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第三話「遭遇と参戦」・バーチャルワールド
荒野エリアに近づいてきた時、わたしに中間順位のメールが届いた。「ふむ、ふむふむ」足を止めて目をとおす。
(一位がライルさんで二位はレンカか。三位のルナは知らないな。というかすごいな、ライルさんとレンカ。わたしもけっこうなプレイヤーを倒したけど、ふたりはどんなペースだよ)
新着のメールがわたしにくる。賞金をかけた鬼ごっこをやっている感覚だ。長押ししてメールを開く。
(ここから先は倒した相手の所有していたポイントがそのまま自分のポイントとして加算されるのか)
わたしは半笑いになった。クイズの最終問題に正解するとばかみたいな得点をくれるシステムみたいだ。ありがたいけど。
(ルールの追加はイベントの王道だけど、みんなからねらわれる対象になっちゃうんだよな)
わたしはメールを閉じて息を吐いた。上から肌に冷たいものが当たる。「天候も変わるのか」ぽつぽつとした雨が刺さるような雨になった。空は晴れている。「きつねの嫁入りかよ」服に雨が染みこんで冷たい。ぶるりと身震いした。
「冷たいの極みだわー」大きめの声を出した。返ってくる言葉はない。
レンカが居たらなんて言うんだろう。一緒に居ることが当たり前になっていた。
「……」わたしは頭を振る。ぬかるんだ地面を蹴った。
「よっしゃ、着いた!」
わたしは走り続けていた足を止めた。雨で視界はよくない。イベントの終了まで残り一時間を切っている。手がぬれたせいで武器が滑ってすっぽ抜けてしまった時は、やばいくらいあせった。晴れていた空もいまは曇ってる。
「……」わたしは足下に目を向ける。右足を前後にスライドさせた。雨が降っても荒野エリアの地面は固い。激しい動きをしてもころぶ心配はなさそうだ。まわりをしつこく確認する。
「よ、そこのラッキーな少女」聞きなれた声がしたほうに体を向ける。「気分はどうかな」レンカはわたしに指をさして言った。
わたしは小さい声で笑う。「不意を突いたりしないんだ」
「おもしろくないじゃん。後ろから刺されたい願望でもあるの」
「そんな願望はない」わたしは剣先をレンカに向ける。「ま、いーや。やっと見つけた」
「びしょぬれだよ」
「レンカもでしょ。雨であおりも弱くなってんじゃない」
「私のあおりは火じゃないんだけど」レンカも装身具のネックレスを片手剣にしている。黒い刀身は雨をあびて不気味に仕上がっている。「さて親友、もうちょっとコミュニケーションする?」
「しない。さびしいなら終わってからかまってあげるよ」「あはっ、なまいき」
わたしとレンカは利き足を後ろにする。蹴り出すための準備だ。
「定員の空きはまだ残っているかな」長身で紺色の髪と目。プラチナの片手剣とダークブルーの盾。黒のストレートラインがはいった白いコート。
(まじか。ライルさん参戦か。大乱闘かよ)
ライルさんは腕を組んで首をひねる。「ふたりで無言だと困るんだけどな。そういうところも息ぴったりか」
「びっくりしちゃって」レンカはにゃははと笑う。「大乱闘かっちゅーねん」へたくそな関西弁でツッコむ。わたしと同じことを思っていた。口に出さないでよかった。
「言っておくと、この出会いは偶然だ。戦って倒したいとは伝えたけどね」
「出会いだけで運を使いきったみたいですけど」嫌味を言う。「わたしが勝つし」
「あはっ」レンカは剣を空中に投げてとる曲芸をする。「それ私ね。ふたりはスパッと切り刻まれてね」
「おもしろい。つぶしてやる。最後に立っているのはこの俺だ」
壁を鉄球でぶち壊すような勢いで、わたしたちは走り出した。