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第七話「俺の全力で」・バーチャルワールド

「これからボス討伐会議をはじめまーす!」紫髪のオシャレボウズの男が宣言してまわりから拍手が起こる。今日は第一エリアのボスを倒すためにネットの掲示板を見た有志のプレイヤーが集まった。その中にわたしとレンカも居る。

「楽しみだね」レンカは明るい声で言う。「そだねー」と返答する。わたしは視線を動かす。

(集まったのはたぶん三十人くらいか。これで倒せんのか)

 参加には条件がなかった。プレイヤーのレベルにはばらつきがありそうだ。

「いまから五分間でチームを組んでくれ。余ったらオレにところへくるように」

 わたしはレンカの横顔を見る。「どうすんの?」チームの上限は五人までだ。

「ふたりでもいいんじゃない」レンカは人さし指を上唇に当てる。「最大人数で組んでほしいならそう言うでしょ」それもそうかとわたしも納得する。「私は知らんひとでも大丈夫だけどね。カグラの意見を尊重するよ」優しいトーンでゆだねてくる。

(なにも考えないで組むのはだめだよな。五人のバランスを考えないとだし。最低でもひとりは魔術師がほしいところ)

 わたしは考えて「微妙」と答えた。人見知りする性格でもないし新しい出会いもオンラインゲームも特徴だと思う。ナンパ男のことがトラウマになっているわけでもない。シンプルにふたりのほうがやりやすいと思った。背中をたたかれた。レンカをにらむが、わたしと同じ反応をしていた。

「よう、やっぱりきてると思ったよ」後ろからの攻撃だった。

「ライルさんかよ」わたしとレンカで彼をにらむ。

「今日も息ぴったり。いきなりだけど、チームを組まないか」ライルさんはわたしとレンカの肩に腕をまわして言う。「君たちが入れば五人になるんだ。最高の提案だろ」

 わたしはニヤリと笑う。「知りあいと組めるのはラッキーです」「最強ですね!」レンカはフィンガースナップをした。

「よっしゃ」ライルさんは離れる。「俺の仲間を紹介しよう」わたしとレンカはくるっと半回転する。

「右の栗色頭がナイト。左の黄色頭がレットだ」

「雑なんだよ、お前は」バーバースタイルで茶色のチェスターコートを着たナイトさんは冷たく言う。「セクハラで垢BANされろ」センターパートでくすんだ青色のチェスターコートを着たレットさんは目を細めて言った。お揃いコーデじゃん。ライルさんはそっぽを向く。

「かなり誘われたんじゃないですか?」レンカはライルさんに聞いた。「強いで有名でしょ」

 ライルさんはまばたきする。「断ったよ。なんか弱そうだったし」

「言いかた」わたしはため息を漏らす。「ナイトさんとレットさんはどうなの」

「私は知らない」レンカは首を振る。

「そこそこだ。俺より弱いけどな」

「お前な」ナイトさん。「マジ殴るぞ」レットさん。

「はいはい」ライルさんは目をそらしながら舌を出す。

(ライルさんは男友達の前だとなまいきな子どもみたい。ってかみんな前衛型じゃんか。ナイトさん槍のバックルだし。ナイトなのに。レットさんは両手斧のブレスレットで魔術師が誰も居ない。チームバランス悪いな)

「組めたかー。組めたなー」オシャレボウズが大きく手を鳴らした。「チームのリーダーは挙手してくれー」

 ライルさんは自主的に手を挙げた。「俺から誘ったんだし、やるよ」

 わたしとレンカは頭をぺこりと下げた。「あざっす」六つのチームができあがる。

「いくぞー」オシャレボウズはぬるま湯につかっているようなゆるい声ぐあいで言う。

「緊張感がゼロ」わたしは右肩を下げる。先導するオシャレボウズのチームに、わたしたちを含めた五つのチームはぞろぞろあとに続いた。


 フィールドの最北端にある地下迷宮(ラビリンスとも呼ばれる)の三階は、体育館ほどの広さの場所に竜巻が彫られた門だけがある。ここはポップするモンスターも居ない安全地帯ようなところだ。各階層にもボスが存在しているらしいが、エリアボスだけに集中できるように先に倒したらしい。時間をおいての再出現はない。

「どんな感じで戦えばいいとかありますか」わたしはライルさんの横に立って聞いた。

「特に考えてはないな」ライルさんはそっけなく答えた。「計画を立てたところでうまくいかないほうが多いだろ。常に臨機応変にだ」

「そいつは考えるのがめんどうなたけだぞ。だまされちゃいけない」レットさんは小言を言って、「そうだ。苦手なことに向きあってないだけだ」ナイトさんは苦言を呈した。

 ライルさんは指で唇をつまんだ。「きゃは」とぶりっ子ポーズする。

「可愛くねえよ」ナイトさん。「苦味しかないな」レットさん。「気持ち悪いです」わたし。

 ライルさんからちっと小さい舌打ちが聞こえた。「需要がなかったか」

「あると思ってたところにびっくり仰天ですよ」レンカは太ももをたたいて笑う。

「ま、役割は決まってるんだけどね」

「なんやねん」わたしは関西弁でツッコむ。

「最高のツッコミを感謝する」ライルさんはにっこり微笑んだ。最高ではないだろ。「俺たちはボスの担当だ。あの紫頭とは知りあいでね。はっきり言ってコネだ」

「おー、すごい」わたしとレンカはわざとらしい拍手をする。

「はっはっ。人脈はあるぞ」ライルさんはドヤ顔を決める。

「お前、いまピエロになってるぞ」レットさんは口元を右手でふさいで言う。

「俺たちは気分いいけど」腕を組んで粘っこい笑みをするナイトさん。

「焼き栗と柑橘類は黙ってろ」

「雑な呼びかたはやめろ」ふたりの声が重なる。仲いいな。

「あ、そうだ」わたしは手のひらにぽんと握りこぶしをおいた。「聞きそびれていたんですけど、なんでわたしたちを誘ったんですか」

「それ思った」レンカはわたしに指をさして共感する。

「俺が君たちを気に入ってるから」ライルさんは人さし指をくるくるまわす。「あとは直感だね。強いやつはそれでわかる。どんどん強くなってほしい。強い君たちをいつか俺の全力で倒したいから」ライルさんはホラー映画に出てくる快楽殺人者ような不気味な笑みを浮かべた。わたしはきゅっと唇を結んだ。レンカはひゅうと口笛を鳴らす。ライルさんは体の向きを変えた。「さあ、いこうか」

 ゴゴッとこすれた音が耳に届く。扉が開いた。

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