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Dragoon Bandit  作者: ぺちっとぶん投げる
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戦場の魔法使い


地面に倒れた仲間に手を貸してやって起き上らせると、押し倒された拍子に頭を打ったのか血が出ている。頭部の怪我は血が見や目より出やすい。本人は見た目より浅いから大丈夫だと何でもないように言う。

だから僕は倒した敵兵からアイアンヘッドを奪って彼の頭にかぶせた。

多少の凹みと汚れのペイントは量産品を唯一無二に押し上げる戦場が生み出す芸術だ。一番つらい役目を背負ってくれた彼にあげるのは惜しくなかった。彼は皮鎧を既に装備しているが、時間が出来て死体から剥ぎ取る時は彼には鎧も進呈しよう。

もう一人の仲間は自身の剣を阻んでいた盾を死体から奪って、にやりと笑うと先輩連中の方に助けに入る。

必然、僕は相手のロングソードを貰った。

ガードが剣先側に緩いカーブを描き、柄頭は丸く膨らんでいる。扱いが楽で頑丈、安定の量産品だ。


一息つけば鎧を脱がす時間もあるかもしれない。けどちんたらしていられない。先輩の方は僕たち三人が抜けて劣勢のはずだからだ。


仲間二人と駆けつけると数の上では拮抗以上、敵の小隊より人数が優っているがこんなぐちゃぐちゃした戦場だ。敵味方入りみなだれてすぐに敵も補充される。早くしないと優勢な流れが切れてしまう。

僕は敢えて二人を先に行かせて、注意を向けさせ隊の中で一番苦戦している仲間の援護に着く。

その仲間は片腕から血を流して武器の握りが甘くなっている。その負傷で足を引っ張っているのか手練れのグレン先輩が隣についてカバーしながら敵二人と切り結んでいる。ここで一人の欠員は重い。


僕が加わると先輩は焦っていた顔から持ち直して正面の敵に当たる。

僕はというと怪我人でも一人は一人だ。二対一なら十分勝機がある。

じわじわと敵に詰め寄っていくとしかし僕はそこで反転。先輩と切り結んでいた装備の格好からして相手の小隊長だろうか。グレン先輩に正面からプレッシャーをかけられて前面に注意が向いていたそいつを横から装甲が薄い脇下を手にしたばかりのロングソードで切り付け、とんぼ返りで負傷している仲間の元に戻る。

仲間は押し込まれていたが僕がすぐに戻って体制を取り戻してまだ余裕の面持を見せている。


形こそ二対一と一対一がすぐ近くで起きているが、人数に勝るこっちが別に相手を自由に変えたって戦争だ、文句は言われない筈。

このまま二対一で攻めていってもいいが相方は怪我で動きが鈍っている。

それに初心者の僕だ。決め手に欠けているが狙いは違う。


怪我人の相棒に負担をかけられに僕は、大声を上げて前に。敵のヘイトを集めて、攻撃を受ける。

盾を叩くは両に均等の大きさの刃を携えた小振りのバトルアクス。

両方に刃がついている斧の特徴。それは見てもわかる両刃剣のように盾で受け流して通過した斧が往復するように速やかに次の攻撃ができることだ。


一撃目を受け、悲鳴を途端に壊れかけていた盾が悲鳴を上げる。破片を飛び散り、散弾のように小さな金属片が服に穴を空ける。盾の上からは骨を打つような鈍痛が遅い、疲労と痛みでガードが下がる。それを必死になって上げる。

腕と盾。果たしてどっちが持つのか。結果は2回3回と受けると盾の応急処置の布は見る影もなくなり、内側にひしゃげあと何回も受けられないことを如実に盾が語る。


だがこれは大いなる時間稼ぎだった。

敵の小隊長を切り付けたあれがどうなったのか。効果はすぐにわかった。

くぐもった悲鳴が聞こえて敵の小隊員が


「何だと‼ 小隊長がやられた!」


という声を上げたのと同時に真新しい血に濡れた槍を持ったこちらの小隊長であるグレン先輩が僕たちに加わって、斧を持つ指ごと切り払い相手の鼻の奥まで槍を突き込んだ。どうやら予想道理小さな横槍で相手の小隊長と勝敗が決定的になったようだ。

そこからは完全に拮抗が崩壊して、敵の小隊は打ち取られた。


「ルーク今のはなかなか良かったぞ‼ 次からはもっと早くやれ!」


先輩は僕に発破をかけ、今なお敵の小隊長の死体が力強く握るその手を踏みつけて装飾が施された大型剣のクレイモアをもぎ取って腰のベルトに留めた。

重さ、重心位置、大きさが良く、高く売れそうだと喜色を隠そうともしない。

そして作りのしっかりしたカイトシールドを僕にぶん投げてきた。

どうやら敵の小隊長の使っていた盾は僕にくれるらしい。

それを受け取ると今使っている壊れかけのヒーターシールドを敵の方に向けてぶん投げた。


戦争中に不謹慎だがこれで何とか僕は一端の冒険者としての装備を手に入れられた。なんとも幸運なことか。

貧乏冒険者時代は武器一本すらまともに買えなかったのに、まるでここは男の子のロマンを詰め込んだ宝物庫。こんな簡単に手に入れられていいのかと思ったが、ここは戦場。冒険者時代とは比べ物にならないほど危険があちらこちらに散りばめられている。



次の敵を探すと僕たちの前後の友軍の小隊が目に入った。そちらはまだ決着がつかず一方は押され気味だ。

けれどもう一方の小隊も助けをほしがっているように見える。


「副隊長、二人連れてあっちに向かえ‼ 残りは俺についてこい‼」


隊を二分するのか。

副隊長は戦争経験済みの隊員と、そこで思案したが僕を指さした。

どうやらご指名のようだ。


グレン先輩たちが劣勢の仲間に援護に行くのを尻目に僕たちは拮抗している仲間の小隊に駆け込んで加勢する。

きっと新入りの僕には特にこれと言って期待はされていない。何かの功績を上げれるとかは僕自身思っていない。

僕に期待されているのはただ数字上の数の1。質でなく量、人員として頭数の一人だ。けどそれで戦場では拮抗が崩れて勝てる。


隣の仲間の小隊の戦線に加わると、それを認識した相手の方で覚悟を決めたような怒声が響いて一段と猛烈に打ち込んできた。

ここで数的劣勢を覆さないと負けると悟ったのだろう。

僕はそんな敵の小隊を見て、そして気弱そうな敵に目を付けた。

普段なら人を見た目で判断するのは悪いことかもしれないが戦場なら観察眼がいいで済ませれる。この人なら勝てると確信したからだ。一対一じゃなく二対一ではあるが。


だが戦場何が起きるかわからない。

慎重にそして狡猾に相手を毒す声を出した。


「へっへっへ、もう援軍が加わって君たちには勝ち目がないぞ。今逃げるなら追わないでやる」


効果はてきめんだった。自身のなさそうなその敵は目を見開いて戦いの手が止まった。そして答えを求めるように左右を見渡すと他の敵兵からも咎める声がかかる。


「敵の言葉に惑わされるな‼」


「お前逃げるだなんて許され――――ぐわぁ‼」


敵兵の中から僕の発言を打ち消すような声が飛んできたが、その隙を突かれて咎めようとした敵を黙らせるように顎が横から砕け内側の頬肉が開いて外に晒され白い欠片が散らばる。


そしてそれを目撃した敵に激震が走った。

もう完全に巻き返すのは無理だと理解したのだろう。何とも早い判断だ。そうするよう誘導したのはほかでもない僕だが。

まさかこうもうまく事が運ぶとは思わなかった。


逃げ遅れてなるものかと我先にと相手の小隊は遁走し、「お、追いかけないって―――ぐわあっ‼」仲間の小隊はそんな無防備な背中を追いかけていった。

残された副隊長ともう一人の仲間だけが呆気ない手ごたえを前に、苦笑した感じで黙って僕を見ているのが何とも耐えられなかった。



先輩のところに戻ったところ、どうやらあちらも勝負がついたようで結果前後の小隊も合わせて戦線を押す戦果をあげられた。

といっても所詮は何千か何万も戦っている戦場の僅かな小隊が少し戦線を押し上げただけだ。

けれど流れというのか勢いというのか、初めての戦場でわからないがにわか目にも来ていると思える。


先ほどの勝利を挙げた仲間の小隊も、更に戦果を挙げるべく勢いづいて押し込んでいる。

僕は先輩がまた押されている仲間の援護か、自分たちも切り込むのか判断を仰ぐために指揮下に戻ったわけだが、先輩の下した命令はおかしなものだった。


焦燥顔で下がるぞ‼ そう宣言したのだ。


その言葉に僕は思案顔になる。全体はわからないけど局所的には勝利だから先輩の性格的に僕も前後の小隊と一緒に押し込むもんだとばかり思っていた。


見ると僕が……いや別にここでの優勢は僕だけじゃない友軍みんなで作ったのだが、その勢いの先端で敵を切り崩すように先駆けをしているのはあのガイアだった。


剣を振るうごとに敵が一人以上死ぬような暴力の化身。

グレン先輩が倒した敵小隊隊長と劣らぬ技量と装備をしている相手にも一歩も引かず、寧ろ押していき、踏み込んでショルダーアタック。それで鼻を中心とした顔が潰れた相手に「これで美形になったな‼」ここまで聞こえる声量であざ笑い、怯んだところを盾の上から体を真っ二つ。

上半身は内臓を溢しながら転がって行き、下半身は死んだことに遅れながら今気づいたように倒れる。

それを見た仲間たちは歓声を上げ、敵は信じられない物を見たように浮足立つ。

勝利の雄叫びを挙げたガイアは豪快に敵の小隊長相手に快勝を決めていた。


間違いなくここらで一番の手柄と言い切れるくらいの活躍をしている。やっぱりガイアは凄いなと思い知らされるのと同時に僕も負けてられないと奮起する。

ここは攻め時だろう。

それなのに何故先輩はこんなにあせっているのか。


「ここで攻めないだなんてどうかしてるぜ! 俺はさっきの小隊の補充として行ってくる!」


「馬鹿‼ よせ‼」


やはりそうだ。ガイアの活躍の熱気に当てられ我慢できなかった隊員の一人がそう言って駆けていった。先輩は阻止しようとするがそれを振りほどいて行ってしまう。

掴みそこなった手で虚空を握りしめ、怒りと苦しみでプルプル震えている。


「何でローズ王国が何年も公国に勝てないと思っているんだ‼」



そうして先輩は目立ちすぎたと舌打ちして後方に下がって伏せた。

僕は何が何だか理解できていなかったが、他のベテランそうな小隊員も先輩に従って伏せたので僕も習って伏せる。良く見ると僕たち以外にもちらほら下がってきている古参風の小隊がいて―――


―――――ビュッ‼


という風切り音。弓矢だなんて目じゃない。そんなものをぶっちぎって目視出来ない速度で何かが飛来して。


「魔法使いだ‼」


それは仲間の悲鳴かはたまた断末魔か。

どっちだとしてもその声は魔法の礫にかき消されることとなった。空間そのものを食らい尽くすような破壊の権化たる血塗られた叡智の暴虐。

何も知らなければ綺麗なシャワーとでも言っていただろうか。

盾に鎧に、中身の人間も、そんなものは関係ねえと魔法はそれごと無常に貫通する。

人を二人貫いてなお盛り上げた土嚢に埋まって漸く沈黙した、飛来する触れたら死をもたらす飛沫。

此方に逃げようとしていた仲間が目の前で消し飛んで脳漿が隠れていた僕たちに容赦なく浴びせられ、手には神経が繋がっている眼球がひっかかった。

まさに地獄を煮詰めて鋳型にはめ込まれたような光景。


遠くでは親子で戦場に来たのだろうか、よく顔立ちが似た男が倒れた男を引きずっていたそこに魔法が着弾する。

衝撃と粉塵が治まったそこにはひきずられていた男は胸元から下が千切れ内臓が外にさらされた。その内臓は地面に落ちてなお脈動をしばらく続け、呆然とそれを見ていたもう一人の男は回避行動も忘れてそれを見入ってより更なる悲惨な汚物として大地にこびりついた。


とてもこの世の光景とは思えない悲惨な世界が眼前に広がっていた。


音と衝撃が世界を不安げに揺らし、もうね思わず隣で僕の頭を押さえつけているグレン先輩に抱き付いてしまったよ。

その間何もできなかった。ただただ台風が過ぎ去るのを待つように身を伏せ、黙って待つ。

巻き上げられた土くれが顔にこびり付き、呼吸も難しくなる。息することすら怖い。


そしてそれはどれほど続いただろうか。


音がやんで恐る恐る顔を上げるとそこには死屍累々、死体がつみあがっていた。

窪みに流れ集まった血だまりがごぼごぼとマグマのように煮え、千切れた手足からは脂肪が焼ける匂いが漂う。

目の前では盾が赤熱して溶けた液体状の鉄が顔にかかった死体がデスマスクのように苦痛の極まった顔で死んでいる。

地獄だった。あんなに頑張ったというのに全て崩壊した。

敵も味方もない。押し込んでいた戦線は跡形もなく消し飛んでいる。


そしてその中で顔が内側に陥没した身の丈ほどの剣を握っている一際目立つ死体が見えた。

大柄で他と違って高そうな装備をしているから気づいた。

間違いないガイアだ。陥没が影ができるほど深くて見えない、もはや後ろまで貫通していてもおかしくないくらいに顔面が崩れているが、先ほどまで穴が空くほど彼を見ていた僕の勘が絶対彼だと告げている。


そんな、そんなまさか。あれほどの人間がこうもあっさり死ぬだなんて。こんなところで死ぬ人間じゃない筈なのに。確かに僕はあいつのことは良く思っていなかったが心のどこかで憧れていた。素直には認められなかったが僕の理想とする男だ。まるでヒーローのように目標にしていたのだ。

それがこうも簡単に死ぬなんて。

僕は……僕自身が死ぬ想像は簡単にできる。雑魚だから何度も危険な目にあったからだ。そう、自分が死ぬイメージはできてもあの偉丈夫のガイアが死ぬ想像なんてできなかったのだ。


あの制止を振り切って突っ込んでいた同じ小隊メンバーに至っては目立つ装備もしていないから死体がどれかすらわからないくらいだ。

あの一瞬の出来事で偉い奴も自分と同じような下っ端も、有能無能関係なくこの地で倒れ伏した。

これが、これが戦争だというのか。


更にその血煙を上げる奥に、絶望を上塗りするかの光景、ドタドタドタと開いたそこに殺到する敵の後詰めが見えた。

落ち着く暇もない。


「あれは十天のザイルの本人じゃねえ……系譜でこれだけの威力か畜生。いいかルーク、凡人で戦場を生き残るのは強い奴じゃない。負け戦が上手い奴だ」


そう呟いた先輩は我先に後方へ走って行った。

ベテランの先輩は知っていたのだ。魔法使いと比べればあのガイアですら凡人だということに。

僕はなるほど、生き残るための凡人の戦場はこうなのかとその空気を初めて知った。

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