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第百二十話 北条包囲網 その7


 ―下総国 国府台城 小田氏治―


 私達は物資の配給を本格的に始めた。でも意外に手間が掛かり、配給を終えるのに三日を要する事になった。この間に降伏してきた国人もいて、配給先が突然増えるので時間が掛かってしまったのである。でもこれで安心して次の手が打てるし、私は武蔵に侵攻するつもりが無いのでのんびりでいいのである。勿論、侵攻する振りはするけど。


 村に配ると言っても大小数多くの村が点在しているし、この戦の混乱で野盗になった敵兵が村を占拠している所もあったので、討伐を余儀なくされるケースもあったのである。物資の補給は黒鍬衆のお陰で何とかなっているけど、上総に配る予定が無かったので順次に命じて商家から食料の買い付けも行っている。米、麦、粟、稗など穀物であれば全て買い占めているのだ。商人が足元を見て値を釣り上げて来る所もあるけど、そういう商人は後で痛い目を見る事になると思う。しっかりリストに載せているから存分に商って欲しい。


 そんな中で北条家から和睦の使者もやって来た。私は丁重に断ったけど、また次の日も使者がやって来て、また和睦を断ったのだけど、これが凄く心苦しい。それが北条氏康の手だとは解っているけど、情に訴えて来るので私の精神にダメージが来るのだ。


 私宛に北条氏康から書状も届いたけど、懇願するような内容で正直閉口している。解っているのに情に絆されてしまうのは、氏康が仁君である事を私は歴史で知っているからかもしれない。この様子だと、義昭殿や両上杉家も同様だと思う。これが信玄からの手紙だったら私は『・・・プッ』と返信したかもしれない。


 北条氏康と今川義元は対陣して睨み合っていると百地の忍びが伝えて来た。この場合、軍勢を引いた方が追い打ちを受けるので、一万対一万の大軍の戦だから慎重になっているのだと思う。小競り合いはあったそうだけど、まだ決戦には至らないようである。


 河越城では戦闘が開始されている。鷹丸からの文によると昼夜問わず城攻めをしている様である。私はてっきり互いが日和見して、城を落とせないのではないのかと考えていたのだ。もしかしたら以前の河越での戦から学習したのかもしれない。ちなみに義昭殿は包囲を固めるのみで全く動く気配が無いそうだ。私はそれでいいと思う。里見の謀略だと義昭殿は知らないだろうけど、里見家の為に血を流す必要は無いと思うし、私も今回出陣したのは北条家を弱らせる事が出来るならという動機なのである。今は小田家が優位な状況だし、上総を獲るという新たな目標も出来たので納得して戦が出来ている。


 久幹が一万の軍勢を引き連れて小弓城を落とすべく出陣した。上総の平定を許可された久幹はとても嬉しそうに出発したのである。あの様子だと進撃に進撃を重ねてあっという間に上総を平定しそうだ。でもそのやり方が久幹の真骨頂でもあるので、効果的に軍勢を運用する事に繋がるのである。今回は大将として前線に出る事は許していないから、しっかりと用兵してもらいたいものだ。


 今後鉄砲が普及して来れば、戦の仕方自体が変わって来るのである。未だに関東では一騎討ちが主流なので集団戦術を使う小田家に勝てる軍勢はそうはいないだろう。小田家では一騎討ちを基本的には禁じているし、『私と孫子』で学習した重臣達は、兵の運用に強く興味を持っていて、私が調子に乗って記した神速の用兵や十面埋伏や釣り野伏せなどを試す機会を虎視眈々と狙っているのだ。桔梗は騎馬鉄砲を試したいと言っていたけど、騎馬はそんなに沢山いないので却下である。


 戦が始まってから七日が経つけど、私と言えばのんびりと国府台城で百地と悪巧みである。私も戦には慣れたのと大軍を持っているから心に余裕があるのだ。小金城と国府台城に五千の守備兵を置いているけど、以前なら小田家の全兵力に匹敵する数なのである。前線に出る事も無くなったし、軍団長に攻略を指示するだけの立場に出世したので大分気楽なのである。


 私と百地は商家の拠点に指示を出して、占領した銚子に穀物を輸送させる事にした。下総と上総の民を一年食べさせなくてはならないので、今回買い付けた米は全て消費される事になるだろう。収穫期直後の安価な米なので買い付けをしていて助かった形である。何が幸いするか判らないねと百地と話をしていたら、政貞と勝貞が部屋にやって来たのだ。


 時間が出来たら来て欲しいと私が頼んだのだけど、上総を獲れば今の軍団長では手が回らなくなるので、三人目の軍団長の人選をする為に相談しようと思ったのだ。史実の織田信長の軍団制と比べると私の軍団は守備範囲が狭いけど、政治の仕方が違うので仕方がないのである。それに地域毎に纏めた方が分かりやすくていいのだ。私はその事を政貞と勝貞に話をしたのである。


 「―――これは悩みますな。父上は小田家の家老でも御座いますし、御屋形様の守役でも御座いました。真壁殿は外様で御座いますが、真っ先に御屋形様に被官致しましたし、名のある御仁で御座いました」


 政貞がそう言うと、勝貞が続いて言った。


 「当家からは出せませぬな。譜代の重臣から選ばねば不満を持つ者も出ましょう。政貞、其の方は誰を推すのか申してみよ。家臣を纏める其の方の意見が聞きたい。この父に遠慮は無用ぞ」


 勝貞にそう言われた政貞は腕を組んで悩ましそうな顔をしていた。この場合の人選はとても難しい。下手に派閥などを作られては後々困るし、兵権を与えるから有事の際に柔軟に対応できる人が好ましいからだ。


 「そうで御座いますな、野中殿、矢代殿、平塚殿、赤松殿、飯塚殿、何れかの御仁であればお役目も果たせましょうし、某もやり易く御座いますな。御屋形様は御一門から選ぶつもりは無いので御座いましょう?」


 「無いかな。重臣の列にこそ加えているけど、今まで見て来ても功が無いし、お役目も血縁に甘えて中途半端。兵権を持たせたら家中が割れると思う。私には一門よりも頑張ってくれている譜代の家臣や外様の家臣の方が遥かに大切だよ。彼等は私の世継ぎを誰にするかで揉めていると百地から聞いたけど、正直言うと世継ぎは小田家の者でなくともいいと思っている」


 「相変わらず御身内には厳しい物言いで御座いますな。ですが、この勝貞も御一門には一言申したい気持ちは御座います」


 「父上が御健在だから今は大人しくしているだろうけど、身罷られる事でもあればどうなるか判らない。丁度いいから此度の領地替えは一門をバラバラに配してしまおうか?当家は律令で権限を決めているから、これも細かく整理して一門を噛ませなければ下手なことは出来ないと思う」


 「ですが、小田宗家の力を弱めてしまう事になりまする。御屋形様が御健在の間は良いとしても、何ぞ事が起きますればどうなるか判りませぬ」


 「政貞の言う事も解るけど、それは何れ養子なり養女を取るから問題ないよ。なるべくしがらみの無い一族から貰うから。私が教育して育てれば暗君にはならないと思う。ただ、将軍家の血を引いているのは父上と私だけだからそれが途絶えてしまうね……」


 私がそう言うと勝貞が唸った。私の父上である小田政治は堀越公方、足利政知の三男である。足利政知は六代将軍足利義教の四男であり、父上は室町幕府第十一代将軍、足利義澄の弟でもあるのだ。私も足利将軍家の血を引いている。ちなみに十二代将軍足利義晴とは従兄妹なのである。だから、それを持ち出せば家来筋である関東管領に従う必要など無いのである。


 「政貞に決めて貰って、私と勝貞は政貞が決めたと皆に言えば誰からも恨まれないね?全部政貞のせいに出来るよ。私と勝貞は遠くから見守っているから頑張るといいよ」


 私がそう言うと勝貞が膝を叩いて大笑いした。そして政貞は顔を赤くして抗議をして来た。


 「御屋形様!某に押し付けるのはお止め下さいませ!」


 「冗談だよ、それで誰を推すの?」


 「そうで御座いますな。気遣いが出来、目端が利き、臨機応変に対処が出来、戦にも強いとなりますと……赤松殿で御座いましょうか?」


 そんな気がしてた。赤松は私に色々ダメージを与えてくれるけど、家柄もいいし、重臣からも信頼されていて民にも優しい。戦も強い上に剛の者である。だけど、なんだか悔しいのである。


 「私も赤松かなとは思ってた。特に上総は荒らされているようだから赤松が(まつりごと)をすれば民は助かると思う。上総は三十九万石、軍勢は約一万。久幹は下総全てに領地替えにして残りは勝貞が面倒を見る。それぞれの軍団の軍勢は一万ずつ、合わせて三万だね」


 「未だ千葉家、土岐家、真里谷家は健在で御座いますが、真壁殿の事で御座います。二、三日中には吉報が届きましょう。ですが、こうまで国が大きくなると何やら恐ろしい気がしまする。気が早いのは承知して居りますが、合わせて百二十一万石、大国どころの話では御座いませぬ」


 「仕方がないでしょ?里見殿のせいなのだから?私は正木殿に、終わってみれば里見家だけが領土を増やしているのではないのですか?と聞いたけど、此度は当家がそうなりそうだね。里見殿は安房のみで四万五千石、当家が上総を獲ったらもう領土は増やせない。里見殿にはいい薬だよ。自分のために皆を巻き込んだのだからね。御家を守りたいのは解るけど、便乗して勢力を伸ばすのは別の話。義昭殿が気の毒だよ」


 里見義尭と正木時茂は、北条家に磨り潰されるのを防ぐ為に諸国連合を立ち上げる事を考えた。連合軍が北条家に討ち入れば、里見家はそれに乗じて上総を統一するつもりだった。そして正木時茂を使者として派遣し、諸国を口説いている内に里見家は北条家と千葉家に押し込まれてしまった。ようやく連合が立ち上がり、連合軍が討ち入ったけど、里見家は久留里城を抜かれ安房に押し込められてしまった。小田家が千葉家に討ち入ったから里見家は滅ぼされなくて済んだけど、里見家の野望も潰えたのだ。安房四万五千石の兵は千百程度、最早何も出来ないと思う。


 ―越後国 春日山城 長尾景虎―


 春日山城の私室で、長尾景虎は腕を組んで思案するようにしていた。膝元には小田氏治から贈られたブランデーの空き瓶が置かれ、それをじっと見つめている。


 大の酒好きである長尾景虎は小田氏治から贈られた珍陀酒(ちんたしゅ)を大いに気に入っていた。味や香りも然る事ながら、独特の酒精の虜になったのである。初めて珍陀酒(ちんたしゅ)を味わった時の感動は忘れられない。そして早々に飲み尽くすと氏治に文と土産を贈り、遠回しに珍陀酒(ちんたしゅ)を催促したのだ。特に深い交流も無かったので遠慮した形である。


 常陸の小田家とは使者を通じて交流しているものの、長尾景虎は越後を統一したばかりであり、お互いの事はよく知らないのだ。ただ、小田氏治が諸国から連合され、それを見事に撃退し、更に敵対国の全てを平らげたと聞いた時は長尾景虎も驚いたのだ。長尾景虎は小田氏治の戦術に興味を持ち、戦勝の使者を送り、話を聞かせたのである。そして使者が小田氏治からの土産と持ち帰ったのが珍陀酒(ちんたしゅ)であった。


 これが長尾景虎を虜にしたのだ。初めて飲もうとした時は折角なので珍しい酒を振舞おうと同じ酒好きの家臣である小島弥太郎と柿崎景家を呼び、三人で珍陀酒(ちんたしゅ)を試したのである。共に送られて来た硝子なる器も珍しく、珍陀酒(ちんたしゅ)を注ぐと血のように赤い液体に驚いたものだ。そして飲んでみてまた驚いた。初めての味と香りと独特の酒精に、三人は一口で珍陀酒(ちんたしゅ)の美味さを認めた。瞬く間に一瓶が無くなる。景虎は物欲しそうな二人の視線を感じたが、残りはあと四本。この美味い酒を飲ませるのが惜しくなった。景虎は物欲しそうな二人を無視して、近習に普段飲む酒を持って来るように命じて、その日はその酒を飲みお開きになった。


 景虎は残り四本になった珍陀酒(ちんたしゅ)を大切に飲んでいた。珍陀酒(ちんたしゅ)をゆっくりと味わい、その後は清酒を味わうというサイクルが出来ていた。だが、珍陀酒(ちんたしゅ)の味が忘れられない小島弥太郎と柿崎景家は、酒宴の度に珍陀酒(ちんたしゅ)の話題を出し、景虎に対して暗に珍陀酒(ちんたしゅ)を差し出すように要求した。


 景虎はこれを全力で気付かない振りをした。今朝起き抜けにうっかり珍陀酒(ちんたしゅ)を飲んでしまい、残りは一瓶である。蟒蛇(うわばみ)のような二人に飲ませる訳には行かない。景虎と小島弥太郎と柿崎景家との静かな戦いが始まった。用も無いのに登城して来る二人を景虎は全力で無視して珍陀酒(ちんたしゅ)をちびりと味わう毎日が始まったが、たったの一瓶である。あっという間に無くなってしまったのである。


 景虎は小田氏治に文を書き、大量の土産を贈り、珍陀酒(ちんたしゅ)を催促した。使者の帰還をじりじりと待ち、戻った使者は十本の珍陀酒(ちんたしゅ)と、特別に作ったぶらんでーなる酒を持ち帰った。氏治の文には、景虎が大量に贈った青苧の礼に珍陀酒(ちんたしゅ)とぶらんでーを贈ると記されていた。他には景虎に対して、塩を肴に酒を飲むのは良くないとか、酒は適度な量なら身体を壊す事は無いなど、まるで母親からの苦言のような事が記されていた。


 景虎は小田氏治は若い姫君であると聞いていたので、景虎の健康を心配したのだろうと好感を持った。そしてその文には試しで作ったぶらんでーという酒を贈ったと記されており、酒精が強いので水で割って飲むように記されていたのである。景虎は当然のようにこれを無視した。折角の酒を水で割るなど勿体ない事この上ない。景虎は一緒に送られて来たぶらんでー用の小さい硝子の器にぶらんでーを注いだ。


 氏治は熟成途中の蒸留酒である事から心配して注意をしたのである。アルコール度数を計る術を持たない氏治は、自分で試してみて直接飲むのは良くないと判断したのである。氏治は知らない事だが、贈ったブランデーのアルコール度数は六十パーセント程あったのである。


 景虎は薄く色の付いた液体を一息で飲み干した。だが、その強い酒精は景虎の喉を焼くようで、仄かに香る甘い香りが鼻孔を貫いた。珍陀酒(ちんたしゅ)以上にその酒に驚いたのである。そして一瞬で虜になった。強い酒精で酔いも回り、気が付けば三割程飲んでしまった。


 小田氏治からの使者が到着した事を耳にした小島弥太郎と柿崎景家は、またも用も無いのに登城し、景虎に珍陀酒(ちんたしゅ)を飲ませろと無言の圧力を掛けて来た。景虎は仕方なしに珍陀酒(ちんたしゅ)を一本だけ提供し、三人で飲んだのだ。


 そしていつしか全ての酒が無くなり、ぶらんでーの空き瓶を眺め見ながら、小田氏治に要求すべきか悩んでいるのである。聞けば、北条との戦に小田氏治は出陣している様で、流石に戦の最中に酒を要求するのは憚られた。長尾景虎は戦は良くないと思った。いっそ、参陣して手助けをしようかとも考えたが、関東管領は旧来の敵であり、未だに和解していないから領地を通ることが出来ない。


 いっそのこと、千程の騎馬の軍勢で敵中突破を図り、小田氏治の軍勢に合流しようか?珍陀酒(ちんたしゅ)とぶらんでーを手に入れたらまた敵中突破して帰ればいい。上杉家の軍勢程度なら特に問題なく帰れるだろう。そう考えていると小島弥太郎と柿崎景家が登城したと近習が伝えて来た。もう酒は無いのにご苦労な事だと嘆息した。


 景虎は小島弥太郎と柿崎景家を部屋に招き入れた。二人は嬉しそうな顔で景虎に挨拶をした。景虎としても二人の気持ちはよく解る。同じ酒好きである。あの味を覚えたらもう戻れないだろう。だが、次に珍陀酒(ちんたしゅ)が氏治から贈られても分けるのは一本と決めている。同じ酒好きの間柄でもそれとこれとは話は別である。そもそも主君の酒を奪おうと企むこの二人は問題があると考えている。そして一方の小島弥太郎と柿崎景家は如何に景虎から珍陀酒(ちんたしゅ)を奪おうかと思案している。


 景虎はもう珍陀酒(ちんたしゅ)が無い事を伝えると、二人はあからさまに落胆した。そして小田家から買い付けできないかと訴えたのである。確かに買い付けできれば問題は無くなる。ただ、氏治の書状には貴重な酒と記されていた。それもあって景虎は買い付けする事を求めなかったのである。


 景虎は二人の提案を受け入れる事にした。今は氏治は戦をしているから戦が終わってから相談すると二人に伝えると、小島弥太郎が陣借りして助太刀に行きたいと言い出した。酒の為に此奴はそこまでするのかと呆れたが、よくよく考えたら自分は軍勢を繰り出そうとしていたからどちらも同じかと自分に呆れた。


 小島弥太郎の案はいいかも知れない。ここで協力して敵将の首の一つも獲れば、氏治との友好関係が築けるかもしれない。だが、そこではたと気が付いた。小島弥太郎の狙いは自分が氏治と懇意になり、珍陀酒(ちんたしゅ)を求める切っ掛けにしようとしているのではあるまいか?それにぶらんでーの存在に気付かれ、それを氏治に求められては珍陀酒(ちんたしゅ)よりも貴重な酒が小島弥太郎の手に渡ってしまうのではなかろうか?


 景虎はやる気になっている小島弥太郎の目をじっと見つめた。その目の奥に凶悪な企みを景虎は感じた。そもそも、勝手に北条家と敵対したら景虎を必死に補佐してくれている本庄実乃や中条藤資などに叱られてしまう。それにぶらんでーに気付かれるのは非常に拙い。景虎は小島弥太郎の案を却下した。今は越後を統一したばかりだから領内を安定させる事が先決であると話して聞かせたのだ。


 すると今度は柿崎景家が氏治が戦をしている期間だけ自分が長尾家を致仕(ちし)(簡単に言うと引退)して陣借りしたいと言い出した。こいつはそこまでするのかと景虎は怒り掛けたが、自分も同じ立場ならやりそうな気がして怒りを収めた。やる気になっている柿崎景家の目をじっと見つめた。その目の奥に凶悪な企みを景虎は感じた。そもそも、酒の為に自分の元から去るなど言語道断である。景虎は柿崎景家の案を却下した。


 景虎は二人に言い聞かせ、氏治の戦が終わったら自ら出向き、交渉して来ると約束した。その代わりに二人は領内をしっかり守るように命じたのである。二人が渋々応じた様子を見て景虎は内心でほくそ笑んだ。これでぶらんでーの秘密を守れそうである。景虎は軒猿を呼び、小田家の戦を見張るように指示したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] その目の奥に凶悪な企みを景虎は感じた これすごくツボに入る、バカバカしいのにサスペンスのように3人がお互いを牽制してる画面を想像してら笑いが止まらない。
[一言] 小田一門出てこないと思ったけど、ちゃんと居てはいるのですね(^_^;)
[良い点] はじめまして。いつも楽しく拝読しています。 上杉氏は人気が高い武将ですから、出てくると嬉しくなりますね。『酒好き』が強く打ち出されましたが、戦の活躍も何時かは読めるのでしょうか… しか…
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