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ヒロインちゃんはどこ!?

 酷く退屈な『社交界における行儀作法』の授業を聞きながら、各エンディングと攻略ルートを紙に書きだしていく。

「……だめよ、そろそろヒロイン登場しないとイベントが進まないわ」

 ヒロインが登場すると、自動的にエマは悪役令嬢となってしまうのだが――いまのところ、ヒロインと露骨な敵対関係は避けたいな、と思っている。そうすればヒロインに意地悪の数々をする必要もない、気がする。

 それにしてもいったいヒロインはどこにいるのか。

 彼女はたしか子爵令嬢、子爵家の扉を一軒一軒ノックしてまわれば見つけられるだろうが、手間暇がかかる。

「ヒロインちゃん、どこよ……」

 ヒロインの登場が遅いこと以外にも、気になることはある。

 そもそも、ゲームのエリザベータはフルネームがエリザベータ・アニエス・カタリヘルナだった。が、どうしたことか、恵茉が転生したエリザベータは『エリザベータ・アニエス・エマ・アンドゥー』である。それに伴い、恵茉がプレイしていたゲームには存在しなかったアンドゥー公爵家なるものが出来ていて、カタリヘルナ家は侯爵家として存在している。カタリヘルナ家には娘はいなくて息子が二人、その一人が攻略対象となっている。

 それが、さきほど引き留められた貴族子弟フィーゴである。

「フィーゴって本来は、大教皇子息だったはず……あら、そういえば大教皇の国家宗教圧力イベントがなかったわね」

 あら? あらら? とエマは首を傾げた。

 本来ならモブキャラのミーリアはモブキャラの貴族子弟A(残念ながら名前はない)とくっつくはずだが……フィーゴという重要人物と恋愛イベントが起きようとしている。

 微妙に――いや、かなり本来のゲーム展開から逸れてきているらしい。本来の展開に戻さなければいけないだろう。たぶん。

「確か、ミーリアが恋人とくっつくデートイベントが起こる舞踏会が開催されるのは来週の週末だったはず……」

 呟いたエマは、メモする手を止めた。教室では、淑女のたしなみ、なる項目を先生が音読しているが、現代日本人の感覚でいると時代錯誤はなはだしく、とても耐えられるものではない。

 聞いているうちに、イライラしてきたエマは思わず立ち上がると、机をバンバン叩きつつ、

「女だけに嗜みを求めるのは間違っているわ。クソみたいな男どもにこそ、嗜みを叩き込むべきよ」

 と、叫んでしまった。

 教室中が、シーンと静まり返り、すべての目がエマを見ている。


――しまった……やっちまった!


「エリザベータ・アニエス・エマ・アンドゥー嬢。そのような考えでいいと思っているのですか?」

 銀の髪をひっつめて、濃い緑のドレスを着た年配の先生がエマを鋭く見る。

「あ、え、あの、はい……。いえ、いいえ」

「どちらですか!」

 ごめんなさい、と反射的に謝ってしまう。先生が、近寄ってくる。上半身がちっともぶれない、見事な歩き方である。

「そのような淑女の枠からはみ出したままだと、フィリッツ王子の寵愛を失いますよ」

「は、ははは……あっはっは、はい、以後、気を付けますわ」

「あとで、わたくしの部屋にいらっしゃい。いいですね? まったく、フィリッツ殿下に申し開きもできません」

 そう、エマにはフィリッツ王子という幼いころからの婚約者がいるのだ。前世の記憶を取り戻してから、どうにも彼が物足りなくて距離を置いてしまっている。

 もともと一緒に居ても甘い雰囲気は皆無、親しく過ごした記憶も記録もない。完全な政略結婚なのだから、そんなものだろう。

 だが、愛情は持ち合わせていないが情はある。学園を卒業したらすぐに花嫁修業に入り、来年には結婚する予定になっている。

「……そうよ、ヒロインちゃんに円満に押し付けてしまえばいいのではなくて?」

 円満に譲って自分は自分で別の男と結婚すればいいのではないか?

「し、失礼しますわ! 考えなくちゃ」

 教室を後にして、カフェテリアに向かう。

 ゆっくりコーヒーを飲みながら、自分でまとめたメモを読み直す。

「まって、このイベントって……えーっと、わたしが主催する舞踏会じゃない!」

 さらっとテキストで「エマ主催のハロウィン舞踏会ではじめて一緒に踊って、そのあとデートに誘われ婚約にいたった二人」と語られるのみだから、うっかりしていた。

「……今から計画して間に合うかしら……」

 苦手なお裁縫の授業はサボることにして、エマは回れ右で学生寮の自室へと駆け戻った。


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