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第三話「レンカ頑張ります」・バーチャルワールド
バーチャルなワールドにやってきたわたしは、この世界に誘った張本人である香月と合流していた。
「こっちの名前はレンカ。ようこそ、新しい世界へ」
レンカ(香月あらため)は青空の下で両腕をめいっぱい広げた。桃色の瞳が輝く。金髪のショートボブの毛先が揺れる。
「うん。すごいね」わたしはまわり見てすなおな感想を述べた。
レンカは肩を落とした。「反応がうすい。なんかこう、あるでしょ。感動とか」
「わたしに泣いてほしいの? 驚いてほしいの? はしゃいでほしいの?」
「疑問の三連続攻撃!」レンカは胸を押さえてもだえる演技をした。意外と上手い。
「きれいな世界だね」わたしはぴょんぴょん跳ねる。東西南北に巨大な灰色の門が開きっぱなしでたくさんのプレイヤーやNPCの往来している。明るい色が目立つの建物がまちなみの自由さを主張している気がした。
「テーマパークみたい」
「でしょ。そんなきれいな世界で食事したり、戦ったり戦ったり戦ったり」
「戦いすぎだよ。戦闘民族か」
「戦いが私の興奮材料です」
「聞いてねえ」わたしは髪をかいた。元気少女かと思ったらとんだ変態少女だった。
「そんなこと言って、カグラも戦いの味を知ったらハマると思うよ」
「わたしを変態の道に……待って、なんで名前を知ってる」
「頭の上に表示されてるよ。よく見てみ。私にもあるでしょ?」
目線を少しだけ上げる。「本当だ。ならなんで名乗ったの?」
「そっちのほうが早いじゃん。きっと聞いてくると思ったし」
「ふむ」正論すぎてなにも言えない。ログアウトしたらいろいろ調べてみよう。
「カグラは太刀にしたんだね」レンカはわたしの右手の親指を見て言った。指輪の中石が太刀になっている。
「カッコいいから」
「少年みたいな感性だね」
「うっさい」わたしはレンカの胸元を見た。片手剣のネックレスをしている。「レンカはなんで片手剣を選んだの」
「主人公って感じがするから!」
「よくひとのこと言えたな」
「私たち、気があうね」
「だまれ。でもさ、主人公って片手剣よりも大剣のイメージだと思うなあ」
「昔は大剣とかデッカイ武器が主流だったけど、最近は片手剣とか細剣のほうが多いね。ラノベの主人公とかそうだし」レンカはわたしをにらむ。あとだまれって言ったよね。かんぺきに言ったよね。私は寛大だから聞き逃したフリをするけども」
「ま、時代か」
「よかったら貸そうか?」
「うん、借りる。明日にでも学校に持ってきて」
「まじで?」レンカはきょとんとした顔をする。
わたしは目を大きくする。「え、だめなの?」自分から提案しておいてそれはあんまりだ。
「全然いいよ。いいんだけど。断ると思ってたから」
「ラノベだから、そんな偏見はわたしにはない」
「よし任せろ。漫画もアニメも貸してやる」レンカは親指を立てた。「さてさて。ここらでリアルの話はおいといて」箱を持つジェスチャーをする。ひさしぶりに見たな。「街の外に出ようか。さっそく戦いの味を知ってもらおうかな」人さし指を桜色の唇につけて微笑む。
「やっぱ戦うよね」
「この世界で戦いは必須だよ。あれ、戦う系は苦手だった?」
「まったく」据え置きハードで経験はある。フルダイブでは未経験だけど。
「いいね。この私がカグラを強くしてあげよう」
「どっから出てくる自信なの」
「あはっ、私は強いからね」
「自分で言えるってすごいな」
「事実だからね。すぐにわかるよ」レンカは口角をつり上げる。
「そこまで言うんだったらしっかりわたしの想像を超えてね」
「レンカ頑張ります!」選挙ポスターようなガッツポーズをした。