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Dragoon Bandit  作者: ぺちっとぶん投げる
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初めての戦争

「どうだったか?」


「たくさんの人の話を聞けましたし収穫はありました」


僕は手に入れた短剣と折れた槍の柄を死人から剥いだ服の袖で縛って応急処置の短槍を作った。それにひびの入ったヒーターシールドをひもで縛って補強したのも手に入れられた。

これで少しは見られる格好になったのではないだろうか。


僕はそれを先輩に見せると、先輩はうなずきながら武器の具合を確かめた。


「卵は意外と握りつぶすのに力がいるが、何かの角にぶつけて罅が入ったら途端に脆くなる。補強しても一度壊れた装備はあまりあてにはするなよ」


これだ、これ。先輩の知識。馬鹿の僕にはわかりやすく教えてくれるし、あの死体置き場に行くよう言ったのも先輩だ。全てを見越しているみたいな言い方だ。

がたつきがあるが、何もないよりかはましだ。これで何とか戦争初期の人当たりを生き延びれば、商品価値が低いとうち捨てられた残り物でなく、完成品が手に入れることができる。


「何かここら辺は毒蛇が出るから夜寝るときは気を付けろって。結構興味深い地元民ならではの対策を教えてもらいました。僕にはできなさそうだけど。あそこの彼、ここらへん出身らしくて詳しかったです」


「そうか。じゃあ今日は早めに寝るぞ。明日から本格的に戦争だ」


「はい」


僕は先輩に連れられて冒険者用に開放されている寝所に向かった。

寝る場所も大事みたいで、いざというときに素早く動ける場所取りが大事だと先輩から聞いた。なるほどと僕は脳内メモに記していく。

さっきのジャンク漁りも早く来ないと状態のいいのは他の人に持っていかれてできなかったのだ。勉強だ。



そこでふと気になったことがあって聞く。


「先輩って何か目的あるんですか? 彼は戦争でお金がたまったら腕を治したいって。僕もこれですね。神聖国? で治せれるみたいな噂があるって」


そう言って胸元から出したのは貝殻のペンダントだ。中には僕の切断された指が入っている。迂闊なことをした自分への戒めのためと、もしかしたら魔法がある世界だから何か起きるんじゃないかと思って念のために持っているのだ。



「それ、指が入ってたのか。神聖国が欠損回復できたなんて建国した700年前のカビの生えた伝説だぞ? それにエルフが……ほらあいつらって1000年以上ざらに生きるから当時のこと知ってて鼻で笑って否定してんだぜ……って、ここらへん聖職者いないよな……。あぶねえ、危うく怒られるとこだった。とにかく諦めとけ、エリクサーしか方法がないけど一等地に城が立つくらいの値段だからな」


そう言って先輩は篝火に近づいて行った。

俺はこれよ、と煙草に火をつけて酒をかっくらっう。飲み代煙草代みたいだ。

最近寒くてますます煙草と酒が美味しくて困っていると語った。彼が幸せそうで何よりだ。


それにしてもがっくりだ。指を治すのはほとんど絶望的。彼から聞いた時は飛び跳ねて喜んだが、先輩が言うのなら間違いないのだろう。

あんまり詳しく分からないけど物知りな先輩がかいつまんで説明するんなら回復魔法は自然治癒力促進と言った。つまり腕とか切断してもにょきにょき生えてくる蟹みたいな体質でもないと意味がないらしい。

うん、確かにそんな人がいたらもっと根本的な治療が必要だろう。

というか人じゃねえ。


僕はその日先輩にお酌をしながら戦場の心得を聞いていたら夜が暮れていった。






その日は激戦による激戦。今まで温めに温められた戦場がここにきて苛烈に鮮烈に燃え上がった。

地面は血と汚泥で彩られ、中身をぶちまけた敵と味方の死体が埋め尽くすように転がっている。だというのにそんなものに目を向けていられない。前を向いて進まないと後ろに続く仲間に踏みつけられて敵と相対する前に圧死する情けない人生の幕の下ろし方になる。


足場の踏み場がなく仲間の死体って踏んでいいんですか? という質問も余裕のなさと皆やっているからという現実の答え合わせで僕も既に躊躇もなかった。虚空を苦悶の表情を浮かべながら眺める骸を踏みにじるように大地と共に蹴り、敵兵の裂帛と戦場の空気にのまれた僕は必死に足を棒にして仲間とはぐれないようついて行く。


敵が前方から来ている。下なんて見ている暇はないが、足元がお留守で血と脂肪で転ぶのは避けなければならない。なんとも無理難題をいくつも押し付けてくる戦場だと悩みと息を咽る血の匂いと共に飲み込んだ。


もう相手はすぐそこだ。顔が手に取るようにはっきりわかるくらい。

敵も連日の戦闘で消耗が見え顔色が土色に悪く、中には僕のように日が浅いのかおどおどしている人がいる。

そんな奴を付け入る隙だと小隊長であるグレン先輩は狙った。一人では到底処理しきれないピカピカで新品の鉄器の着荷。集団で囲んで大勢で刺し、殴り、僕も足を槍で突き、とどめに誰だったか、見る余裕はなかった。首に剣先をねじ込まれてその人は蟹のように口から赤いあぶくを出しながらもがき死んだ。


そうか、おどおどしていたら敵から弱いと思われて狙われるのか。彼のように。

僕は敵を脅かすのではなく自分自身を鼓舞するように勇んだ。表面だけでいい。面の皮一枚下では今にも泣きそうなくらい怯えているが、戦う男の顔を仮面のように顔面に貼り付けた。これが兜がない貧乏人の頭部を守る装甲だ。


初めて人を殺めてしまった罪悪感と向かい合って心の整理する時間も死者への哀悼を消費する時間もここにはない。無常理に次の敵へ羅針盤の針路を向けるように切っ先を突きつける。


次は先ほどの男のようなひ弱そうでない、全身がっしりした鉄装備を着込んだ対照的な男だ。頭部には鈍く光を反射するとんがり鉄兜、胴は藍色のチェーンメイル。握りしめるは血の付いた、つまりは既に一人は殺している剣と盾を握っている。


その顔には仲間を殺されて戦意が漲っている、漲っているが空回りなのだろう。まるで自分が圧倒的有利であることを疑わないその顔は復讐と活躍を同時に羨望しているようだがそれならしっかり仲間と徒党を組むべきだった。

一人孤立気味で興奮で周囲が見えていない。それに気づいて敵の小隊仲間だろうか駆けつけようとしているが、体で入って分断するようにその間にグレン先輩と他経験積みの隊員が割り込む。


言わずともわかる。これは僕たちで倒すのだ。

僕は左を見て、右を見て仲間がいるのを確認すると、無言で頷いた。

3人で仕留めるんだと短槍を痛いくらい握りしめた。緊張と覚悟で武器を自分が強く握りしめているのがわかった。終わったら、指が解けなそうなくらい。


じりじり近づいていくと勇猛果敢な馬鹿な敵は自分から囲みに突っ込んできた。

狙われたのは僕の右のやつだった。勢いよくロングソードを振って押し込まれ、体ごとぶつかられた仲間は途端に体勢を崩して地面に押し倒される。

鎧の重さも加算された力強い一撃。

全身が鉄で覆われているからこそできる敵兵の思い切りの良さの性格が表れる突撃だった。

それに見るからに僕の貧弱な武器じゃ鉄の鎧を抜けない。それを見越して恐怖を感じず相手は攻められたのか。


だから僕がとった行動は相手の膝を横から蹴るだ。砕くような威力はないが、体重が乗ったそれで構造上弱い部分を狙われた相手は片膝をつく。


そしてもう一人の仲間の剣が殺到するように何度も切り付けた。相手は盾で必死にいなすも仲間が数撃てば当たるといわんばかりにさらに攻め、二度三度の突きと斬撃で偶然だったが遂にそれた先に鎧の上から無防備の横っ腹を捉えた。けれど浅い。

盾で反らしたのが偶然当たったわけで威力が落ちていたのだ。斬撃は鎧を貫通は出来ず、打ち付けた衝撃が打撃として伝わっただけだ。


だがそれで相手が痛みでうめいて隙が生まれたのは事実だ。

―――――ここだ‼ ここしかない。

僕の槍で放った突きが痛みに思わず天を仰いで呻いた敵兵の無防備な喉奥に刺さる。

喉の柔らかい皮を突き破り、そこから侵入して頭部に含まれている内臓物を掻きまわした一生忘れられそうにない手ごたえ。

更に下に倒れていた仲間が点の攻撃、鎧を貫通して剣先が腹に突きこまれれば、敵は血を勢いよく吹き出しながら小さくぶるるぶるると痙攣して敵兵はこと切れた。


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