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ヒロインを探せ!

 事情はわかるような、わからないような……だが、とにかく原作のゲームに近づくよう、軌道修正をしなければならない。そして目の前で弱っている友達を、元気にしなくては。

「一刻も早くヒロインを探しましょう」

「ヒロイン? なんのことですか?」

 ロザリア嬢がいるのを瞬間、忘れていた。慌ててきょとんと首をかしげている彼女に、

「気分転換にお散歩とお茶、どうかしら? 行ってみたい場所があるの」

 と、誘ってみる。

「行ってみたい場所、ですか? よろしいのですか? 日の曜日以外は勝手に学園から出てはいけないきまりですわ」

 ロザリア嬢、思いのほか真面目な生徒だったらしい。

「きまりは破るためにあるの! 赤信号もみんなで破れば怖くないわ」

 えへんえへん、と咳払いが割って入った。そちらを見れば、ちょっと眉毛を持ち上げたセリーヌである。

「お嬢さま、今の問題発言は聞かなかったことにしますが……幼き頃より養育して参りました立場で言えば、聞き捨てなりませんよ」

「ご、ごめんなさい、ばあや」

「安全に気を付けて、いってらっしゃいまし。お二人のお留守は、このばあやがしっかり誤魔化しておきますから門限までにはお戻りを」

「ありがとう、セリーヌ! 大好き!」

 

 こうして二人で馬車に乗り、目指す場所は公園のカフェ。木漏れ日の中を、のんびり歩く。この頃にはロザリアの涙も止まり、周囲をキョロキョロ見ている。

「こんなところに、ヒロインがいるとは思えないんだけど……」

 だいたいこのゲームにちゃんとヒロインが存在しているかどうかすら、怪しい。

「あ! あの、エマさま、ここのカフェは最近、新しいウェイトレスが入ったとか……」

「あらそうなの? どんな人?」

「えーっと、ピンクの髪に黄色い眼、いつも黒いワンピースを着ている庶民の女の子らしいです。王立アカデミーの、一般クラスに通いたくて学費をためているそうですわ」

 健気な子! と、エマの目に涙が浮かんだ。しかしせっかくいい子を見つけたが、ヒロインではなさそうである。確かヒロインは子爵令嬢だった。

「頑張って欲しいわね」

「はい。卒業さえすれば、原則貴族が就任する大臣や役人になれるしあちこちにお役所や神殿にも就職できますから……」

 店内は、かなり広かった。

 女の子たちが忙しそうに働いている。エプロンはみなおそろいだが、ワンピースは自前なのだろう。華やかなワンピースを着ている女の子がたくさんいる中で、一人、烏のように黒い子がいた。

「……ん?」

 エマは目を擦った。

 テーブルからテーブルへ蝶のように飛びまわっている彼女は――魔法が垂れ流し状態である。

「制御する方法を知らないんだわ……」

 あの調子なら、自分が魔法が使える、魔力持ちと言う自覚すらないかもしれない。

 そもそもなぜエマに『他人の魔力の流れ』などと言うものが見えるのか謎だが、いちいち謎を解明していたら時間がいくらあっても足りない。

 現に今、目の前の彼らは二倍速というか早送りのような状態で動いているのだが、ロザリアはべつだん、不思議に思っていないらしい。早送りで見えているのはエマだけ、ということだろう。

「……本当によく働く子だわ」

 エマたちのテーブルにも、彼女が頻繁にやってくる。その時だけは倍速が解除されるらしく、会話も普通に楽しめた。

 エマは、ハッと気づいた。何かここでイベントを起こさなければいけないのだ、と。

「きっとあの子に関することよね……あの子の希望はアカデミーに通うことって言ってたわね……」

 はい、と、向かい側に座るロザリアもキラキラした目で彼女を見ている。

「庶民がアカデミーに通うのは大変ですわ。試験を突破したら難関の面接が待っていて、実技試験を受けた後、紹介者を用意しないといけないんですもの」

「……爵位があればね。ぜんぜん違うんだけど……」

 ふいに、エマの脳みそがジーンと痺れた。それと同時に名案が閃いた。

「知り合いの子爵家の養女にしちゃえばいいのよ」

「なるほど! 子どもがない子爵家……んー、ハーティル家などはどうでしょう? あ、ほら、ちょうど入店してきました」

 品の良い老夫婦が仲良くコーヒーを飲みに来た。子爵でしかないのに、その優雅で気品あふれる佇まいは高位の貴族かと錯覚を起こしてしまうほどだ。

 それに、妻の方は美術系に優れ、夫の方は鉱石専門の学者だったはずだ。

「……ちょっと打診してみましょう」

 いきなり立ち上がったエマに驚いたのだろうロザリアは「え、あの、ちょっと……」とおろおろしている。

「ちょっとよろしいでしょうか?」


――のちのち、エマは悔やむのである。この出会いを……。


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