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Dragoon Bandit  作者: ぺちっとぶん投げる
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微々たる成長 一歩前進

ああ、人生って難しいんだな。つくづくそう思う。

この感情をどういえばいいのか。教養が無いと人は心を言葉として外に上手に発信できない。


自分の馬鹿さ加減に心底呆れ、よくグレン先輩はそんな僕を見てくれたなと底の見えない感謝を今一度送ると同時に愚生としてまずは段階的に基礎、わからないことがあったら一つずつ質問しようと決める。聞くは一瞬の恥だが、これから何度恥がこの身を訪れるか見当もつかないが。


戦争当事者である僕がさっき会話に出たザイルってことがわからない。系譜って何だ? ということになった。

まるで学校で特定のゲームとか漫画が話題になっていて自分だけ知らないみたいな疎外感。払拭するにはやはり自分もそれをやってみたりして末席に連なるしかない。


「その話でザイルって聞いたんですけど何ですかね」


話の流れから、あれを起こした魔法使いというのは何となく見当がつくが。

僕は懐からなけなしの銅貨を数枚出して先輩のテーブルの上に置いてある飲み代の上に重ねた。

後輩の礼儀としてだ。情報量である。

やはり戦場の情報を多く手に入れなければこの先生きていけなさそうってのもあるが、誰でも知っているようなことを知らないのも生きにくいってものだ。

先輩は追加でエールを飲むと、酒に濡れた髭をなぞりながら酒場でバイトに説教するおっさん風に語り出した。


「魔法使いには派閥があんのよ派閥。苦労して開発した魔法を他人に真似られたらたまったもんじゃないから秘伝されてるわけ。俺も魔法使いじゃないから詳しく知らないけど魔方陣に細工をするんだとよ。ほらこの銅貨だって偽造防止に偉人の顔が押されているだろ。見栄えを良くするために芸術性を追求してな。絵画みたいに名前も刻まれてるって話だ。だから気を付けろよ味方でも魔法発動時に近づくと殺されるって話だ」


「ほぇ、勉強になります」


「そんで十天っていうのが全魔法使いの中で特に強い10人に与えられる称号だ。戦場に出てきたのはザイルの親戚だろうな」


魔法は秘匿されている。

興味深い話だ。派閥ごとに魔法が違うなんて。けどよくよく考えれば確かに海に面した港の魔法使いなら風とか水の魔法を、鉱山なら土とか火を扱う魔法を覚えるような特色が出るのも当然か。

環境にあったとか、それ相応の理由で系統にわかれている。


そうか、僕が魔法と言ったらそれは日本のゲームの知識がもとなのだ。レベルアップで自動で皆同じ魔法を覚えるそこらへんの間違った認識は早めに改めるべきかもしれない。


それで秘匿というのはどうも昔どっかの一族の魔法が外部に漏れたときは敵にも味方にも真似をされて、アドバンテージが無くなったらしい。それどころかいいところだけを取り出してそれぞれが自分の一族の魔法を改良した。結果その漏洩した一族は暫くして途絶えた。


厳重に漏洩を防ぎ、裏切りは許されず中には一子相伝や秘密守秘専用の契約魔法まであるとか。

昔見たテレビの歴史番組で確かシルクを作り出した中国は長い間その製法を独占していたとあった。歴史の授業のシルクロードってやつ。

地球でも異世界でもやはり同じのようなことがあるようだ。






僕は魔法を学ぼうとしたが、そもそも庶民は二つの意味で魔法使いになれなかったのだ。

魔力量が足りない。

魔法使い一族が魔法を外部に漏らしたくないから。


一応貴族の隠し子なら一族秘伝は無理でも情報漏洩して一般的に知れ渡っている魔法なら使えるようだが、派閥に入っている純血の魔法使いには魔力量の点でも秘伝の魔法という点でも劣る。戦場で魔法使い同士による戦になれば、秘伝魔法を覚えていない方は負けることは避けられない。


所謂秘伝魔法を覚えてない魔法使いは野良魔法使いと言われるとかなんとか。

ローゲル医師が治療に使っている魔法も、そういった炙れ者の情報交換コミュニティのや広く知れ渡った魔法のようだ。


更に魔法使いは触媒、つまりは杖とか指輪が必須らしい。もし万が一、そうそう起こり得なくてありえないだろうが敵の魔法使いに接近することができたらその触媒を抑えろとのこと。

勿論触媒は高価で多額の富が約束されている。魔法使い殺しを成し遂げた平民はある種の英雄譚になるようだ。


そうか、金銭的にも魔法は難しいのか。

僕だって某眼鏡少年とか某指輪を山に不法投棄しに行く老魔法使いみたいに小振りなのでもでかいのでもいいから杖を振ってみたかった。

本当に残念だ。


せめて魔法は覚えられなくとも魔法使いの顔と名前とどんな魔法を使うかは覚えてみてはどうかと先輩に言われた。

味方が火の魔法を使うのかとか、力量。特に公国のザイルは世界で10本の指に入るほど強いから、そいつが戦場にいるかどうか確認していたらすぐにその場を離れるとか、味方の魔法使いが優勢に事を運んでいても可笑しい、罠だと気付けるそこらへんの情報戦も大事なようだ。


中々勉強になる。一つ賢くなった。






聞く話も聞いたし仕事もあるので先輩に一礼すると外に出て以前のように森に稼ぎに行った。

しかし、魔法のある世界に来たのに魔法が使えない現実がこうも突き刺さると凹んだ。

エイッと火の玉とか出すの憧れていたのに。


久方ぶりの緊張感のある森林浴。愛も変わらずうっそうとしていて不気味さが漂う魔の森。

その異様な雰囲気はなるほど人外の化け物が済むのも納得である。特にここでは死にかけるほどの怪我をしたトラウマもある森であるが、生憎そうやすやすと稼ぎ場を変えられない。


北の戦場ほど冬が厳しくないのが救いか。

それでも寒いものは寒い。吹き付ける寒風で肌が割れる前に防風として森に入った。

森にも秋の終わりが訪れ、葉が枯れて地面にあちこち落ちている。


夏はウザったいほど草木が伸びるが冬はその繁茂が抑えられて見渡しが良い。良いがそれは薬草の成長も遅く採取が難しいことを同時に示している。

けれど夏に比べて買取価格は高い。難しい時期である。

特に寒いと体が鈍くなって積極的に森に来ようとするのは僕くらいの貧乏人だ。


「ないなあ薬草」


夏はそりゃあ草が生えまくる。農家が草刈りの依頼を冒険者ギルドに出すくらい。

草刈りが終わると草刈りが始まる。そんな格言めいたことが冒険者ギルドで流布されている程度には夏の草木の進撃は食い止められないが、冬はまったく伸びない。雑草も薬草も。

代わりと言っちゃ何だが冬は、雪かきが終わると雪かきが始まる。因みにこれも冬に冒険者ギルドに雪かきの依頼があるのだ。

結構な地獄だ。


ならモンスターを狩らないといけない。

因みに僕が相手する初心者エリアにいる主な二種類のモンスターの特徴はこちらだ。


ゴブリン

メリット 馬鹿、アホ、間抜け 倒しやすい

デメリット 売れるところが少なくて、一匹単価が低い


角兎

メリット 全身が売れる 食べれる

デメリット 逃げ足が速い


ゴブリンは小さいから簡単に倒せて徒党を組まれても数体くらいならなんとかいける。

討伐した証拠として耳を切り落とし、心臓部にある魔石という小さな石ころが売れる。魔石は魔力で動く電灯ならぬ魔灯で明かりをつけたり大きいのは魔法使いの杖につかえるらしい。ゴブリンの鼻くそみたいな魔石じゃあかなり安めだが。

一方角兎はそもそもの前提としてただの兎ですら走る速さで追いつけないから逃げに入られると倒すことができない。

こっちは重い剣と盾と鎧を装備しているんだ。もう少し手加減してほしいもんだ。


だからこれだ。僕は背中に似袋から宿屋でもらった野菜の残飯と紐を取り出す。

そして適当な細くて小さな木の先端に紐を括り付けてしならせて引っ張る。

そして程よい太さの枝を二本地面に打ち込んでいってその二つをつなげるように枝を結んで、小さな鉄棒のようなものを作る。

そのコの字が下向きに地面に刺さっている棒の前に棒を突き立て、木の先端に繋げた紐の先端を引っ張ると締まるよう輪っかに結んで小さな棒に巻いて鉄棒もどきに下からひっかけ、最後にその棒と鉄道もどきの前に打ち込んだ棒につっかえるように棒を設置した。

あとは適当に野菜くずを捨てる。

野菜を食べに来てつっかえ棒にひっかると作動するようになっている。


いわゆるくくり罠だ。

これはあの戦争の前の死体あさりで隻腕の彼が雑談のさなかで教えてくれたのだ。


「ひっかかってくださいねー」


期待するようについ、ポンポンと罠を叩いた。


――――ガッ‼

圧倒的間抜け。

自分が引っ掛かってどうする。

……まあこれはあれだから。これでちゃんと機能しているって証拠だし。


そうやって数か所に罠を仕掛けて回った。

一度やってみたら案外慣れるもので、2つ目からはサクッと終わる。丁度いい感じにしなる木の枝を探して仕掛けるのが難しいだけでシンプルな構造で習性もしやすく、値段も実質無料。僕にはぴったりだ。


薬草に関しては……うん、正直集まらなかった。罠を仕掛ける片手間探したが、やっぱ才能ないなあ落胆するよこんなんじゃ。

ゲームとかじゃあ序盤のクエストなのに。

狩りも坊主だし。そうだよな、寒いから角兎もゴブリンも家にこもってるよなあ。僕だってこもりたいし。


冬は予想以上に暗くなるのは早いし帰るか。露店の飯屋も閉じるのは早いし。

そう早めに決断して切り上げる。帰って温かいスープが飲みたい。


「……マジかよ」


そうして帰っていると、必然仕掛けた罠の場所を逆戻りするような道になるのだがその罠の一つに既に角兎が引っ掛かっていた。

ブランブランと木のてっぺんに繋がった紐に後ろ足が繋がって中吊り状態だ。

だがそれだけじゃない。

隣にゴブリンもいて、木を登って角兎に手を伸ばそうとしている。


「ちょ、待てこの野郎‼」


ゴブリンは兎に夢中でこっちに気付いていない。

だからそんな木登り中の無防備な足にロングソードを叩きつける。

子供のような細さのゴブリンの足はわずかな抵抗の感触だけで肉を切り裂いてなお威力衰えず骨すら切断して剣が木にめり込んだ。

決して洗練された剣筋でない。武器も日本刀のような切れ味じゃなくて、叩き切るような使用用途。

けれど背中を晒していかにも切ってくださいと言わんばかりの格好のチャンスの相手には、当たるのがさも当然のように吸い込まれるように直撃した。


いきなりの痛みと右足の脛から下を失い、足の踏ん張りを無くしたゴブリンが木から手を放して地面に落ちてくる。

当然そうなったらめった刺しだ。

貧相なゴブリンでも大抵いつもなら棍棒とか持っているのだが、木を登る為に無手だったゴブリンは禄に防げず、数度剣をふるえばあっけなくこと切れた。


「はぁはぁ、横取りの心配しないとなあ」


ゴブリンもそうだが、名前なんて書いてないというか書いていても冒険者もとっていきそうだ。

朝一に仕掛けを見に来るのは当然としてゴブリン対策に木の枝を払って登れないようにした。

他の罠は明日でいいか。


討伐証明のためにゴブリンの耳を切り落として胸を切開して心臓から魔石を取り出す。

ぐちゃっとしていて、生温かくて気持ち悪い。けど臓腑を目にしてもそこまで抵抗感がない。戦場で散々見たからだろうか。

それにしてもこのゴブリンという生き物、よくいるなあ。ゴキブリ並。生命力というか繁殖力が強い。劣悪の環境でも生き延びると聞いたし世界中あちこちにいる。戦場でもたまにやってきて人間の死体を貪り食っているらしい。この殺傷も世のため人のため。なーむー。


そしてメインディッシュの角兎だ。

つるされて未だに暴れている。

それでもモンスターだ。後ろ足の強力な一撃を持っている。それを食らえば重症、当たり所が悪ければ死ぬこともあるが、角兎の一番の脅威であるその名前の所以の角は下を向くばかりで脅威足らしめない。


適当にそこらへんの木を切って長めのY字の枝で木の幹に抑えつけ、サクッと首にロングソードを差し込む。

血が流れ出て痙攣……次第に動きが緩慢となって動かなくなる。


ゴブリンは記憶を取り戻す以前のルークが何度か戦ったこと経験があるが、角兎は今回初めてのことだったが意外と……あっさり手際よく行えた。


大きな個体……なのかな? 角兎は兎と比べて大きいから比較が難しい。

そんなのを仕留められたのだ。一人でも僕だってやればできる。その証明ができたことがこの上なくうれしい。


戦場に行って特に必殺技とか、体の底から湧き上がる力とか何も得られるものはなかったが知恵と度胸はついた。それに助けられた狩りだった。

続いて血抜きで血が出なくなったのを確認してから、首筋から持ち替えたダガーを入れて股まで内臓を傷つけないよう皮を切って注意して取り出す。

僕が下手なだけかもしれないが毛布を包丁で切っているみたいだ。余裕があったら今度から鋏を買って持ってきたいな。


あとは適当に四肢を棒に結んで担いで帰る。

こんなものだろう。


時間はすっかり遅くなってしまった。

夜の寒さに荷物の重さが肩に割増しで重さを主張して軋む。吐く息が真っ白だ。

寒いと左手の小指と薬指の切断面がずきずき痛み出す。

ああ、しんどい。けど楽しい。収穫は嬉しい。

久しぶりに自分を素直に褒めれるような良い狩りだった。

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