2話 ハッカーと少女の出会い
草原は半日歩いても抜け出すことができずいまだに俺は草原を歩いていた。
「この草原どこまで続いてるんだよ。行く方向間違えたかな…だめだ少し休憩しよう。」
そう言って俺は一本だけ生えていた木の木陰で休憩を取った。
休憩している間にサバイバルキットの中身を確認する。
サバイバルキットはバッグのように背負えるタイプで色々入っていた。
ナイフやライト以外にも寝袋に少しの食料と水なんかも付属して入っている。
そして一つだけ閃光弾も入っていた。
「何に使うんだこんなもん?獣よけか?」
まぁ何があるか分からないから持っておいて損は無い。
だが食料と水は助かる。これで少しの間は持つが座ってばっかりだった俺が長時間歩くのに慣れているわけもなくもうすでに体力は限界に来ていた。
休憩を取ってから何時間たったか分からないがもう夕暮れが近くなっており草原を抜けることも人の形跡を探すことも今日は諦め野宿することにした。草原といえども所々に木とまではいえないが多少伸びている植物がありその植物の枝を集めながら歩いていたので1日分の焚き火をする分の材料は集まった。
焚き火の火をかこんでサバイバルキットに入っていた缶詰を食べながらこれからどうするかしっかり方針を立てることにした。
あの声は俺に世界を救って欲しいと言っていた。
世界を救うとはどう言う事なのだろうか。
ここが異世界だとするならば魔王や凶悪なモンスターがいてそれを倒して欲しいと言う世界の救済なのか俺のハッキング能力を使って何か悪い組織から機密情報を盗んでそれを公表して欲しいのか、一体どう言う世界の救済をすればいいのか分からない。
あいつが望む世界の救済をすれば俺を元の世界に返してくれるのだろうか…
ちゃんと説明が欲しかった。でもそれを望めば回数が減ってしまう。今、回数を使ってしまうのは今後何があるか分からないから正直避けたい。
考えても何も結論が出ない。
取り敢えず寝るかとサバイバルキットから寝袋を取り出して寝ることにした。
「カランカラン…ガシャン!」
缶を蹴飛ばしたような音で目が覚めた。
太陽が地平線から顔を出し始め、明るくなってきており、何が起こったのかすぐに分かった。
昨日食べた缶詰の缶をボロボロの服を着た金髪の少女が手に持って中をのぞいていたのだ。
「なんだこいつ?」
つい声を出してしまい俺が起きた事に気付いた少女と目があった。
少女は赤い目をしており首輪を付けている。
起きてすぐの思考が回っていない時に急に誰かわからない人が目の前に現れた為にかなり警戒したが、少女を見た感じ寝ていたとはいえ男性を襲えるほどの身体つきをしていないし何なら武装もない。どちらかと言えば彼女の方が俺より痩せている。
「お腹空いてるのか?缶詰ならまだあるし一つ食べるか?」
誰か分からないが人がいるという事はこの辺りに村や街があるという事で間違いない。ならば食料も少しならあげてしまって問題ないだろうと残っていた缶詰一つを少女に差し出した。
しかし少女は言葉を理解していないのか開け方を知らないのか渡された缶詰を眺めて首を傾げている。
「こうやって開けるんだよ。」
少女に渡した缶詰を開けてやると少女は勢いよく食べ出した。
よほどお腹が空いていたのだろう。
うーん近くにある町か村は相当に貧困しているのかな…。
まぁ行ってみないとそれはわからない。この子に案内を頼んで人のいるところに連れて行ってもらおう。俺は寝袋をサバイバルキットにしまい動く準備をしていた。
その時だった。
少女が何者かの存在にいち早く気づき俺の後ろに隠れたのだ。
俺は少女が何をしているのか分からなかったがそれはすぐに分かった。
5人組の男たちがこっちに向けて歩いてきていたのだ。
男たちは武装しており剣や弓を携帯している。
直感で分かった。あいつらは確実にこの少女を狙っており今俺がこの少女を庇っている状態に向こうは見えているだろう。ならば確実に殺されると。
「まずい…」俺はそう思った。
あいつら5人は武装しているのにこっちは戦闘経験なんてない男と痩せた少女だ勝てるわけがない。
どうにかして逃げなければいけない。
だが今逃げれば確実に終われて殺されるだろう。
だったら話し合いという手もある。
近づいてきた5人が俺に話しかけてきた。
「*********************」
「は?」
やばい言語が分からない!何を言っているのかさっぱり分からなかった。これはまずい!コミュニケーションが取れない!話し合いは不可能だ!
つまりこれはもう逃げるしか方法がない。
俺が焦っていると男たちは何も返答してこない俺に苛立ったのか剣を抜いて何語か分からないが怒鳴ってきた。
やばいこれは確実にやられる!
何か逃げる手はないのかと背負ったカバンに手を突っ込こんだ。そして最初に触れたものはあの閃光弾。
そうか!これでこいつらの視界を奪って逃げるしかない!
あいつらが襲いかかって来たタイミングでピカッ!だ!これしか逃げる手がない。
怒鳴られても何も言い返さない俺についに5人は堪忍袋の尾が切れたのか抜いた剣を振りかざして俺たちに襲いかかって来た。
「今だ!」
俺はおもいっきり目を瞑りカバンから取り出しピンを抜いた閃光弾を地面にぶち当てる。
その瞬間あたりを眩しい光が包む。
5人は閃光弾の光をもろに受け立ち上がることすらできなくなっている。
よし今だ!俺は俺の後ろに隠れていた少女の手を握り兎に角走った。
かなりの時間走ったお陰で5人の男たちを振り切る事に成功した。
「危なかった〜閃光弾がなければ確実に終わっていた。」
生きている事に喜びを感じながら草原を歩く。
少し歩いていると川が見えて来た。
「よし一旦ここで休憩して水分補給をしよう!」
川の水は綺麗で澄んでいる。
飲めそうだなと手にすくって口に近づけた時、少女が思いっきり俺の手をはじいた。
「何するんだ!」
俺は手をはじかれた事に苛立ち少女の方を見た。
すると少女はひたすら首を横に振っていた。
「もしかしてこの水飲めないのか?こんなに綺麗なのに」
なるほど、もしかするとこの川は鉱石が溶け出した水だったり工場からの有毒な排水でも混じっているのかとそう思ったが山なんてないし工場も見当たらない。
だが少女は真面目な顔をして首を振っている。嘘ではなさそうだ。嫌な感じがしたのでこの水を飲むのはやめておいた。
さっきの男たちと同様にこの子とも言葉は通じないだろう。
だが手なんかでジェスチャーすれば分かってくれるんじゃないかと少女に向かって色々ジェスチャーをしてみた。
すると何かを察した少女はこっちに来てとばかりに俺を連れて行こうとする。なんとか通じたようだ。
少女に連れられて歩くこと1時間。少し大きめの壁に囲まれた街が見えて来た。
「良かったー!街だ!これで一安心だ!歩き始めて1日経ったがようやく街を見つけられた!この少女のおかげでだけど。」
なんて言いながら俺は少女と一緒に歩いて街の門の近くまで来た。かなり大きな門だ。
多分結構な人がいる栄えた街なんだろうと門を見ただけでそう思う。
門には門番さんがいた。鎧を着た門番さんだ。
「え?いつの時代だこの街」
そんなことを思いながら街に入る人たちの行列に並ぶ。
「なんだろう車とかじゃなくて今どき馬車ですか…やべぇー本格的にここ異世界だな。地球じゃねぇや。」
門番と並ぶ行列を見て改めてこの世界が地球のどこかにある街じゃないと自覚した。
じゃあパスポートとか要らないよな?でも身分証明書とか持ってないし何ならお金もない。言葉も通じないじゃ俺もしかしてこの街に入れないんじゃないか?
そんな嫌な予感がして来た。
そしてしばらくして俺たちの番が来た。
「**********」
あぁだめだこれ言葉通じないや。少女に何とかしてもらうしかないわこれ。
門番の人にこの少女が話しますみたいなジェスチャーを送り門番と少女との会話が始まった。
「あぁこの少女普通に喋れたのね。俺といる時は全然喋ってくれなかったのに。てか喋ってもそもそも言葉通じなかったわ。」
なんて言いながら走って逃げた時に少し汚れた眼鏡を外して服で拭こうとした時だった。
眼鏡に少し違和感がした。いつもの俺のメガネなのだがなんかフレームの部分に違和感がする。
テンプルと呼ばれるメガネフレームの部分、耳に伸びるメガネを支える部分に小さなボタンがついていた。
気になってメガネをかけてボタンを押した。
するとメガネのフロント。ガラスの部分にいろいろな情報が映し出された。
「このメガネいつの間にかモニター画面のようになってる」
俺のメガネがこんな風に改造されてしまって…誰だよこんなことしたやつ…あいつしかいねぇーわなあの野郎、俺の愛用しているメガネにまで細工しやがってなんてことしやがるんだ。
眼鏡に映し出されたものはこの世界の俺たちが今いる現在地。つまりマップだ。
何気なく俺はあたりを見回してみるすると人々の名前なんかも表示される。日本語で。
俺は少女と門番の方を見た。すると話している言葉の翻訳を始めたのだ。
「あの私たちこの街に入りたいんです。」
「ダメなものはダメだよ身分証がないと入れないんだ」
少女と門番のやりとりをメガネが翻訳してくれた。
やっと言葉が理解できた。さっきは暴言吐いてごめんありがとうあの野郎。
「言葉って素晴らしいなー」
俺がそういうと少女と門番が俺の方を見て来た。
「なんだお前言葉喋れるんじゃないか!」
門番がそういう。どうやらこのメガネは翻訳だけでなく相手に言語を分かるようにする機能があるようだ。
「おいお前さっさと身分証を出せ!出ないと追い返すぞ?」
やばい言葉が分かって浮かれている場合じゃなかった身分証なんて持ってない!どうしよう!
どうしようと悩んでいるとメガネに俺の身分証が映し出された
「身分証を発行しますか?yes/no」
メガネの画面にはそう書かれている。
もちろん!YESだ!身分証の発行をお願いする!
YESの方に目線を向けるとYESが選択され自分の右手に身分証が現れた。
「なんだ持ってるなら早く出せよ」
門番は俺から身分証を奪って身分証を確認し、
「よし通っていいぞ?あぁ、後こいつはお前の奴隷だろ?なら身分証は要らない。行け。」
別にこの少女は奴隷じゃないんだけどなと思いつつ俺たちはなんとか街に入ることができた。