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白い少女

9月中は、毎日更新を目指します

 竜次は強烈な光で視界を奪われた。とっさに腕をかざし、目を守る。

 光の出どころを見ようとするが、逆光でよく見えない。


(しまった、警備員か……!)


 このまま逃げるか、何かいいわけをして誤魔化すかを竜次が逡巡していると、男が呆れたような声を出した。


「やっぱり来たな、駒井……」

「何で、オレの名前っ!?」


 驚いて見やると、男が竜次からライトを逸らした。

 やっとその姿が見えると、そこに立っていたのは竜次と同じ制服を着て、ボディバッグを背負った少年。

 (あき)だった。


「な、何でお前がここにいるんだよ、孤塚(こづか)!?」


 竜次の問いに、灼はひとつ大きなため息をついて、答えた。


「どうせお前らは忠告をしても誰かしら来るだろうと思ったから、見まわりをしてやっていたんだ。来たのは、駒井ひとりだけか?」

「そうだよ、オレひとりだよ! 悪いか!?」


 冷静な声で指摘されたことに、竜次はバカにされた気がして、苛立った。


「いや、ひとりなら好都合だ。目撃者は悪戯に増やしたくない。それに、たとえ犠牲者が出てもひとりなら、大ごとにはならない」

「は?」


 何をいわれているのかよくわからないが、何だかとても不穏な話をされている気がする。

 竜次がひとりで来た安堵のためか、灼は珍しくにこやかな笑みを浮かべている。

 もっとも、この会話の流れで笑っていても、逆に怖いだけなのだが。


 竜次が詳しく訊こうとして口を開きかけたとき、灼がひとりで来たのではないことに気づいた。

 灼の後ろに隠れるようにして、もう少し小柄な人かげが立っていたのである。


「……誰?」


 竜次の視線に気づいた灼が促すと、ひとりの小柄な少女が前に出てきた。


 御山高校の男子制服は、普通の黒い詰襟タイプで、夏服は半袖の白いシャツのみになる。

 女子制服は、セーラー服だ。白い襟の白い半袖に青いネクタイ、白い膝丈のスカート。全体的に、とにかく白い。汚れが目立つということで、女子生徒と保護者からは不評だが。

 少女は、その白い制服を着ていた。


 竜次の眼は、その少女に釘づけになった。

 かなりの美人である。しかし、釘づけになった理由は、それだけではない。

 彼女の腰までかかりそうなほどの長く白い髪、くりっとした青い瞳。黒い闇の中、対照的に全身が真っ白で、窓から差しこむ月の光を浴びて、淡く輝いている。


 その神秘的な雰囲気とあいまって、竜次はまるで天使にでも出会ったかのような気分になった。


「キレイな子だなあ……」


 つい、ポロッと本音が溢れた。


 その瞬間、少女の色素の薄い真っ白な頬に、サッと赤みがさしたことを、灼は見逃さなかった。

 見惚れている竜次の視線を遮るかのように、さりげなく少女を背に隠した。


「彼女には、魔除けのお守り代わりに、ついて来てもらった」

「……あなた、わたしのことを何だと思っているの?」


 少女は灼の後ろから顔を出すと、不機嫌そうに眉をひそませた。

 その言葉の意味は竜次にはわからなかったが、他にも気になることはあった。


「見覚えないけど、この子、うちの高校にいたっけ?」


 こんな美少女ならば、どこで出会っても必ず忘れないだろう。しかし、竜次は知らなかった。

 まだ入学して、数ヶ月しか経っていないせいだろうか。たまたま出会わなかっただけなのか。


 灼は、その質問に答えなかった。

 代わりに、少女が口を開いた。


(あかり)

「え?」

「燈よ。わたしの名前。あなたは?」

「あ、えっと、駒井竜次。竜次でいいよ」


 竜次は、にこやかに答えた。いや、にこやかというより、デレデレとした笑顔といったほうが、正しいかもしれない。


「そう。よろしくね、竜次くん」

「さっさと帰れ、竜次」


 ニコッと笑う燈の横で、灼がムスッとしている。対抗心のためか、呼び方まで変わっている。


「お前まで竜次と呼んでいいとはいってないぞ、灼!」

「こっちこそ、名前で呼べだなんて、ひと言もいっていないぞ……」


 しばし、ふたりが睨みあう。

 燈が呆れた顔をして、ふたりの間に割ってはいった。


「とにかく! ここはお化けが出て危険だから、早く行きましょう。外まで送っていくから」

「でも、オレ、まだやることが……」

「燈様に口ごたえするな!」


 竜次は、目を丸くした。

 普通、高校生同士で名前に「様」なんて、つけるわけがない。


「……何で、『様』?」


 最初は、友だちか姉弟かと思ったが、そうではないらしい。このふたりは、一体どのような関係なのだろうか。


「あ? 高貴なお方なのだから、当然だろう?」


 灼は不思議そうに、「至極真っ当なことだ」とでもいうような顔をした。


(『高貴なお方』って何!? 全然ついていけないんですけど……)


 竜次は困惑した。

 灼が何を考えているのか、全くわからない。ひょっとして、からかわれているのだろうか。


 竜次の反応に気づいた燈が、灼をジロリと睨んだ。誤魔化すように、コホンと可愛らしい咳払いをひとつして、いった。


「いいから、大人しく帰って。死ぬわよ」

「死ぬって、いくら何でも……」


 大袈裟だ、と竜次は思った。何の冗談だと。

 そもそも、お化けとかいうものの存在だって、信じられるわけがない。


 しかし、燈は大真面目にいっているようだ。

 愛想はよいが、灼と同じで、何を考えているのか読めない少女だ。

 灼も追いうちをかけるように、続ける。


「先にいっておくが、お化けが出たら、僕では手に負えないからな」

「何で? お前、喧嘩は強いんだろ?」


 不思議そうな竜次に、灼が呆れた顔で、本日何度目かのため息をつく。


「どうして、喧嘩と同列に考えているのかわからないけど……」

「ちょっと待って! 灼、あなた、喧嘩なんかしているの? ダメでしょう、危ないことをしては!」


 燈が灼を叱った。大して年が変わらないはずなのに、その口調はまるでお母さんのようだった。


 灼が「余計なことを」といわんばかりに、竜次を睨みつけた。

 しかし、すぐに燈を宥めて、続けた。


「あー、とにかく、話を戻そう。いいか? 前提として、燈様ほどの霊力があれば、大体のお化けは寄ってこない」

(ああ、さっきの『魔除けのお守り代わり』って、そういう……。いや、霊力の意味はわからないけど)


「だけど、それでも寄ってくるお化けは、よほど強い奴か、理性のない奴だ。僕のちっぽけな霊力では、そんなものに大した抵抗はできない」

「いや、まだオレ、そのお化けとかいうのを全然信じちゃいないけど……。でも、その理論なら、燈ちゃんが何とかできるんじゃないの?」


 竜次の「燈ちゃん」呼びに、灼の眉が一瞬ピクリと動いたが、何もいわなかった。


 燈が首を振って、答えた。


「ダメよ。わたしの力は契約者がいないと、使えないもの」

「どういうこと?」


 竜次の問いには答えず、燈はニコリと笑っただけだった。そのまま、無理やり竜次の手を引いて、歩きだした。


「さあ、帰るわよ」


 灼は不服そうだったが、何もいわずに燈に従った。

 むしろ、いきなり手を握られて慌てたのは、竜次だった。


 チャラく見えても、実際は女子とお付きあいをしたこともない。大抵は「竜次くんって、いい人だよね」といわれてしまうタイプだった。

 つまり、女子の手を握ったこともないのだ。


(そんな、大胆な……。燈ちゃんの手、氷みたいに冷たい。手が冷たい人は、優しいっていうよな……)


 幽霊調査のことも脳内からふき飛び、竜次はひたすら、変態のようなことを考えてしまった。


 放心状態のまま、ふたりについて行こうとしたときだった。突然、足もとで何かが動く気配がした。

 不思議に思ってライトを下に向けたとき、それが見えてしまった。


「うわああああああ」

お読みいただき、ありがとうございました

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