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第百一話 千宗易抹殺計画 その1


 お花見に行ったら重臣にナンパされた挙句ディスられるという、よく解らない事件から時が流れて今は九月。実りの秋である。そろそろ米の収穫も始まるのでこれから忙しくなるだろう。


 新しく得た領土も安定している。当初は貧しい民人(たみびと)が多く、彼らを支援する為に穀物の配給を行ったけど足りなくなり、他国から買い付けして周る事になった。私は吉祥天様の御堂の完成に合わせて次郎丸と各地域に出向き、ついでに陳情を受け付けていた。過酷な年貢と税の取り立てを受けていた地域が多く、また、私腹を肥やす役人もいて取り締まりをする事にもなった。


 常南、行方、鹿島、結城、小山の家臣をほぼ登用したけど、汚職が蔓延していて多数の武士を放逐する事になった。新しく得た領土の組織はそのままに頭をすげ替えて、割り当てた小田家の家臣に運営して貰っていたので下の組織はそのままだったのだ。民百姓に辛く当たるのが当たり前なのはこの時代なら仕方ないけど、うちにはそういう人はいらないので容赦なしである。


 私が公布した法度を守らないのだから当然だけど、人が足りなくなる地域も出たので、協力的な地域の名士の家族を武士として取り立ててそこに当てたのだ。この反響が凄くて嘆願が相次ぎ、人不足が解消したのだ。武士になりたい人は当然多いようである。地場から出た武士ならその地域の人々に惨い真似はしないし、民も纏めやすくなるのでやって良かったと思う。減税も行ったので今年の収穫で彼らも一息つけるはずだ。


 無法者の取り締まりも行った。チンピラのような人たちが我が物顔で闊歩していた地域もあり、そういう輩は追放処分にして領内から叩き出したのである。チンピラはオタの敵でもあるのでこれも容赦なしである。それに治安も良くなるし、いい事しか無いのである。働かないし、戦で徴兵しても戦わないし、乱取りする事しか頭にないだろうし、単純に害悪なのである。


 百地から風魔の乱破が入り込んでいると報告があった時は緊張状態になった。大国になった小田家を探りに来たのだろうけど、百地が巧く追い返してくれた様である。北条家と千葉家に忍びを多く入れて警戒してもらうに留めているけど、油断は出来ないだろう。


 寺子屋の建築は順調で、出来た順に開校して貰ったけど、武家の娘が教師役になっている地域は娘目当てに大きい生徒が多い様だ。武士の娘は厳しく躾けられて育てられているので、民から見れば気品があるから人気が出るのは解る気がする。


 これらの統治でかなりの出費を強いられたけど、今年の収穫で補填出来そうなので私と政貞は胸を撫で下ろしたのだ。


 正木時茂による北条包囲網の連絡はまだ来ない。たぶん、今川義元を口説けずにいるのだろう。正直今は出兵をしたくない。北条の脅威があるから上手く行くなら協力はするけど、お米が勿体ないのである。兵力が多くなったので出兵すればそれに比例して兵糧を使うので、この秋の収穫で各地に作った商家の拠点で米を買いあさって小田領に運び込む事に変更したのだ。米は確保してしまえば相場は勝手に上がって行くので秋のお米はお買い得なのである。


 又兵衛や八兵衛がいる職人の街の拡張も行った。又兵衛の仕事がパンクしたのである。なので、各地から必要な技能を持った職人を小田家として雇い、その職人達を又兵衛に束ねて貰うように変更したのだ。又兵衛を筆頭にした総合職人集団の誕生である。これで彼も余裕が出来るだろう。土浦の街作りに職人は欠かせないので頑張って貰いたい。


 窯場も開き、日用品の食器などの生産も始まっている。国として生産しているので茶器の名品を作るつもりはない。むしろ私は今後流行する茶の湯に関わりたくないのである。狭い密室で正座させられて、不潔な茶器で回し飲みさせられた挙句、褒めなくてはならないとか拷問に等しいと思う。たかがお茶一杯飲むのに膨大な時間も浪費させられる。コレクターアイテムとして茶器は集めるけど茶道は遠慮したいのだ。


 なので私はそれを回避する為に紅茶を流行らせるつもりだ。土浦に出店を計画している喫茶店もあるので一石二鳥である。紅茶、日本の緑茶、烏龍茶の茶葉は同じ茶葉である事は有名である。発酵させるかさせないかでお茶の色と味と香りが変わるのだ。十分に発酵させたものが紅茶なので作るのは難しく無いのである。今年は実験で少量作ったけど、問題なく出来たので茶畑を拡張して貰っている。茶畑の主人を私が召し抱えて製法は秘匿している。


 あとはティーカップやソーサーやポットを作れば完了である。ただ、白磁器の技術が無いし、材料も無いのでカップなどは銀で作る事にした。取っ手は木製にすれば問題ないだろうし、そんな資料を見た事があるので使えるはずである。銀にしたのはもう一つ狙いがあって、銀自体に価値があるし細工もし易いので美しい食器を作る事が出来るのだ。当然、大量生産が出来るはずも無いのでその食器は一点物になる。茶器の様な希少性も持たせることが出来るので名物扱いする人が絶対出て来ると思う。これを信長や宗久殿や義昭殿にプレゼントして流行させれば茶室に閉じ込められる事を回避出来る気がする。椅子やテーブルもオシャレな物を制作しているのでそれと合わせれば完璧なはず。


 そしてもうひとつ。ティーセットを作っているけど、別に紅茶だけに使う必要は無いのだ。緑茶でも烏龍茶でも兼用してしまえばいいのである。それに紅茶はバリエーションが豊富なので季節の果物などを使えばより楽しめるのである。果汁を少し垂らすだけで別の飲み物になるのである。これらを使って宗久殿を仲間に引き込んで、新しい茶の湯にしようと企んでいるのだ。つまりは千宗易を()()のである。


 私達大名や武家を茶室に監禁しようとしている千宗易は敵である。しかも黒が大好きな重度の中二病患者でもある。現代であれば様々な治療を試みないといけない重病人だ。現代人であれば黒が大好きな人がどれ程の危険人物か理解出来ると思う。真言宗の開祖である空海は日本に小児性愛という罪深い害悪を振りまいた日本史上最大最悪の変態だけど、千宗易は中二病の元祖だと思われるので放置しておくのは良くないと思う。(注、千宗易や黒に関しては氏治の思い込みである)


 宗久殿も茶の湯の大家であるけれど、私の茶の湯の元祖になって貰えば問題なしである。千宗易の茶の湯は侘び寂びと言って、質素なものに趣きや美を求めるものである。対して私の茶の湯は仲間や友人、家族などと和気藹々と楽しむものである。千宗易から見たらパリピ集団に見えるかもしれないけど、千宗易には一人で茶室に籠っていて欲しい。


 又兵衛には私のマイカップと来客用の高級品に信長と宗久殿と義昭殿に贈るティーセットを作るように依頼している。優先順位は宗久殿への贈り物と決めているのだ。又兵衛は細工師としてやりがいがあると承知してくれた。何でも屋さんだったからようやく本来の仕事が出来て嬉しいのだと思う。早合の大量生産は辛かったらしい。でも『手前は細工師で御座いますから』と連呼していたのがちょっと気になる。


 八兵衛にも硝子のカップやポットを依頼している。紅茶は色が綺麗だから需要がありそうなので依頼したのだ。ただ、耐熱の技術なんて無いから温度差で割れてしまわないかの検証込みである。私の新しい茶の湯と千宗易の新しい茶の湯との対決になるからどんな結果になるか今から楽しみである。


 私が紅茶の茶葉の製造を独占し、宗久殿が紅茶の販売を独占する。時間が経てばティーカップは各々が職人に作らせるだろうけど、茶の湯と違って紅茶は私と宗久殿からしか手に入らないので希少価値が上がるのだ。しかも砂糖を使うので甘味に飢えているこの時代の人には受けると思う。そして千宗易の茶の湯を潰すのである。


 土浦城の大外堀は完成間近である。これが終われば内堀や城の石垣に移る事になるけど、道を早めに作りたいので政貞に頼んで優先順位を変更して貰った。商店街や飲食街を区分けしているのでそこを優先してもらうのだ。まだスカスカな商店街に政貞と晴朝と桔梗を連れて今日は視察に来ている。晴朝は小山家に居た頃から私の噂を聞いていたそうで、私に興味があったようだ。小田家に降った結城家だけど、晴朝が協力的なので小田家の家臣とも馴染むのが早いようだ。まだ若いので教育がてら今日は連れて来たのである。


 土浦に初めて来た晴朝は石垣造りの大堀に驚いていた。下妻城は見ただろうけど、規模がまるで違うからね。


 「話には聞いて居りましたが、土浦の城は凄いもので御座いますね」


 まるでお上りさんのように辺りを興味深げに眺め見ている。


 「晴朝、堺はもっと凄いんだよ?だけど、完成したら私達の土浦の方が立派になるかな。ねっ、政貞?」


 「左様で御座いますな、某も堺に参りました時は随分と驚いたもので御座います。ですが、我らの土浦は石垣にしても堀にしても建物も規模が違いますからな。御屋形様が申される商いも考えますると富も大きく生みそうで御座います」


 「たぶん、奥州や東海の商人もこぞって来ると思うよ?もちろん人もね。人口が益々増えて国内だけで富が回るようになるから楽しみだよね。南蛮船が来るようになるのが理想かな」

 

 「御屋形様は堺に参られた事があるので御座いますか?この晴朝も話には聞いた事が御座いますが、一度行ってみたいと思って居りました」


 「皆で行ったんだよ。又兵衛に頼んでいる細工物が出来たら行くつもりだけど、、、。どうしよう?まだ誰と行くかも決めていないよ。義昭殿と信長殿はお誘いしたのだけど」


 私がそう言うと政貞が答えた。


 「宜しいのでは?この政貞もお供致しますゆえ」


 「政貞も行くの?」


 「左様で御座います。此度は土浦の街造りの手本に致す為に参りたいので御座います。以前はそのような考えは御座いませんでしたが、気になる事も多く出て参りましたので今一度見聞したく存じます」


 「なら晴朝は任せるから、それと義昭殿と信長殿もお誘いしたから剛の者を連れて行こう」


 「ならば、赤松殿と飯塚殿ですな。ですが、他の家臣を供に致したほうが良いかと?堺に参りたがっている者も多く御座います」


 「う~ん、野中や矢代を連れて行ったら久幹が怒りそうなんだよね?他の重臣も新たに得た領土の面倒を見ているし?」


 「ならば仕方ありませぬな、あとは百地殿と桔梗殿で決まりですかな?」


 「それで行こうか?此度は皆で堺を見物するつもりだから菅谷の家来衆から多めに人を出して欲しい。船は二艘で行く」


 「承知致しました。晴朝殿よう御座いましたな」


 「御屋形様、有難く存じます!菅谷殿もご助力感謝致します!」


 晴朝が政貞と嬉しそうに話をしている。晴朝は武家として他の人とは毛色が違う気がする。それにしても政貞は晴朝に甘い気がする。私はその事を桔梗にコソッと話をしたら桔梗がクスクス笑っていた。


 「何で御座いますかな、桔梗殿?」


 「政貞が晴朝を可愛がっているようだからそれが可笑しいんだよ」


 「そのような事は御座いませぬ。某は皆等しく接して居りますゆえ桔梗殿も誤解なされない様に」


 ―その頃―


 佐竹義昭は小田野義正と堺行きの話をしていた。小田氏治から届いた文で堺行きに誘われた義昭は、早馬を出してその日のうちに了承の意を氏治に伝えたのだ。今は腹心の小田野義正と同行させる面子を検討していた。


 「国の守りも御座いますゆえ、御一門には留守を任せた方が良いかと存じます」


 小田野義正は腕を組みながら言った。

 

 「ふむ、船で参ると氏治殿が言われたが、大勢は連れては()けぬ、供は如何程に致すか、、、」


 「小田様の供も御座いますし、御屋形様の身の周りの世話を致すものと護衛を数人で如何で御座いましょうか?船に乗れる数も限りが御座いましょうから」


 「では、そう致せ。尾張の織田信長殿への土産を用意致せ。氏治殿は大人物であると評されている。失礼のないものをだ」


 「承知致しました。それにしても楽しみで御座いますな」


 「うむ、氏治殿から堺の話は聞いてはいるが、この義昭も見てみたいと考えていた。此度は気晴らしにも丁度よかろう。尾張の織田殿にも()うてみたかったしな」


 「大名同士で旅を致すなど前代未聞で御座いますな」


 「うむ、この義昭も待ち遠しくて仕方がない。金子も多く用意致せ、恥を掻く訳には参らぬ」


 大名が旅に出るなどあまりない時代である。更に氏治と共に旅に出るのが楽しみ過ぎた義昭は静かに興奮していた。そして翌日、熱を出して寝込む事になる。


 

 

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― 新着の感想 ―
濃茶の回し飲みはキツい 特にコロナを経験した現在ではw
[良い点] >千宗易は中二病の元祖 ある意味オタ仲間! オタの神様じゃないですか!?
[一言] 千宗易抹殺なんて言うから何事かと思いましたが、そういうことですか(^_^;)
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