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8. 氷室 武編③


 そこは、手術室のような部屋だ。しかし、普通の手術室の白いイメージとは異なり、背景には物騒な機械達が並び、部屋も薄暗い感じである。

 急に部屋の中央に明かりが照らされ、ベッドに仰向けになっている氷室が見えた。

 陰からオルミも姿を見せ、氷室に対して問う。


「私でも生身の身体を機械化なんてやったことがありません。それに、武様が元の世界に戻った時に一体どうなるのかすら見当もつきません。それでも、決意は変わりませんか?」


 俺の身体を兵器に変えてくれと氷室に言われたその日から、生身の身体の機械化のことを考えていた。自信はあるが、必ず成功するという保証はない。生身の人間を機械へ改造するのだから、命の危険だってある。


「ああ、スパッとやってくれや」


 軽く答える氷室にオルミは、本当にこの人は事の重大さが分かっているのかと若干の心配をするが、氷室の機械化の準備を始める。


「本当に、オッケーですか?」


 オルミは、最後の確認をする。


「くどいな、いいと言うてるやろ」


「……それでは、麻酔をかけますのでしばらくの間、おやすみなさい」


 オルミは氷室に麻酔薬を投与し、氷室は眠りについた。


 それから、数週間後だ。

 身体の機械化を無事に終えた氷室は、休息を取る為にオルミの部屋のソファの上で暇そうに寝転がっていた。


「身体の具合はどうですか?」


 デスクに座るオルミに問いかけられ、氷室は自分の右手をグー、パーと繰り返してみる。


「何の違和感もないわ、見た目も変わらんし、元の身体のままじゃないかって心配になるくらいにな」


「心配しなくても、その皮膚の下は機械になっていますよ」


 オルミはそう言うと、モニターに氷室の身体の中を写し出した。


「まずは、武様の身体についてですが、当然強固な身体になっています。大きな衝撃を受けても、びくともしないでしょう。あと、無理な動きもある程度出来るよう痛覚はなくしていますが、他の感覚は今まで通りにしています」


「ほお、そんなこと一体どうやってるんや?」


「ふむ、それは武様に説明してもきっと理解はできないと思いますよ?」


「それもそうやな。で、身体の強度をあげただけとは言わんよな?」


「ええ。と言っても、取り付けたオプショナルパーツはまだ一つだけです。モニターを見て下さい、手のひらに小さな装置が取り付けられているのが見えると思います」


 氷室は、モニターの方へ目を向ける。


「ああ、見えるな」


「それは、生成装置です。説明をするより実際に使ってみるのが分かりやすいと思いますので、そうですね、まずは刃物でもイメージしてみて下さい」


 氷室は、オルミの言う通りに刃物をイメージする。すると、手のひらが薄っすらと光り始め、次の瞬間にイメージした通りのナイフが手のひらに出現した。


「おお!?」


 氷室は驚き、間抜けな声をあげる。


「凄いでしょう、これは武様のイメージしたものを作りだす装置なんですよ、小柄なものから大きいものまで何でも作れますよ!」


 オルミは得意気に言う。


「ただ、大きい物は生成するまで少し時間がかかったり、動物とか生物は作れませんけど」


 得意気だったオルミは一転して、ガックリと肩を落とした。


「……いや、この力があればひとまずは十分や。オルミ、ラズールに連絡出来るか?」


「出来ますが、一体何をするつもりなんです?」


「ドワーフ達を集める。あいつらに言いたいことがあってな」


「では、私もついていきます。まだその身体に慣れていないところもあるでしょうし」


「いや、お前はここに残っとけ。出来るだけドワーフ達のヘイトは俺に集めておきたい」


「ヘイト?」


 オルミは首を傾げるが、氷室はその意味を答えるつもりはないようだ。


「まあ、楽しみにしとけ」


 氷室は、にやにやと笑う。


 その後氷室は、通信機でラズールにドワーフ達をある場所へ集まるよう頼む。そのある場所とは、最初に氷室が演説をしたあの部屋だ。

 ラズールからドワーフを集めれるだけ集めたと聞き、氷室はその場所へと向かった。

 部屋に入る為に、氷室は巨大な扉を開ける。すると、部屋にいたドワーフから一斉に敵視を向けられた。

 初めてこの部屋に入った時に向けられた視線とは真逆で、ドワーフ達の顔からは嫌悪感が見て取れる。ラズールには無茶な頼みをしたと思っていたが、よく集めたものだと氷室は感心した。

 

 ――それにしても、こいつら良い表情ができるやないか。


 演壇に立った氷室が、真っ先に思ったことはそれだ。ドワーフ達の敵意むきだしな表情、それが見たかった。


「俺が嫌いか? 俺もお前らのことが大ッ嫌いや! その場に留まろうとし、先に行こうとする奴の足を引きづって邪魔をするお前らのことが嫌いや! ジメジメと陰湿でかび臭いジジイ共、黙ってろや。お前らの喋ること成すこと全てが邪魔やねん。何もせず、黙って見ておっ死ね。能無しのお前らでもそれくらいなら出来るやろ?」


 氷室が言い終わると同時に、ドワーフ達からの罵倒と怒号が飛んでくる。


「俺の言ったことが気に入らないなら……あー、日時考えてなかったな。まあ、明日でええか。明日の朝九時に都市の外に人数と武器を用意して来いや、喧嘩をしようや。俺が勝ったら、さっき言った通り俺らが何をしようが黙って見てろ、お前らが勝ったら俺を煮るなり焼くなり好きにせえや、以上」


 氷室はそう言うと、演壇から降り、部屋の出口を目指す。ずっと止まない怒号と罵倒を背に氷室は部屋から出ると、部屋の外で怒った表情のオルミが待っていた。


「残っていろと言ったはずやが?」


「……何故あんな事を言ったんですか!? 何故、ドワーフ達と戦うんですか!? 私はドワーフ達と戦う為に武様の身体を機械に変えた訳じゃないです!!」


 氷室の言葉を無視し、オルミは取り乱した様子で問う。


「頑固な奴は口で言っても曲げん奴ばかりや、ドワーフはその典型。そんな奴らに自分の意見押し付けようっていうなら捻じ伏せるしかない」


「力づくでも、押し通したいものって一体何ですか?」


「それは、お前があのジジイ共に白い目で見られんようにすることや。お前は優しいからな、それはこの都市全体を見てて分かるんや。誰もが住みやすい環境を作ろうと努力しているのがな。あの時、ここで俺が馬鹿言った時に、お前が賞賛して俺についてきたのは俺の身を案じてのことやったんやろ? ドワーフ達の前であんなことを言ったとなると、誰も味方にならないと踏んでな」


「……そんなこと。私だって、元々厄介者扱いですから」

 

「ああ、ラズールからお前のことは大体聞いとる」


 氷室は、オルミの頭をクシャクシャする。


「そんな性格じゃあ、あのジジイ共のことを邪魔とは言え―ーいや、お前は邪魔とすら思ってないかもしれへんな、だがアイツら間違いないくお前の足枷になっとる。余計なお世話と思うかもしれんが、今は俺のやり方に付き合ってくれんか」


「……武様が負けたら、どうなるんですか」


「アホか、俺が負けるか」


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