してきて敵に対し、どういうプランで攻めるか。かなり明確なかたちでビジョンが見えた。ここまで判断を引っ張ったのは相手の手の内を知り、リスクを最大限減らすためだ。

 お前も知っているとおり、おれは用心深い。突発的に攻めることはあっても相手の呼吸を読んだうえの攻めだ。


「あいにくだが小僧、我はさっきの締めつけで腹が痛む。迂闊に近寄ったら三郎の的になるであろな」


 三つ編みが押し込まれる様子を眺めつつ、ヒトラーは呑気にいいやがった。早速職場放棄するとは計算違いにもほどがある。


「それならプレッシャーだけでもかけろ。やつを削るのはおれがやる」

「承知した」


 短く答えるや否や、地面を蹴ったヒトラーはダッシュをかまし、信長の頭上をはるかに飛び越えた。呆れるほどとんでもないジャンプ力だが、偉人級の悪霊なら何をやっても驚きはない。


 もっともそんな並外れた身体能力があるなら、四の五のいわずに信長と戦うべきだろう。とはいえ攻撃は防御の三倍という説があるし、疎漏のある状態でガチンコの戦いに挑むのは物量不足だ。戦線を切り開くのは心身ともに充実したおれでいい。


「聞こえてるか、信長改め三郎。そこの三つ編み野郎は物足りねーだろ。おれとやり合え」


 上から目線でいったところで敵に響くわけがなく、たいていの場合怒らせて終わる。それでもこの世からトラッシュトークがなくならないのは、それが闘争心をかき立てるからだ。

 ついでにいえば信長の注意を強引に引き剥がす必要もあった。器の位置がバレた三つ編みを窮地から救うためにだ。


「総統の陰に隠れていた坊主がよくほざきよる。口達者なだけでは実休光忠の露と消えるのみよ」


 意外なことに信長はトラッシュトークを返してきた。ぶち切れたように見えたがまだ冷静な部分もあるってことか。


「上等だ、老いぼれ!!」


 文句に文句を返し、おれは刀を正眼に構えながら信長のいる場所へスーッと近づく。そのフットワークを違うものに例えるなら、高速で進む動く歩道。地面から足をほとんど浮かさず、それでいて速度は驚くほど速い。たいていの相手はぎょっとするが、信長も例外ではなかった。


「ほう?」


 口では短い反応だが、やつは奇妙な動作に体重を後ろ足へかけた。合理的に説明のつかない動きを見ると、人間は「ほかにも何かある」と感じて警戒モードに移る。これは正気を保っていればいるほどそう動かざるをえない。実技訓練における教官も同じような反応を見せ、おれの仕掛けた罠にはまった。


 信長は怪しげな刀で空気を薙ぎ、“死を殺す”力とやらを発生させる。だったら距離を詰めて相手の懐に飛び込み、インファイトに持ち込めばその技は使えないだろう、というのがおれの立てたプランだ。


 本来なら踏み込まれたぶん後ろに下がるべきだが、人間は後ろ体重になるとその足が楔となって滑らかに動けない。それは信長とて例外ではなく、やつはおれを迎え撃つかたちとなった。


 教官は実技訓練において、おれの弱点を徹底的に潰してきた。ボクシングを通じて研ぎ澄ましてきたはずの動きを、竹刀を使って「雑な動きだ」と容赦なく責めた。


 相手に勝負を挑んで、大きいのを狙って、わずかな隙を突かれ、不用意に貰って。

 それクリーンに入ったらどうするの?

 効かされたらどうするの?

 実戦なら死ぬよ?


 口調こそ違うが教官はそういう趣旨のことを述べ、力ずくで一本を取りにいくおれをぶちのめした。


「ボクシング経験者と聞いたが、攻撃も防御も杜撰だ。頂点に立てなかった理由がよくわかる」


 プライドをへし折るような台詞をわざと放ち、「スマートなだけじゃ困るんだよ、エリートになって貰わなくては。パーフェクトになれ」と追撃した。ほかの連中も彼にボコボコにされたが、おれのやられっぷりは尋常でなく、もはや虐めの類いにすら見えた。でもおれはそうは感じなかった。


「オンリーワンを目指せ、みたいに甘やかされてきたんだろう。そんな甘えをここで殺してやる」


 追い込んで追い込んで追い詰めて。


 パワハラまがいの物言いはただの脅し、とお前は思うだろう。だが強烈な突きを喉に食らったことでおれは考え方を根本的に変えた。この人は口先だけでなく本気で殺しにきている。ブラフではないと。


 ボクシングも剣道も一瞬の動きが勝敗を分けるのが共通点だ。見守る観客はおろか、敵対する相手もなぜ倒されたかわからない。気づいたら床にぶっ倒れていて、天を仰いでいる。

 おれはそういう理想的な結末を目指して、中段の構えから信長の喉を突く。やつは逃げるスペースがなく胴体を半身に捻るが、握った刀には十分な手応えがあった。この間、およそ一秒もない。


「やりおるな、小僧。上手く切り替えた」


 ため息をつくような声でヒトラーはそう洩らした。切り替え。まあボクシングでいえばフェイントだ。

 喉を突くと見せかけて、おれは刀を腹に刺した。顔面狙いはフェイクで、相手がガードをあげた瞬間右ボディにぶっ刺すのと同じ動きだ。

 おれにとってその攻めは得意中の得意だった。教官を沈めたのも同じ胴への突きで、信長の野郎も堪らず地面に膝をついた。右脇腹を押さえながら激しく咳き込み、呼吸ができずにいるのだろう。


 なぜボディがこんなに効くか知ってるか? 知らないなら教えてやる。


 右脇腹には肝臓があり、これ自体は特に痛みを感じない。問題はボディにダメージがあると肝臓が揺れ、肝臓を包み込む横隔膜が揺れることだ。横隔膜は呼吸とともに動く臓器で、これが揺れると人間は呼吸不全を起こし、腹部に張りめぐらされた神経ネットワークが痛みはじめる。


 痛くて呼吸もできない。どんなに屈強なやつでもそんな目に遭えば立ってられなくなる。腹筋をカッチカチに固めていれば防げるだろうが、フェイントでくるともろに食らっちまう。いまの信長がまさにそうだ。


 悶絶して倒れなかったのはさすがとしかいいようがない。だがやつの防壁はさらに削られ、ガラスの割れるような音が周囲にこだまする。あと少し削っていけば、次は致死的なダメージを与えられるはずだ。


 こうなるとおれは信長の器の位置を探る余裕が出てきた。右ボディに刺せたってことは、やつは右に意識がなかったことを意味する。だとすれば左半身か。上に意識があったことを思えば首より上か。


 何度もいうが、こういった思考はたった一秒にも満たない時間でなされている。どんなに苦しくても偉人級の悪霊はすぐに回復してしまう。畳みかけるチャンスはいましかないわけだ。


「三つ編み!!」とおれは叫んだ。立て直す時間を与えた以上、攻めて貰わねば困る。死に物狂いで。


 信長が防御すらできないいまがチャンスなのだ。やつもそれをわかっているはず——


第二相(イデア)


 素早く印のようなものを結び、三つ編みは口から血を飛ばした。除霊師が操る術式を叫んだのだ。

 事実、動きを止めていたやつの悪霊が振動をはじめ、ボコボコと音を立てながら、そのサイズが急激に膨張する。

 2倍が4倍に、4倍が8倍に——

 気づくと悪霊は曇天を覆い尽くす巨大なバケモノに変化していた。その形状は腐敗の進んだ鯨のようで、体表に生えた銃は榴弾砲とさして変わらない。しかもそのバケモノはまだ膨張を続けている。


 三つ編みのやつ、簡単に死ぬ気はないらしく奥の手を隠してやがった。こんなスキルが使えるなんて、除霊局に席を置くエリートレベルじゃねーか。


 三方を敵に囲まれて、信長は完全に逃げ場を失った。三つ編みの悪霊もいるから、正確には四方を包囲されてる。


 膨張を続けた悪霊のせいで、周囲はたちまち薄暗くなっていた。もはやどんな生物にも形容できないそれは、胴体部分から生えた榴弾砲を一斉に撃ち放つ。


「撃ち尽くせ!!」


 三つ編みの怒号が周囲に響き渡り、その声をかき消すように砲声が幾重にも重なる。

 おれは一瞬、地上から体の浮く錯覚を覚えた。三つ編みの攻撃はそれくらい強烈さをきわめ、研修中の演習でも目にしたことのないほどの爆撃がしばらく続く。


 ひょっとしたら倒せるのではないか? そう思わなかったといえば嘘になる。


 最低でも防壁を突破して大ダメージを与え、致命傷を負わせれば反撃の勢いを封じられる。一撃必殺のヒト型悪霊もそこまで弱ればほぼ虫の息だ。本調子が出せないといっていたヒトラーにも加勢させ、三人で信長の息の根を止める。そんなイメージが鮮明に描き出せた。


 けれど煙が晴れていくにつれ、おれは厳然たる事実を突きつけられる。


「やれやれ、虎の子の防壁をこうも易々と失うとは、うぬなかなかやりおる。だが儂を倒す気ならいまのが最初にして最後の好機であった」


 確かに防壁は破れたようだが、肝心の信長は傷ひとつない姿で現れる。立派なあごひげを軽く撫で、余裕の表情だ。顔色は染みひとつない壁のように白い。


 このときおれは、自分が思い違いをしてたことに気づいた。弱れば弱るほど、相手は戦意を失い、動揺や焦りを見せたりするはずだという思い違いを。

 だが目の前の信長は、おれがボディで沈めたときよりもはるかに精気を放ってる。

 体が苦しいときほど心は強さを取り戻し、その強い心が体を無敵に変える。めちゃくちゃな理屈だが、おれは信長に論理を超えた強さを感じた。歴史に名を残す者の傑出度は常人の理解なんて及びもつかないのかもしれない。


 だがおれにだって野心はある。いつか信長のような領域にたどり着くためにおれは生きている。

 こんなところで怖気づくわけにいかない。相手が窮地にいるのは確かなのだから。


「三つ編み!!」


 大声で叫び、指示を飛ばした。ひと呼吸置けばすぐ戦えるだろう。エリートレベルの除霊師なら、それくらいやって貰わないと困る。


第二相(イデア)!!」


 三つ編みが腹立ち紛れのような声を上げたとき、その命に応えて巨大な悪霊が周囲の空気を吸い上げた。

 悪霊は空中に竜巻を何本も発生させ、物騒な音を奏でながら力を溜め込んでいく。体表に生える膨大な榴弾砲が熱した鉄のような色に変化し、いまにも何かを撃ち出しそうだ。


 おれの抱く直感は、答えからいうとほぼ正しかった。悪霊は眩い光輪を放ちながら天地を揺るがすような爆発音を二、三度轟かせ、白く灼けた砲弾を連射した。


 その砲弾はほとんど目視できない速度で信長の体に着弾する。遠距離兵器を至近距離で使うのだから当然の結果だ。


 立ち昇った黒煙のおかげで信長の被害は未知数だったが相当なダメージを与えたことはわかる。なぜなら信長の周囲に生えた芝生は跡形も無くなり、抉れた土が数十センチほどの穴と化していたからだ。


 やがて風にかき消された黒煙が左のほうに流されていくと、損傷も露わに信長が姿を現わす。


 おれがそこから感じ取ったのは半壊の城だ。信長は攻撃をガードすべく頭上に腕を突き出し、反対の手で左脇腹を押さえている。しかし防御に限界があったのだろう。甲冑は引きちぎれ、鎧は割れており、こめかみは血がべったりだ。


 すぐさま反撃をしてこない様子を見ると霊力の目減りが想像以上に大きいのだろう。濃厚な気の匂いが漂い、このまま追い込めそうにも見える。


 だが、そんなときほど人は死に物狂いになり、執念を見せつけるものだ。現におれが刀を構え直すと、信長は肩で息をしながら不可解なことをつぶやく。


「痛くも痒くもなし」


 爆風に煽られたヒトラーは危険な場所から距離をとり、半壊状態の信長を冷ややかな目で見つめている。

 甚大なダメージを与えたことに喜んでいるのか、まだ健在を示していることに怒っているのか、どちらとも取れない平板な表情だ。


 おれはしかし、信長が左脇腹を押さえている姿に目を奪われた。さっきボディを決めたのとは逆の腹を庇っている。守りたいものがそこにあるのだ、と感じとった。答えは問うまでもない、器だ。


 器の位置であろう場所を見据え、刀をはすに構えたが、信長はそこをマントで遮り、傷の深さを感じさせる昏い息を放った。


「ある者は(わらべ)を殺されたとき。ある者は忠臣の首が届いたとき。儂の場合、自害を決意したときを思い出すことで本当のおのれに立ち帰れる。死の悔しみを知らぬ者どもよ、愚昧に溺れたまま朽ちて散りゆけ——」


 信長は念仏のようなものを唱え、実休光忠の切っ先をおれのほうにむけた。そして短い呪詛を述べた。


超越界(ちょうえつかい)


 そのひと言が発せられた瞬間、世界の色彩が反転した。

 白いものは黒に、明るい色は闇に。当然昼間の景色は夜に近くなる。

 世界が突然一変してしまったことにおれはおろか、近くにいる三つ編みも絶句した様子が伝わってくる。


 最初に頭をよぎったのは後悔だ。こうなる前に仕留めきれなかったことへの後悔。自分の力不足への後悔。


 ヒト型悪霊は怖い。強いではなく怖い、と教官はいった。

 やつらがなぜ人類の領土を恐ろしいほど短期間で征服し、領民を皆殺しにできているか。

 一騎当千という言葉があるが、やつらの強さは兵や将ではなく軍隊としての強さだ。たったひとりの悪霊が一個師団に相当する。数万の軍隊に匹敵するのだと教官はいった。

 しかしそれだけなら強さであって怖さではない。教官は“神秘”と呼んだ。それこそが悪霊の本当の姿であり、恐怖の源なのだと。

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