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第二十四話 ワインを作ろう1


 早朝の葡萄畑で私は四郎と又五郎と共に葡萄狩りに勤しんでいた。理由はもちろんワインを造る為である。


 今日の二人はやる気に満ちている。何故なら今までのご苦労代として結構な額の手当を支給したからだ。


 元々は堺で博打をして、路銀を使い込んだことに対する罰としての、果樹園の作業だったけど、予定外に広大な農園を作ることになり、さすがに気の毒だったので手当を支給したのだ。


 すっかり農作業が板についた二人を見て、多少は複雑な思いはあるが、まあ良しとしよう。


 前世では父と葡萄ジュースを作っていたので製法は全く問題ない。葡萄ジュースを発酵させたものがワインとなる。ワインはお酒としては作り方がとても簡単なのだ。大雑把に言うと、潰して発酵させるだけである。


 今年は葡萄が大量に実ったので、かなりの量のワインが造れる筈だ。だけど、身内と宗久殿に配ったら残りは寝かせる予定である。私がお酒を飲める年齢になったら、これは天文十六年物のワインとか言って、楽しむ予定なのだ。


 葡萄をどんどん箱に詰めて荷車に積んでいく。箱に詰まった葡萄は重く、自然と運ぶ仕事は私の担当になっていく。そして荷車を引くのも私の役目だ。そして二人はとても自然にサポート役のポジションである荷車の後ろに回っている。そこに言葉は無い。でもちょっと納得いかない。


 戸崎の城に着くと、大量の荷を積んだ荷車を引く私の姿を見て、門番が目を丸くしている。今更なので気にせず運び、作業場に到着した。そしてそこには四人の美女が集まっていた。


 桔梗、雪、楓、秋の面々である。字だけ見れはとても風流な人達だ。私なんて氏治だよ?


 今回のワイン作りに欠かせないのが美しい乙女である。葡萄踏みは美しい乙女がするものと昔から決まっているのだ。そして当然その中に私は含まれる。絶対だ。


 桔梗は言うまでもなく美少女なので採用だ。雪は美人なのもあるけど、色々鬱屈してそうなので誘ってみた。


 楓と秋は百地の忍びだ。人数が欲しかったので百地に頼んで忍びの中で美しい乙女二人をを発注したのだ。つまりはテイクアウトである。


 桔梗によれば選考は大分荒れたらしいけど、私は知らない。百地がどんな顔をしたかは気になるけど。


 私の姿を見て雪が目を丸くしている。私の怪力を見るのは初めてだろうからね。


 「若殿、噂は耳にしておりましたが何と言ってよいのか」


 雪が口に手を当てて慄いている。とても女性らしい仕草である。私も機会があれば真似をしよう。


 「雪、気にしないで欲しい。それより桶の準備は出来ている?」


 「出来て御座います、中も洗ってありますのでいつでも使えます」


 準備は万端との桔梗の言葉に私はコクリと頷く。


 四人の乙女をチラチラ見ている四郎と又五郎に、荷を下ろすように指示し私もそれに加わった。下ろした箱の葡萄をどんどん桶に投入していく。二人には次の葡萄を運ぶよう指示し、次の作業に移る。葡萄踏みである。


 まずは葡萄を踏む作業である。これは種も茎も一緒に踏んでしまう。こうすると赤ワインが出来る。種と皮と茎を取り除けば白ワインになるのだ。皮と種と茎の選り分けは時間が掛かるので、楽な赤ワインを造る。


 「皆、私の真似をしてね。ゆっくりでいいから」


 私は足をよく洗い、裾を捲ってから葡萄の入った桶に足を乗せ入り込んだ。そして足で葡萄を潰していく。四人は見た事が無いであろう作業の様を不思議そうに見ていた。


 「若殿。そのように食べ物を足蹴にしては、罰が当たるのでは御座いませんか?それに、おみ足をそのように出されるのも良くありません」


 この時代の人らしい雪の言葉である。


 「こうして潰さないと終わらないんだよ。手でやってたら何時になるか分からないから。人払いはしてあるし、来るとしても四郎と又五郎位だから大丈夫だよ。それに罰も当たらないからやってみて。世の中には悪事をしてピンピンしている者が大勢いるよ」


 足踏みをしながら答える私の言葉を聞いた忍びの三人は足を洗いそれぞれの桶に恐々と入っていく。そして着物の裾を上げて踏んでいく。


 「そうそう、全部潰れるように踏んでね。雪、室に居るだけは性に合わないんでしょ?」


 私の言葉を聞いた雪はハッとしたようにしてから答えた。


 「そうで御座いますね、私も致しましょう」


 そう言ってようやく葡萄を踏み始めた。暫くそうして踏んで、もう十分と判断した私は桶から出て足を洗い、用意してあった酒樽に桶の中身を移していく。


 それが終わると桔梗の桶を持ち上げるんだけど、雪がその様を凝視していた。まあ大人二人掛かりの作業だしね。若い娘が怪力を発揮する様は、インパクトも強いだろうし。


 そうしながら葡萄が尽きるまで、この作業の繰り返しである。最初は恐々だった雪も慣れたようで、楽しそうに踏んでいた。


 「若殿はお酒を造ると仰いましたが、葡萄で作るので御座いますか?」


 「そうだよ、南蛮ではこうやってお酒を造るらしいよ?だから私も試しているんだよ」


 さらりと嘘を付く。深く聞かれると困るのである。


 「お酒は米で造るものとばかり思っていたので御座いますが、世は広いのですね」


 「そうだね、雪も堺に行ってみるといいよ。色々な物があって刺激になると思うよ」


 「堺で御座いますか?」


 「うん、機会があれば連れて行くよ。勿論、皆には内緒だけどね」


 話をしていると不意に視線を感じた。そして感じるままに振り返ると、建物の陰に手塚がいたのである。うん、そうじゃないかとは思ってた。


 「桔梗」


 「はっ」


 私の声に桔梗は懐から何かを取り出し、素早く手塚に投げた。たぶん苦無的な何かだと思う。それは手塚の顔をかすめて飛んで行った。なんか血が出ている気がするんだけど、、、。桔梗も容赦が無い気がする。


 まあ、今回は完全に覗きだ。手塚が悪い。この時代の身分ある女性は肌を見せない。美女が五人も膝上まで裾をまくっている様は、男からすれば嫌でも興味をそそるだろう。でも私はワインの方が大事なので気にしない。


 「雪様、毒は与えておりませんので、どうぞご安心下さい」


 「多少の毒は構いませんよ、死なない程度であれば。桔梗には迷惑を掛けますね」


 凄い会話である。雪も桔梗も容赦が無い。何らかの協定でも結んだに違いない。


 そして、ここに雪がいるからだろう、手塚は逃げるように去って行った。バレたら叱られるとか考えないのだろうか?ホント彼はよく解らない。そんな手塚の様子を、呆れたように眺めていた雪が私に詫びた。


 「若殿、面目次第も御座いません。帰りましたら罰を与えますのでご容赦下さい」


 「雪が苦労しているのはよく解ったよ、でも命は許してあげてね」


 「心得ております、あのような者でも我が夫で御座います。多少の慈悲は掛けるつもりで御座います」


 多少とはどの位の事なのか気になったけど、聞かない方が良さそうだ。手塚が寝込まない事を祈ろう。


 そうして作業は昼過ぎまで続いた。完成した葡萄汁は樽九つ分である。前世ではペットボトルで作っていたから、ズラリと並んだ樽は壮観だった。


 作業が終わった私は雪と楓、秋にお礼を述べて、お土産に梨と葡萄を沢山贈った。皆それぞれ礼を述べて帰って行ったが、私と桔梗は作業の続きである。


 掃き清めた小屋に樽を次々運んでいく。力仕事は私の役目である。そして蓋を少しずらしておく。発酵すると二酸化炭素が発生するので蓋が飛ばないようにする為だ。


 次の作業は二週間後になる事を桔梗に伝えてその日の作業を終えたのだった。


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― 新着の感想 ―
氏治には、ぜひ厳ついハルバートを使って欲しいです
蓋はズラさなくても「止め」無ければ大丈夫なんじゃなかろうか?蓋をふっ飛ばす程ならばだが
[一言] 手塚ェ……(; ̄ェ ̄) 蓋をズラしたぶどう酒の樽、隙間から埃が入らないか心配。 上に布をかけておけば埃の心配はかなり少なくなると思いますが、どうですかね?
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