八面六臂(はちめんろっぴ)ガール
今回はRevi部の後見人的存在の五色彩のお話。
彼女には愛たちの知らない一面があった。
――朝の5時
「んん〜〜よく寝た。そろそろ準備しないと朝練に遅れちゃうよ!!」
私は軽いダッシュで学校に向かった。
そのままテニスコートに到着して着替え始める。
まぁこんくらいなら余裕だね。息は上がらない。
「おーっすアヤ。今日も飛ばしてくぞ!! 気合、こめてけよ!!」
この子は咲。私がダブルスを組んでいる相棒だ。
「ナイッサー!!」
朝のコートに清清しい掛け声が響く。
私、こうやって汗をかくのがたまらなく好きなんだよね。
自然体のままでサーブを……撃つっ!!
「サービスエース!!」
強烈な一発が決まると思わず春ちんとハイタッチを交わした。
「うっし!! いい感じだぜアヤ!!」
「はいた〜っち!!」
咲ちんは根っからのスポ根熱血漢だ。
なぎさちんと繋がるものがあるかな。
朝練が終わってしこたま水を飲んだ相棒は眉をひそめた。
「おいアヤ。お前、最近浮気してるだろ? 知ってんだぞ他の運動部のヘルプに入ってんの。放課後もこっち来いっつーんだよ。そりゃ生徒会長が忙しいのはわかる。だからこそ他にうつつを抜かしてる場合じゃねーだろ」
確かに咲ちんの言うことはもっともだ。
とても申し訳なく思うけど、ヘルプもやりがいがあるんだよね。
というか見て見ぬふりが出来ないと言うか。
「ゴメンちょ。埋め合わせは肉まんでどうかな?」
「乗った。ただし2個でピザまん追加な」
私達は拳をコツンとぶつけあった。
テニス部の練習が終わると今度は朝会でクラス委員の仕事だ。
「生徒会に提出する意見調査をします。何かありますか?」
皆が生産的な意見を出すので委員長としてはかなり忙しい。
「はい。図書館を午後8時くらいまで開けておいてください。集中できる環境なので」
「人数が増えた運動部を愛好会から格上げしてください。フットサルとか。フットサルとか」
「そりゃもちろんヤキソバパンを多く入荷してほしいンだナ!!」
クラスは和やかな笑いに包まれた。
「はい。じゃあこの4案を採用して生徒会に提出しますね」
そして私は職員室に提出案の結果を報告しに行った。
担任は結城先生という女性教師だ。
「全く。運動部に生徒会、試験も毎回トップクラス。それに最近はリ……ナントカ部も引き受けているらしいじゃないか。結構な事なんだが、五色はやりすぎるきらいがある。休みを入れないと体を壊すよ」
私はニッコリと笑みをかえした。
「確かに忙しいし、大変なこともあるけれど、私はこの達成感が好きなので」
(こいつマゾだな……)
「ん? 先生、何かおっしゃいましたか?」
「ああ、いや、なんでもない(あぶね〜)」
そして昼休みはお弁当を持ち込んでRevi部の皆とおしゃべりする。
「あ〜翼先輩、私のからあげ〜!!」
「私の卵焼きと交換してやろう!! エンリョするでないぞ!!」
「白米にはプロテイン!! 最高のスパイスだろ⁉」
「いや、なぎさ。何度目かわからないけど、それは無理があるよ……」
「は〜いみなさ〜ん。美味しいハーブティーですよぉ〜」
櫻子ちんはそう言ってティーカップに謎のお茶を淹れ始めた。
愛ちんだけが露骨に怪訝な顔をしてるね。
でもこれが意外と……。
「うむ、毎回、櫻子の茶はうまいな!!」
「科学的に解き明かせる気がしないわ」
「この若干の渋みがイカすぜ!!」
もちろん私も躊躇せずに飲んだ。
「櫻子ちんは偉いね〜。Revi部の癒やし担当だよ〜」
それを聞いていた愛ちんは恐る恐るハーブティーに口をつけた。
「え……あ……おいしい!!」
誤解なんだよね。櫻子ちんは怪しいハッパに関わってないって。
「ウフフ〜〜。この間、河原に生えていた綺麗なお花をお家にもってきまして。香りを吸っているととても気持ちよくなって、ポプリも作ったんですよぉ。ウフフ……」
櫻子ちんは……櫻子ちんは関わってないんだよ。多分……多分。
昼休みが終わったら午後の授業。
流石に眠くなるけど、先生の話はちゃんと聞いておきたいからね。
毎日、こんな感じでこらえているのだ。
放課後になると今度は生徒会だ。
まずは今月の議題についてのミーティングをする。
そしてさっきの各クラスの要望依頼書をまとめて投票できる形までもっていった。
「会長。書類にサインをおねがいします」
オーセンは自由な校風だけあって様々な仕事やトラブルがあがってくる。
そのたびに私はペッタンペッタンと書類にハンコを押すのだ。
放課後、帰りの準備をしているとバスケ部の子が声をかけてきた。
「彩さん、お願い!! 今日もヘルプに入って!!」
もうしょうがないにゃあ。というわけで3時からはバスケ。
このチームはまだ若くてリーダーシップをとれる選手が居ない。
勝手に支柱を買うのはおこがましいけど、その事に気づいてくれればいいと思う。
自分のポジションはPG。各ポジションに指示を出したりする。
ボールが回ってくると人差し指を立てながら声をかけた。
「1本!!ここから1本だよ!!」
残念ながら私には身長もパワーもない。それなら出来ることをやるしかないよね。
フォワードにボールを預けつつ、フォーメーションを上げるようにサインを出した。
次の瞬間、フォワードがシュートをミスした。
「センターーッ!! オフェンスリバン!!!!」
うまくゴール下の選手がボールを拾った。
「彩さん!!」
3Pの打てる私に回してきた。
チームワークに頼らない未熟なボール運びだ。
それでもフリーのチャンスであるのは間違いない。
私は姿勢を整えてシュートを放った。
――スパッ……
ボールはゴールに吸い込まれるようにしてネットを揺らした。
そして私達は練習試合に快勝した。
ただ、チームにとってはまだまだ改善すべき点は多い。
そもそも私に頼りっきりでいるといつまで経っても勝てないわけだし。
ちゎんと釘をさしておこう。
「あ、もう6時かぁ……」
まっすぐ家に帰るとお母さんが好物のオムライスを作ってくれていた。
そうこうしているとお父さんが帰ってきた。
「ほら。母さん、彩。今日は美味しいケーキが手に入ってね。皆で食べよう!!」
みんなで団らんすると私はお風呂に入ってから部屋に戻った。
「ふぁ〜あ。今日もよく頑張ったなぁ〜。でも、まだまだ!!」
夜9時からの2時間。毎日みっちり勉強してから寝ることにしてる。
頑張って志望校に受かって、将来は先生になれるといいな。
我ながら面倒見はいいほうだと思うんだよね。
さて、寝ようか。だけど今日はいつもと違ったんだよ。
「なにこれ……目がギンギンしてムラムラするよぉ……」
この夜、Revi部の面々は興奮して一睡もできなかった。
確かにお茶には異常はなかったので誰も気にしなかったのだが。
「ウフフ〜。たまには眠れない夜もありますわね。"たま〜"に。フフフフ……」