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え、原作との乖離が夥しいのですが!

 学生寮は、敷地の外れに存在している大きな赤い屋根の建物だ。立地こそ端っこだが、いろいろなイベントやドラマが展開されるという意味では「主役級」、ゲームのマップでも学生寮がど真ん中である。

 玄関や食堂、図書室や自習室、舞踏室など男女共有のものもあるが、建物の中で男子寮と女子寮に別れ、それぞれがかなりの広さを持っている。

 エマの部屋は、当然であるが女子棟に存在し、最上階のワンフロア、つまり全部がエマのものである。

 むろん、わがままお嬢さまがわがままを連発して他の令嬢から召し上げたものである。

 前世の、日本人のOL安堂恵茉だったころの記憶を取り戻してからは一部屋しか使っていないため(それでもスペースが余っている)最上階の大半が空き部屋になってしまった。

 この空き部屋を何かに活用できないかといろいろ思案して学園に提案しているのだが、今のところ許可が下りたのは『優秀な庶民の女の子を特別に通わせる』ための部屋、下宿としての活用法のみである。

「あらあら、お嬢さまお戻りですか?」

「ばあや! あのね、ちょっと大変なの」

 はいはい、と穏やかに微笑むのは、これもやっぱりわがままお嬢さまエリザベータが、無理を言って家から連れてきた乳母のセリーヌだ。セリーヌはどうやらお嬢さまが恵茉の記憶を取り戻すのを待っていた節があり、人格がまるで変ってしまったエリザベータを目の当たりにしても全然驚かなかった。

 本来のゲームでは、ほとんどセリーヌに関しての描写がないのでどんなキャラ設定なのかは不明だ。だが――仕えている主の前世の記憶が戻るのを待つ、なんていう設定であろうはずがないので、本来の原作にない動きをしているのは間違いないだろう。

「お嬢さま、髪の毛を束ねましょうねぇ」

「なかなか重たいのよね、この髪も……」

 緩やかに波打つブロンドは頭頂部で一つに束ねてなお、腰に届く。髪飾りがいくつもついて、それも重量がある。

 それらを解いたばあやは、一体どうやったのか前髪とサイドはコテで巻いたかのようなカールにし、夜会巻きでちょっとやそっとでは崩れない髪型にしてくれた。

 髪飾りもメイクも公爵令嬢らしく小綺麗に整えてもらい、テーブルにメモを広げながら唸る。

「うーんうーん、どうしたら……破滅を回避し、女王も回避し……」

 一人でぶつぶつ呟いていると、扉が控えめにノックされた。セリーヌが応対して、

「エマさま、おはようございます」

 と、入ってきたのは青い髪に青い瞳の細身の令嬢だ。スカートの裾を摘まんで、ちょこんと膝を曲げて優雅に挨拶をする。ドレスも青で、顔色も真っ青だ。

「……おはよう、ロザリア嬢どうしたの?」

「き、きいて、ください……わたくし、婚約破棄されちゃったんです、うあぁぁ……」

「え!? ど、どうして……」

「よく、わからないんですが……わたくしの悪行がどうの、心優しいレディがどうの、って……わけがわかりません」

 原作にそんなエピソードはない。本来のロザリア嬢は最後までエマの取り巻きでいるため、一緒に学園や王都から追放されるはずだ。

 本来のストーリー展開との乖離が気になるところだが、目の前で泣き崩れるレディを放ってはおけない。

「ばぁや、とりあえずあたたかい飲み物を持ってきて頂戴!」

「はいはい、すぐに」

 ぐすぐす、と泪を流しながら紅茶を飲むレディは、見ていて本当に痛々しい。どこの世界であっても、恋に破れて涙する女の子と言うのは見ていて辛いものである。

「……それで、今日、婚約破棄を告げられたの?」

「いいえ、夕べの――夕食後の自由時間、談話室で突然。ヘンリーったらまるで人が変わってしまったかのようで……」

「ああ、それは辛かったわね」

「わたくし、ヘンリーが他の女にうつつを抜かしているなんて、ぜんぜん気付きませんでしたの!」

 そうだろう、昨日のティータイム、二人は仲睦まじい様子でカフェでお茶と会話を楽しんでいたではないか。次の休みは、美術館へ行こうと約束していたのをエマも小耳に挟んだ。

「おかしいわね……」

「はい、そうなのです」

 いくら何でも急展開すぎる。家の事情で急な婚約破棄はないわけではないが、それなら、父親経由で彼女は知らされるはずである。

 その上、本来のストーリー展開との乖離が夥しすぎる。わけがわからない。

「ヘンリーのあまりの変貌ぶりがおかしくて徹夜でいろいろ調べてみましたの。魅了の魔法をかけられてしまったのかな、と思うのですが……でも、いったい誰に……? いえ、そう都合よく思いたいだけで、やっぱりわたくしが至らなかったのでしょうね」

 そうかそうか、ここは魔法も使える世界だった――と、エマは今更ながらに思い出した。ごく一部の人にのみ宿る特殊能力、魔法。自分に魔力がないので、すっかりそれを忘れていたのである。

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