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第八話「戦闘考察」・バーチャルワールド

 わたしは地面に落ちた太刀をぼーっと眺める。次に顔を下に向けた。電動ブラシように細かく震える右手。握ったり開いたりを繰り返す。

「勝った」かすれた声だった。ずっと負けていた相手に勝った。レンカに勝った。じんじんと実感がわいてくる。

「勝った勝った。勝った勝った勝った!」わたしの感情が爆発する。右手でつくった握りこぶしを太ももにぶつける。鈍い音が耳になんども聞こえ続ける。

「やったー!」わたしは背中から倒れた。口のタンクにいっぱいの雨がたまる。ごくん。食道から仮想の体の胃へ流れていく。

(うまくいって本当によかったよ)

 過去最高に頭をはたらかせたと思う。脳から汗が出るんじゃないかってくらいだ。わたしはまぶたを閉じる。

(まさか投擲スキルが役に立つとは思わなかった。ふつうは飛行型のモンスターとか的が小さいモンスターを確殺するためのスキルなのに。創意工夫って大事だなあ)

 わたしは直前の記憶を振り返った。人間はとっさのことに反応ができないから、まずその瞬間をつくる。反応勝負になれば自信のある動きか直近の動きをしたがる心理を利用してレンカの動きを限定する。よく使っていたスキルは《剛力》だけど、主導権が向こうにある時に使うことが多かったから選択肢からはずれる。残ったスキルは《加速》だけ。誘発させたバックステップで距離を広げようとした。

(幻影のスキルを使う可能性もなくはなかったけど、加速のスキルを使ってマナが不足したんだろうな。ステータスを底上げするスキルはマナの消費が大きいし。ぎりぎりの勝ちだった)

 わたしは目を開けて振り返りをやめる。いまはたくさんよろこぼう。

「あ、違う。まだ終わってない」イベントが続いていたことを思い出す。いまプレイヤーと出会ったら確実に負ける自信がある。

 わたしは仰臥位から右側臥位に体位変換して起き上がった。ほったらかしの太刀を拾いに向かう。

(残りの時間ってどれくらいだろ)

 わたしは柄を握ろうと腕を伸ばす。急なサイレン音が鳴り響いた。肩がびくりと縮こまる。武器を掴み損ねた。

『現時刻をもって、イベントを終了とします』フィアの声だ。『参加された皆様、ありがとうございました。三十秒後に転送を開始します』

 わたしは尻もちをつく。「サッカー漫画かよ」と言う。太刀を拾い上げるのやーめた。

(明日はゲームしない。ノーゲームデイにしてやる)

 たとえレンカに誘われても断ってやると、心のなかでダイヤモンドの決意をする。

(そういえば、このイベントの優勝者ってわたしじゃん。ポイントが一位のライルさんをレンカが倒したでしょ。そのポイントが移って一位になったレンカをわたしが倒した。ふたりの合算したポイントがわたしに移ったってことになる)

 わたしは優勝したことを自覚する。両目が熱くなっていく。

「雨が熱いなあ」

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