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魅了の魔法の思わぬ対処法。

 巨大なノルウェージャンフォレストキャットは、どこからか取り出した分厚いノートを人間たちの前に置く。

「大昔、人間たちは食べられるモンスターの肉を速やかに加工して王都に運んでたニャ。このハンティングマップの拠点に最初から厨房や食材がセットされているのはそのころからの伝統ニャ」

 古い日記には、モンスターの倒し方から調理方法、もっとも短距離の運搬ルート、もっとも儲かる(途中経由する村で売るらしい)ルート。それから気を付けるべきことなどが事細かに記されている。

「つまり、討伐隊と料理人と輸送部隊が必要なわけね」

「ふーむ……エマ、それらの人材をどうやって確保するかが問題ということだな」

 王子が、何やら思案をはじめた。が、残念なことにフィリッツ王子の頭は考えることに向いていない。そのため、すぐに考えることをやめて隣に座るティアの髪や頬を撫で始めた。

 途端に、それまで控えめだった、お馴染みのピンクの靄があっという間に濃くなり、二人を取り囲む。王子の目がトロンとなり、表情も蕩けていく。

 当然、苛立ったエマが「だん!」と足を踏み鳴らすが、一瞬靄が晴れるものの、すぐに立ち込めてしまう。

「え、この方法が効かないなんて困ったわ」

 再び、だんだん! と強く踏み鳴らす。ティアがびくっと震えて靄が一瞬薄くなる。

「ざっと己の学友を思い浮かべてみたんだが……まともにモンスターと戦えそうなやつはディケインくらいだ」

「でもぉ……」

 なんだい? と王子がティアを抱き寄せる。あっという間に立ち込めたピンクの靄で二人の姿は霞む。

「殿下がご命令すればぁ……みんな喜んで参加すると思うんですけど」

「ふふ、そのとおりだね。可愛いティア、きみがみんなに呼びかけるって言うのもアリだと思うよ」

「え?」

「きみが、微笑めばそれだけで……この俺がそうであるように……可愛いティア」


――魅了の魔法で兵士集めですか、やれやれ……


 王子とティアの撒き散らすピンクの気配に辟易したエマは、串焼きを掴んでくるりと二人に背を向けた。

 濃密なピンクの気配、何やらリップ音までしてくる。喘ぎ出したらただじゃおかないから、とエマは手にした串に力を籠める。

 しかし、「だん!」が効かないのではこまる。この先、ピンクの靄が立ち込めた時はどうやって対処すればいいのやら。

 が、国王陛下からの手紙を再度引っ張り出して無理矢理そちらに意識を向けた。

「……オガサ・ワーラ・ショトの森の奥にある青の洞窟……ん? 小笠原諸島? まさかね」

 で、このオガサ・ワーラ・ショトはどこにあるのだろうか。

 当然、もともとのゲームには存在しない土地なので、エマの記憶にも前世の攻略本にも該当する項目はない。

「ハンティングゲームの基本だと……テントや休憩所に備え付けられてるボックスに、便利グッズが用意されてるけど、いくらなんでもねぇ……」

 もぐもぐ、ごっくん。ごくごく、ぱくぱく。思いのほか、食事が美味しい。それだけで幸せな気分になれる。

「よおっし! 冒険に出発するわ」

 食べ終わった串を手にすっくと立ちあがったエマを、王子とティアがぽかんとして見つめる。間抜け面に、串を投げつけてやりたい衝動に駆られるがぐっとこらえる。

 ふとエマの視界に、ペンダントの光が飛び込んできた。

「ティアさま、ペンダントありがとうございました。お付けしましょうか?」

「あ、お願いしまぁす」

 ティアがピンクの髪を掻き分けたので、白く細い首筋が剥き出しになる。そこに赤いナニカをみつけてぎくっとするが、見ないふりをする。

「はい、できまし……た……」

 あらぁ、とエマは目を丸くした。ルビーが一瞬強い光を放ち、ティアを素早く包み込む。あれだけ撒き散らされていたピンクの靄が、急速に消えていく。


――なるほど? 孫娘の魔力が垂れ流しなのを懸念して魔力制御の魔石を贈ったのね


 ピンクの靄が消えてしまえば、王子はきょとんとした顔で食事を始めるし、ティアも「エマさま、どちらに向かわれるのですか?」と普通に聞いてくる。どうやらティアの魅了の魔法は、ティア自身すら惑わすものであるらしい。何とも厄介である。

「オガサ・ワーラ・ショトの森の奥にある青の洞窟を目指し、そこにあるお宝を王都へ持って帰ります」

 え? とティア子爵令嬢の目が丸くなった。

「お待ちください。そこに本当に、お宝があるのですか? 名門公爵家のご令嬢を偽の情報で誘い出す……という可能性はないのですか?」

 エマは――いや、恵茉はそのことを失念していた。

「だ、大丈夫だと思う、わ……」

「お? オガサ・ワーラ・ショト、父上から聞いたことがあるぞ。王家の宝物が沈められているとか」

 どうやら本当に、そこにお宝が眠っているらしい。

「よし、俺も同行しよう。宝箱の開封だったか、秘密の扉の開閉だかには王族がいると楽なはずだ。エマ、具体的な場所は知っているのか?」

「いいえ」

 ちょっと待ってろ、と、自分のテントに一度戻った王子は、手に大きな地図を持っていた。

「場所はだな……確か、ここだ。今いるのが、ここ。まぁ、地図の西端から南端への移動だな。楽しい朝食の後は、運動だ。行けるか? ティア、エマ」

 魅了の魔法にかかっていない殿下の姿は以前と変わらない。どこか懐かしく思うものの、王子に対して愛情や復縁といった気持ちはまったくないことに気が付いた。

 一度は婚約者だった相手に対して、薄情だろうか。

「アンソニーに、意外な気持ちになったって教えてあげたいわ……」

「エマ?」

「いいえ、参りましょうか」

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