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第六十四話 信長への結婚祝い その5


 信秀が寝てしまったので私達は起こさないようにそっと部屋を移動した。今の時期にはまだ布団が無い。庶民等はむしろや藁を敷いてそのまま寝ているし、上流階級だと(しとね)と呼ばれる物を畳に敷いて着物を掛け布団にしているのである。


 クッション性など殆ど無いので固い床に寝ているようなものだ。健康な若い内は良いとしても、歳を取ると身体に堪えると思う。私の父上は布団を使っているけど、冬も温かいし敷布団が柔らかいので疲れも良く取れるようだ。信秀は寝てしまったけど、初めて布団に寝るなら気持ち良いのは仕方ないだろう。


 現代では常識である健康三原則は栄養、睡眠、運動だけど、当然この時代にはそのような考え方は一般的ではない。三原則の内、栄養と睡眠が不足しているのである。布団はいずれ普及するので良いとして、問題は栄養になると思う。そろそろ現代料理でも再現してみようか?


 でも、戦国武将って意外に長生きな人が多いからどうなのだろうか?やはり、庶民が暮らせるように考えたほうがいいのかも知れない。小田領の民は衣住食の内、食は困らなくなった。お米を銭に変えるようになれば衣はクリアー出来ると思う。あとは住だけど、良い考えが無いんだよね。

 

 信長の私室に移動し、布団の説明を再度行った。それからは雑談となり、互いの近況を話したりしていた。


 「前田利家殿ですか?」


 信長が言うには、彼は人が変わったように行いを改めたそうだ。そういえば、四年前の別れ際に弱い者イジメする人は嫌いとか言った覚えがある。


 「今では仏の又左と呼ばれている様です。この信長も利家の行いには感心しています」


 槍の又左から仏の又左にクラスチェンジしたらしい、、、。アタッカーからヒーラーになってしまったのだろうか?ていうか、もう元服しているのも驚きだ。史実では三年後の筈である。それにしても私の言葉で利家が行動を変えたなんて今後の歴史は大丈夫なのだろうか?喧嘩を売って来たのは利家なのだから私には責任は無い筈。だから私は責任は取らない、絶対だ!


 私があれこれ考えていると信長が言葉を続けた。


 「氏治殿、実は、利家を控えさせて居ります。是非、お声掛けを」


 来てるらしい。こうなったら会わない訳にもいかないけど、何となく罪悪感がある。不良が更正したのは良い事だけど、責任を感じてしまうので私を切っ掛けにするのは止めて欲しい。オタと不良は相容れない存在だけど、この場合は仕方がない。


 「分かりました、利家殿にお会いしましょう」


 私が承諾すると信長は人をやり、利家を呼びに行かせた。暫くすると利家が入って来たのだけど、すごく背が高い。そう言えば身長は六尺とか本に書いてあったっけ?彼は私の前に座ると居住まいを正して平伏した。


 「お久しぶりで御座います。御拝謁を頂きまして、この前田利家、真に恐悦至極に存じます」


 「利家殿、お顔をお上げ下さい。お久しぶりですね、話は伺って居ります。立派なお人になられたようですね。私も嬉しく思っています」


 私がそう言うと利家は破顔した。成長した彼の姿は昔の面影を残しているけど、立派な体格と落ち着いた面持ちは別人のように見えた。もっとも、一度会ったきりなのだけど。


 「この前田利家、氏治様のお言いつけ通り精進して参ったつもりで御座います。今更立ち合うなど無礼な事は申しません。某はただ、もう一度氏治様にお会いしたかったのです」 


 私はそんな大した人間ではないので気後れしてしまうけど、嫌われるよりはいいと割り切った。そして利家と色々話をしていて感じたのは、彼なりに行いを正す事で視えて来るものが多かったという事だ。それに他人に言われて行動を変える事は中々出来るものではない。


 信長とも言葉を交えながら暫く歓談してから彼は退出して行った。頑張ったご褒美に後で何か贈らせて貰おう。一息ついた所で、私は帰蝶と女同士で話がしたいと信長に伝え、帰蝶には目で訴えた。


 「構いませんが、私が仲間外れなのは寂しく思います。ようやく氏治殿とお会い出来たのですから」


 信長が拗ねたようにそう言うと帰蝶が口を開いた。


 「(わたくし)も氏治様と女同士で話をしたく思います。殿方には聞かれたくない事もありますのよ?」


 「そう言われると引かざるを得ませんか。では、話が済んだら私に伝えて下さい。氏治殿とはまだまだ話したい事があります。『友』として」


 そう言うと「暫しのお別れです」と言って信長は部屋から退出して行った。そして勝貞もそれに続いて、残されたのは私と帰蝶と雪、桔梗の四人になった。ただ、奥さんの前でそう言う事を言うのは止めて欲しい、ホントに困る。そう言う事を言うから誤解されるんだよ、あの様子だとまた一日中張り付かれそうである。


 信長の気配が無い事を確認して帰蝶は居住まいを正して私に頭を下げながら口を開いた。


 「この度は真にご無礼致しました。帰蝶は心から反省しています。氏治様、どうぞお許し下さい」


 いきなりの謝罪に私は慌ててしまった。確かに、他国に間者を送って捕らえられたのだから心配だったのは分かるけど、いきなり謝られるとは思っていなかった。私は焦って口を開いた。


 「帰蝶殿、お顔をお上げ下さい。私は何も気にしてはいませんし、何の騒ぎにもなりませんからご安心下さい」


 私がそう言うと帰蝶はパッと顔を輝かせた。


 「(わたくし)、悪気は無かったのです。ただ、信長様が余りにも氏治様に心酔しているようなので嫉妬してしまったのです」


 うん、信長の行動に問題があったのね。光秀は帰蝶が信長に夢中になっているようだと聞いていたから気持ちは分かる。それに彼女は他家に嫁いだばかり、信長に縋りたい気持ちもあると思う。私は嫡男として扱って貰えたから好きにしているけど、彼女の立場だと考えるとゾッとする。


 それからは戦国時代の結婚事情についての話になった。私は自分は吉祥天様に願を掛けたから誰とも祝言はしないという事を伝え、念の為、今後の予防線を張っておいた。雪は先達として戦国の夫婦生活とはどういうものかを滔々と語っていたけど、冷静に考えたら手塚との夫婦生活が破綻している人である。帰蝶に聞かせて良いものなのか少し心配になった。

  

 「雪殿は鉄砲衆を率いているのですか?」


 信じられないという表情で帰蝶が驚いていた。


 「左様で御座います。こちらに控える桔梗もそうなのですよ、私は桔梗に鉄砲を師事したので御座います」


 帰蝶は桔梗に目をやってから私に質問した。


 「氏治様、女子(おなご)戦場(いくさば)に出して、ご家中の方々は何も仰らないのですか?実家である斎藤家もこの織田家でも考えられません」


 「当主の私が女子(おなご)ですし、鉄砲は扱いを覚えれば女子(おなご)でも将を討てるのです。実際、先の戦では雪も桔梗も武勲を立てています。それに危なくなれば真っ先に逃げるよう約束の元で任せているのです。それに戦場(いくさば)女子(おなご)が居ない訳ではないのですよ、好んで戦場(いくさば)に出る女子(おなご)も多いですね。ただ、これを聞いたからと言って帰蝶殿が戦場(いくさば)に出ると言われると困ってしまいますけど」


 私の言葉を聞いた帰蝶は思案するようにしていた。まさかとは思うけど戦場に出るなんて考えないで欲しい。私に続くように雪が口を開いた。


 「(わたくし)は室に居るだけは性に合わないと殿に申し上げたので御座います。それからは殿のお供で堺に参りましたし、鉄砲衆を率いる事もお認め下さいました。そしてこうして尾張に来ることも。(わたくし)は広い世を見る事が出来て幸せで御座います」


 待って下さい!煽ってどうするの!これで帰蝶が戦場(いくさば)に出たいなんて言い出したら私が信長や信秀に叱られそうなんだけど?


 「帰蝶殿?雪には雪の考えがありますから模倣してはいけませんよ?」


 帰蝶は「そうですね」と言いつつ桔梗に言葉を掛けた。


 「桔梗殿はどのようにお考えなのですか?」


 「氏治様と共にあるのが桔梗の生き方で御座います。桔梗は氏治様と共にある為に毘沙門天様に誓いを立てまして御座います」


 よく考えたら、この場に居る全員が特殊なタイプの女性ばかりである。帰蝶は世間知らずっぽいから若い彼女が影響されるとまずい。


 「帰蝶殿?桔梗には桔梗の考えがありますから模倣してはいけませんよ?」


 私はもう一度帰蝶に自重を促した。


 「はい、氏治様、大丈夫で御座います。帰蝶には帰蝶の考えが御座います」


 全然大丈夫じゃなかった、、、。


 物凄い不安を残しながら帰蝶と話を終えた私は再び信長と話をし、同盟締結の為に起請文を交わす事や将来的には交易を行うことなどの取り決めをした。爆睡していた信秀も起きだして来て、布団をせがまれたので了承し、代わりに尾張の特産品や熱田や津島で扱っている品物をお土産として貰う事になった。


 そして夜はまた宴会である。常陸小田家と尾張織田家の同盟締結が公表されて、その事に頭を捻っている家臣の人達もいたけれど、信秀が強引に話を進めた感じである。


 そして私が槍を折ったという話を聞いて駆け付けた家臣も多く、その中に有名な柴田勝家もいた。


 槍を折った事が信じられないようでその事を質問されたのだけど、物凄い疑い深い目で見られてちょっとムカついたので押し腕(腕相撲)をしましょうと誘って一瞬で床に腕を叩きつけてあげた。ちょっと変な音がしたから怪我をしたかも知れないけど、坂東武者を疑った罰である。私だって鬼になる時はあるんだよ。


 腕を抑えて蹲る柴田勝家を生ゴミを見るような目で見てたら信長に謝られたけど、今回はこれくらいで許してあげよう。信秀がお腹を抱えて笑っていたのが気になったけど。


 そして勝貞がニコニコしていたので対処としては問題ないようだ。だって菅谷が笑っているのだから。



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[良い点] この作品すごく好きで、楽しく読ませていただいてます。 [一言] 更新毎回楽しみにしてます。
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