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第六話「勝利は蜜の味」・バーチャルワールド

「ねえ、どうなの。キミの答えは」

 さっそくだがわたしはいま非常にめんどうなことに直面していた。はっきり言うと、ナンパをされている。

「考えてる時間がもったいなくない?」ナンパ男が言う。女性うけのよさそうな整った容姿をしていた。茶髪のフレンチクールヘアと同じ色の瞳。コピーアンドペーストしたようなうすっぺらい笑顔だ。

「他の人を探してください」結論は決まっている。ていねいに断った。

「キミが一番可愛く見えたから」男は笑う。吐きそうだ。誰かバケツを用意してほしい。

 原因はレンカにある。あの元気ガールが集合時間をすぎてもこない。もう二十分はたっている。ふざけてんのか。

「いやいや、それはないでしょう。わたしより可愛い女性は居ますって。視野が狭いんじゃないですか」

「おお、あおるね。もっといろんなキミが見たいな」

 わたしの脳内で怒りマークが浮かぶ。ぶん殴ったら腰を抜かしてどっかいってくれないかなと考えはじめる。「友人を待っていまして。今回はご縁がなかったということで」

「まじかよ。もしかして女の子?」このやろう。「友人です。あなたには興味ないです」わたしは冷静に徹する。

「どっちなのかを聞いてるんだけど」男はひらめいた顔をした。「でも男だったら言うよね。ボクがあきらめるかもしれないし」

「……」わたしは顔をしかめた。

(むだに頭まわしてんじゃねえよ。出会い目的でオンラインゲームをしてるひとが増えてるのは知ってたけど、自分がその立場になるとか。厄日だな)

「外でぼくの仲間も待ってるんだ。大勢の方が楽しいでしょ」

「はあ、しんど」わたしは本音をナンパ男もに聞こえる声量で言った。

「これ以上はキミに迷惑か」男は指を鳴らした。「うん、言葉でダメなら実力でいこう」

「は?」なに言っているんだ。

「勝負しよう。決闘だ。ボクが勝ったらキミの友達も含めて遊ぶ」

「勝ったらあきらめてくれると」わたしが言うと、男はうなずいた。「形式はキミに任せるよ」「じゃあ、決着式で」わたしはメニューウインドウを慣れた手つきで動かす。

(レンカ以外のプレイヤーと戦うのはじめてか。ちょうどいいや。自分のいまの実力がわかる。でも相手から言ってきたし、弱すぎるなんてことも考えにくい。途中でレンカもくる可能性とか考えたら、スキルとレイタントアーツはあんまり使いたくない。ってか装備一式、変えといてよかった)

 わたしは上半身に袖なしの赤色の着物と前腕に灰色のこて。下半身に黒色の袴と紺色のレースアップのロングブーツ。武器は白い太刀。指輪の中石は鍔を小さくした白いしずくだ。

「言いわけはなしだよ」男は自信たっぷりに言った。対戦の画面に相手の名前が表示されている。ジャックか。装備は銀色のテンプレ感がまんさいの軽装鎧に透明な大剣のネックレスしている。

(鎧の重さを最低限にして剣を振りまわすタイプかな。ガンガン前に出てイニシアチブをとりにきそう)

 わたしとジャックは距離をとる。野次馬プレイヤーが集まってきた。指輪を武器に切り換える。ジャックはガラス細工のような大剣を右手に持つ。

(様子見とかしなくていいよね)

 わたしはゼロカウントにあわせて白い石畳を蹴った。いいスタートが切れた。次の動作にすばやく移れるように低い姿勢を保つ。ジャックの振り下ろした斬撃が迫る。

(コンパクトで早い。少し想定外。受け止めるとスピードが死ぬ)

 わたしは、かするのは前提にいれて左方向に体をひねって回転跳びをする。着地から背中へ太刀で攻撃する。流れるように後ろから左の蹴りをいれる。《体術》のスキルを取得しているので打撃系でもダメージが発生する。はじめたばかりのプレイヤーには五つのスキルスロットが与えられて、取得したスキルを駆使して戦闘の幅を広げる。

「やるね」ジャックから焦った声が漏れる。攻撃のテンポが速くなる。露出した腕に赤い線が目立ってきた。

(やっぱり相手もそこそこ強い。はじめての決闘相手がこのひとなら、たぶん負けてた)

 レンカと続けている決闘の成果が出ているなと思う。まだ一度も勝ててないけど。

(ここで決める!)

 わたしは距離を確保して足を止めた。レイタントアーツという必殺技を使うために。スキルと同様に戦闘の幅を広げるためのシステムだ。武器のスキル熟練度を上げていけば、ロックされている技もアンロックされて使えるようになる。

 わたしは太刀を顔の横まで持ち上げて走り出す。発動の条件は決まった動作をおこなうことだ。純白の刀身が黄緑のオーラに包まれた。激しく振動する太刀。離さないようにしっかり両手で握って技へとつなげる。ふわりと体が軽くなって加速する。

「疾風ノ太刀」わたしが使える最速の一刀。プレイヤーを即死させる手段はふたつある。心臓部を貫くのと、首から上の致命的な損失だ。「わたしの勝ち」振り返った先にはジャックの首はない。意思のない体はゆったりと横に倒れる。数秒後には体がはじける。虹色の結晶がふわりふわりと、迷子のように青空に吸いこまれていく。

(初勝利。ずっと負けてしかなかったし、相手がわたしをなめてスキルを使ってこなかったこともあるけど、かなりうれしいな)

 わたしは見物人からの拍手をもらう。愛想よく笑顔の神対応していると、そのなかからよく知った人物を見つけた。そいつをにらんでこちらにくるようにうながす。「遅い」

「三分くらいでしょ」

「余裕で二十分は超えてるよ!」

「あはっ、ごめんねごめんねー」レンカはほがらかに笑う。古いあやまりかたをするな。

「お前な」わたしはレンカに強めの肩パンをする。

「待って。親友からのお前呼びはきつい。せめて心のなかで」

「知らない。親友じゃない。遅れてきてお願いとかしてんな」

「言葉の三段突き!」レンカは胸をおさえる。その演技は見飽きた。

 わたしは深いため息をついた。「いつから観てた」まず気になった。

「最後のほうだけ。カグラの圧勝だったね。レイタントアーツは使ってたけど、スキルも使ったの?」

「うん、使った」わたしはしぶしぶ答えた。スロットに埋めているスキルは、レンカにも言っていない。レベルを上げていけばでスロットの最大数が増えて各ステータスも上昇する。

(体術はまだいいとして、レイタントアーツはまずったかな。わたしの必殺パターンだったんだけどなあ。でも使わないで長期化するのも嫌だったしなあ)

 わたしもレンカが取得しているスキルは知らない。決闘の練習ではレイタントアーツとスキルの使用を禁止して勝負している。

「むだな動きは減ってたと思うよ。まだ私に勝つのは難しそうだけどね。ドンマイ!」レンカはわたしの肩をぽんぽんとたたいた。むかつく。

「近いうちに悔しい思いをさせてやる」わたしは左手の親指を下に向ける。

「いいね。楽しみにしてるよ」レンカは右手の親指を上に向けて立ててわたしに手にのせた。くっつけるな。新しい流行のポーズか。

「早速だけど、決闘の練習を」「おい!」誰かがわたしの言葉を塗りつぶした。声がしたほうを向く。決闘で倒したジャックが居た。けんかでもはじめそうな目をしている。「なんですか」と、わたしは武器を指輪に戻して聞く姿勢をとった。

「え、知りあい?」レンカが着物をつまんで聞いてくる。「うそでしょ」わたしは目を見開いてどん引きした。

「もう一回だ。勝負しよう」ジャックは早口で提案する。

「もう一回ですか」わたしはリピートする。

「そう、もう一回だ。さっきのは油断してたからで」ジャックはわたしに負けたことが受け入れられない様子に見える。

「やったら」レンカはわたしの頬を指で押す。「どうせまた勝つでしょ」

「おぼえてるでしょ。忘れたふりなんかして」

「勝利の味を知っていこう!」

「もう味なんてしないよ」

 わたしは首を横に振った。レンカが最初から観ている状況でスキルとレイアーツ(レイタントアーツは長いから勝手に略した)を使いたくない。それにジャックに対しても再戦したいという気持ちがわいてこない。

「いや、だから、ボクが負けるとか、そんな」ジャックは右手を頭を激しくかている。

 わたしは舌打ちする。「早くどっかいけよ」思わずつぶやいた。

「なんだと」ジャックはわたしに手を伸ばす。「オマエ!」

「はい、アウト。ケツバットを超えてビンタだな」また別の声した。長身の男だ。わたしとレンカの横に立った。「なんだよ!」ジャックの声に攻撃性がアップする。

「いや、本当に誰なんだ……」わたしは口が悪さが残ったまま言った。ジャックもそうだったけれど、頭上のネーム表示をオフにしている。

 長身の男はジャックの手首を掴んでいる。中性的な童顔に紺色のウルフカット。白色のロングコートには黒色のストレートラインがはいっている。右の胸には剣と盾をかたどったラペルピン。

「手を出すのはよくない。よくないねえ。越えてはいけない線がお前には見えていない」

「なんだよ、キミは!」

「名乗るほどの者じゃない」

「それ言ってるひと、はじめて見た」レンカは目を輝かせた。

「ありがとう」長身の男は髪の色と同じ目でにこりと笑う。なにに対するお礼なのか。

「じゃまするな」ジャックは長身の男をにらむ。「めんどうだろ」

「おおっとこれは」男は両手を大きく広げた。「君たち、いまの言葉を聞いたね」

「なんかはじまった」わたしは目をそらす。「クソすぎる演技」レンカはあくびした。

「お前はじゃまだと言った。めんどうだと言った。それを彼女たちにもしているのに。おかしな話だ」男の言葉にジャックの喉仏が上下に動く。「しつこさは男の価値を下げる。お前はみっともないよ。みっともなく負けたのに」

「ぐ」ジャックの怒りの目が長身の男に向いた。「ははっ、怒っているね。なら俺とやるか。いや、踊るか」言いなおす意味あったかな、とわたしは思った。

「いや、もういい」ジャックは下唇を噛んだ。「ぼくはこれ以上はかかわらない」背中を向けてフィールドに出る門のほうまで歩いていった。

「さてと、大丈夫だったかな」長身の男がわたしとレンカに聞いた。

「大丈夫です」とわたし。「劇団には向いてませんね」とレンカは言う。

「いきなりの辛口評価だ」男は腕を組んで口角を下げる。「俺はライル。よろしく」

「名乗るんですね」わたしは苦笑した。

「さっきのは言ってみたかっただけ」ライルさんはすなおに言った。「ふたりは名乗らなくていいよ。名前は確認できてるから」頭上に指をさす。

 レンカは首を斜めにした。「なんか少年の心を宿して成長した感じですね」

「全力少年だ」

「やかましいわ」ふたりで口を揃えてツッコむ。

「ははっ、君たち最高だね」ライルさんは口元に手を当てて笑った。「仲よしだね」

「そうです!」「ふつうです」「おい」レンカから軽いグーパンチをくらう。

「悪くはないです」「カグラが成長した」「成長少女だな」

「それは意味がわからない」またレンカと口を揃えてツッコんだ。

「ははっ、息ぴったりだな。それも最高」ライルさんはわたしとレンカの髪に触れた。

「なんで助けてくれたんですか」わたしは聞いた。

「私は関係ないけど」「ならだまって」「はあい」レンカは首をすくめた。

「助けるか。それは違うかもしれない。いやまあ、状況としてはそうだけど」ライルさんは考えこむ。

「そんなに難しいことなんだ」

「難しいとかじゃない。そうだなー。憧れかな」

「憧れですか」わたしはぴんとこない声を出した。

「困ってるひとの前に颯爽と現れるみたいな。よくあるだろ。ベタなシーンだけど。俺は好きだ。助けるシーンに憧れてたんだ。君たちのおかげでそれは叶ったけどね」

「私たちを利用したってことですね」

「そうだね」ライルさんは両手をあわせた。「相手が強引な手段に出たからね。あ、これきたわって思ったんだ」

「変わってるなあ」わたしはあごに手を当てる。「でも、ベタなシーンはわたしも好きです。ある意味、ラッキーですね」

「お、わかるか。飽きそうで飽きないんだよな。最近は少なくなってきたけど」

「古い映画とかにはありますよね!」

「そうそう」ライルさんの声が高くなる。「カグラ君は話せるやつだな。俺のまわりに居るやつは共感してくれなくて」

「好き嫌いが分かれますよね」

「これは長い話になりそうだ。とりあえずフレンド交換しようか」

 わたしは肩をまわす。「いいですね。付きあいます」

「私、完全に影じゃん」レンカはすねたようにぐちった。

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