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第三十三話 再び堺へ


 新造した千石船が波をかき分け進んで行く。天気に恵まれた海上では日差しが強く感じられる。頬を焼く日差しと同時に、頬を撫でる心地の良い風が皆を陽気にさせる。


 土浦から出港した小田家の千石船は快調に航海を続けている。舵を取るのは菅谷水軍衆。目的地は勿論、堺である。


 今回のパーティーメンバーは私に政貞、百地、桔梗、雪、四郎、又五郎である。私と政貞が戦士枠、百地と桔梗が忍者枠、精神攻撃が出来そうな雪は魔法使い枠になる。そして遊び人枠は四郎と又五郎のゴールデンコンビである。


 「若殿、香取の海も広ろう御座いますが、大海はもっと広ろう御座いますね」


 上機嫌の雪が眩しそうに目を細めている。


 「たまにはこういうのもいいよね、後は天気が続くのを祈るばかりだよ」


 私の言葉が耳に入ったのか政貞が口を開く。


 「今は時期もよう御座います。良い船旅になるでしょう」


 政貞も機嫌がいい。皆で堺の話をすると会話に入れなかったからね、でも孫子の事は忘れてないから!赤松と飯塚から事情を聞いて発覚した勉強会だけど、まだ返して貰えないでいる。


 私達を乗せた千石船はその後も順調で、大阪湾に入ると歓声が上がった。陸伝いに船は進み視界に堺の街を捉えた。海から見る堺も格別である。


 港に船を着けた私達は宗久殿に使いを送り、それを待つ間は船の外で街を見学していた。港は活気があり、もろ肌脱いだ荷担ぎが忙しそうに往復している。暫く待つと今井の使い番が現れ屋敷に行く事になった。


 「小田様、お久しぶりで御座います」


 平伏する宗久殿に私は彼の元気そうな姿に安堵した。私は政貞と雪を紹介し、互いに挨拶を交わした。


 「宗久殿もお元気そうで何よりです。私は常陸で心配していたのですよ」


 「それは勿体ない事で御座います。それにしても暫く見ぬ内にお美しくなられましたな」


 そう言うと彼は破顔した。


 「そう言って頂けるのは宗久殿だけです。当家の家臣に聞かせてやりたいです」


 そして皆で笑った。それからは商談に入る。椎茸、石鹸はいつもの事なので確認のみとなった。ここからは新商品のプレゼンテーションになる。


 私はまずリバーシをお披露目した。ルールを説明し宗久殿とプレイしてみる。彼は目を丸くしながらも時折考えている。商品になるか見定めているのだろう。


 「小田様、このりばーしは良く出来て居ります。何より誰でも出来るのが良う御座います。ですが手前が見ました所、良く出来ているが故に他の者にも真似が容易で御座います。売れるのは最初だけになりましよう」


 うん、当然だよね。私も特に売る気ないし。売れたとしても大した額にもならない筈。


 「宗久殿の仰る通りです。実は、、、」


 私はリバーシを開発した経緯を説明した。それを聞いた宗久殿は肩を震わせ笑いを堪えていた。


 「いやぁ、小田様には参りました。そのような事でこれ程の物を作ろうとは」


 「私も特に売る気はないのですよ、ですからりばーしは宗久殿に差し上げます。宗久殿なら使い道を考えるのも容易いでしょう」


 「これはまた剛毅な、長くは売れませぬが短い期間なら利益も出せましょう。宜しいので御座いますか?」


 「いつもお世話になっていますからね、お気になさらず」


 こうしてリバーシは譲渡となった。政貞が何か言いたそうにしているけど無視である。実際、常陸で売ってもある程度行き渡れば売れなくなるし、高く売る程の物でもない。リバーシの使い道は別に考えてあるのだ。


 次にグラスのお披露目である。桔梗が箱を開けて宗久殿の前に置く。それを見た彼は目を見開く。


 「小田様!これはもしや硝子の器で御座いますか?何と美しい、、、」


 八兵衛謹製のグラスである。


 「八兵衛が頑張ってくれました。今の天下でこの器を作れるのは八兵衛だけです。良い値を付けてあげて下さいね」


 宗久殿は感嘆の息を吐きながら、グラスを角度を変えながら眺める。


 「八兵衛め、物にしよったか、、、」


 宗久殿が私の所に八兵衛を送ったのは彼なりに見るべき所があったのだろう。その短い言葉には人の情が見て取れた。私は桔梗に声を掛け次の箱を出して貰った。


 「これも見事な物ですな。色もよう御座いますし、幾つも色があるのも素晴らしゅう御座います」


 宗久殿はしげしげと眺める。


 「宗久殿、その器は私が作ったのですよ」


 悪戯心満載で微笑みながら私は語った。八兵衛との開発の苦労や失敗話や自慢話など。それを聞いている宗久殿は終始目を丸くしていた。


 「まさか、小田様が御造りになられたとは驚きました。この宗久も思いもしませなんだ」


 「私も楽しかったのですよ、いつか宗久殿に話す日を心待ちにしていたのです」


 「いやはや、小田様がいらっしゃると宗久は驚いてばかりで御座います。真に参りました」


 「もう一つあるのですよ?宗久殿なら喜んで頂けると思っています」

 

 それを聞くと宗久殿は目をパチクリさせた。


 「常陸から遥々参ったのは宗久殿の喜ぶ顔が見たかったからなのですよ。百地、お出しして」


 私の言葉に百地が大きめの箱を持ってくる。女子の桔梗には重たいからね。そうして箱を開けるとワインがびっしり入っている。私は一本取り出し宗久殿に渡した。


 「これはまさか、これはまさか!珍陀酒(ちんたしゅ)をお造りになったか!」


 興奮のせいか声が微かに震えている。宗久殿はワインが好きだもんね。私はニコニコして眺めていた。私はおちょこを取り出し宗久殿に差し出した。そしてもう一本のワインを取り出し栓を抜いた。


 「宗久殿、味見をどうぞ」


 「なっ、これは忝い」


 宗久殿はワインを眺め、そして香りを確認する。


 「良い香りで御座いますな、南蛮品とは比べ物にならないほどよう御座います」


 そしてワインを一気に呷った。そして目を見開く。堪能するように味わい、目を閉じそしてしばらくして口を開いた。


 「南蛮の珍陀酒(ちんたしゅ)を初めて味わった時は、手前も驚いたもので御座います。ですがこの珍陀酒(ちんたしゅ)は別物で御座います。これほど美味い酒を味わえるとは、宗久は幸せ者で御座います」


 彼はしんみりと語った。


 「宗久殿、この珍陀酒(ちんたしゅ)は全て差し上げます。お受け取り下さい」


 「なんと!しかし、これほどの逸品をタダで受け取ることは出来ませぬ」


 「良いのです、造りはしましたけど売る程の量が無いのです。家臣に配った残りは父上と宗久殿へと決めていたのです。今年は量が増えますが、本格的にお売り出来るのは来年か再来年になります。父も珍陀酒(ちんたしゅ)を気に入ったようで、国を挙げて作ることになりましたので、それまでは宗久殿がお楽しみ下さい」


 「これは、真に嬉しきご配慮。正直困惑致します、何故そこまでこの宗久にお気を使われるのか?」


 「宗久殿には迷惑かもしれませんが、私が宗久殿を気に入っているだけです。お気になさらないよう」


 私がそう言うと宗久殿は平伏した。私はフレンドリーに付き合いたいのだけど?私は宗久殿に頭を上げてもらい次の商談に入る。私のメインの目的である。


 私は政貞に声を掛けた。大きい箱を宗久殿の前に二つ並べる。私は箱を開け宗久殿に示した。


 「これは黄金で御座いますな、これほどの量を二つも」


 瞠目する宗久殿に私は口を開いた。


 「宗久殿にお願いがあるのです。この黄金で買えるだけ玉薬が欲しいのです。玉薬が足りなければ黄金は置いて行きますので入り次第常陸に送って欲しいのです」


 私の言葉に宗久殿は腕を組む。


 「手前の考えが正しければ、小田様は商い(あきな)上手に御座いますな。今は鉄砲を求める者も少のう御座いますが、鉄砲を求める者が多くなれば玉薬の値は上がりまする。それで宜しいので御座いますね?」


 「そうですね、そのうち鉄砲は皆が求める様になるでしょう。そうすると玉薬が足りなくなります。私は宗久殿のお力を借りて、誰よりも多くの玉薬を求めたいのです」


 「承知致しました、南蛮や明から来る玉薬は手前が買い占めましょう。そして小田様を優先してお売り致します。この宗久も少しでもご恩をお返ししなければ、面目が立ちません。小田様には真に参りました」


 これで玉薬の心配をしなくて済みそうだ。撃ち続けられる鉄砲隊を作ることが出来る。鉄砲もどんどん数が増えるから気になっていた。今でも玉薬はかなりの量を持っているけど、私は心配性なのだ。備える事が出来るならやれるだけの事をするのだ。


 その後は細かい打ち合わせをし、明日の観光案内を依頼した。前回同様、私達は宗久殿の屋敷に宿泊する事になった。


 そしてその夜、宗久殿に夕食に招待された。相変わらずのセンスの良い部屋に通され、皆席に付いた。前回はここで百地と桔梗にやられたけど、今回は心配無用である。


 ワインは宗久殿を虜にしたようだ。「美味い、美味い」と連呼する。

 

 「私の父上もそうですが、今年は大事に飲んだ方がいいですよ?」


 顔を火照らせた宗久は陽気に答える。


 「これ程の美酒を我慢するのは勇気が要りますな!」


 「左様で御座いますな。しかし若殿は我等にもお譲り下さいましたが、宗久殿には贔屓が過ぎますな」


 酔った政貞が陽気にグチを言う。


 「今年のはもう少し配れるからそれまで我慢してね」


 そしてワインの製作秘話を私は披露した。


 「なんと、美しき乙女のみでお造りになられたとは驚きましたな。しかし、それを聞きますと何やら酒も更に美味く感じられますな」


 「ここにいる雪と桔梗も手伝っているのですよ」


 「確かにお美しい御仁でありますな、これは参りました」


 皆お酒が回り始め、話し言葉の声も大きくなる。雪も宗久殿が気に入ったようで陽気に話をしていたが、次第に手塚のグチに変わっていく。私は少し青くなったけど、桔梗が上手くフォローしてくれたので助かった形だ。そうしながら夜が更けて行った。


 次の日、朝から食事が豪勢であった。何かにつけて気を配って貰い、上にも下にも置かない歓待ぶりであった。政貞は目を丸くしていて雪も面食らっている。今や今井家では小田家は上客なのである。うちの家臣は威張る者もいないから、余計好かれているようだ。


 「これは驚きましたな、これ程のもて成しを受けようとは」


 政貞の言葉に雪が頷く。


 「当家の侍女もここまではしてくれません。今井殿は余程若殿を気に入っているのですね」

 

 そうしてもて成されては観光を楽しみ買い物を楽しんだ。普段は財布の紐が固い政貞も随分と買い込んだようだ。一族に配るのだろう。雪も同様で引っ張り回される桔梗が大変そうだった。


 私といえば例によって木綿を中心に、機織り機や職人への道具類などを買い込み、次々船に積ませる。そうして二日ほど過ごして堺を離れた。皆名残惜しそうだったけど仕事があるしね。



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― 新着の感想 ―
[一言] あちこちの、転生物で「リバーシ」(我々の世代だとオセロ)出て来るが、パラレル日本なのだから「白&赤」にして「源平」なんて、名称どうかな?
[気になる点] >>今の天下でこの器を作れるのは八兵衛だけです って言ってるしりから自分が作ったとかw
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