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7. 氷室 武編②

 

 モニターで埋め尽くされたデスクで、オルミは糖分補給用の飴を舐めながらカチカチとキーボードを叩いていた。

 氷室はというと、ソファに寝そべってくつろいでいる。


「いやー、武様の演説の反響は凄いですよ!」


「悪い方に、やがな」


 ここ数日、オルミの部屋に籠っているが、時々買い出しなどで外出する際に、途中で出会うドワーフ達に冷たい目で見られる。まあ、あんな連中にどう思われようが構わないが、気になったのは、オルミにもその視線は向けられていた気もした。それは、自分とつるんでしまったからだろうか。だとしたら、悪い事をしている気もする。

 そんな考え事をしていると、オルミがA3用紙程の紙をこちらへ差し出してきた。


「まーそんなことより、これ武様用に作っている武器の設計図です。とてもクールじゃないですか?」


 氷室は、設計図に目を通してみるが。


「さっぱり分からんわ」


 氷室がそう返事すると、オルミはそうですか、と少し寂しそうに設計図を取り下げた。氷室はちょっと悪いと思ったが、理解出来ないのだから仕方がない。何か質問でもしてやろうとは思ったが、どこが分からないか分からないといった状態だ。

 その会話からしばらく沈黙が続き、オルミのキーボードを叩く音だけが聞こえていた。そんな沈黙を先に破ったのはオルミの方だった。


「そういえば、武様は何故そこまで勝利に固執をしているんでしょう」


「……気に入らん奴をぶっ潰したい、そんだけや」


「その気に入らない奴って、誰なんです?」


「葛西雅人って奴でな。ムカつくねん、ソイツの真っすぐな目とか色々な。正々堂々と戦いたいなら審判がついてる格闘技でもやれっちゅう話やん。なんでわざわざアウトローな不良の喧嘩に首を突っ込んでくんねん邪魔くさい」

 

「おお、よくそんなにペラペラと言葉が出てきますね」


「そりゃ、自分の遊び場荒らされたら誰だって怒るやろ。あいつにはそんくらいムカついとる!」


「なるほど、じゃあ絶対そいつには勝たなきゃいけませんね!」


「ダァホ、当然じゃ」


 コン、コン。


 すると、扉をノックする音が聞こえてきて、オルミはそれに対してどうぞーと答える。

 失礼しますと言いながら、部屋に入ってきたのは若いドワーフだ。若いというには似合わない髭を生やしているが、まだ幼さが残っている顔立ちをしている。

 その若いドワーフは、氷室を見るなり気まずそうにした。


「構わないですよ、続けて」


 オルミがそう言うと、若いドワーフは頷き、大量の書類を見せる。


「書類にサインをもらいに来ました。あと、この計画書の確認もお願いします」


 氷室はそれを見て、ふぅと溜め息をついてソファから身体を起こし立ち上がった。


「どこか出かけるんですか?」


 オルミが氷室に尋ねる。


「おう、俺はどうやら邪魔者のようやし、散歩にでも行ってくるわ」


「一人で外を出歩くことはオススメしませんが」


「アホ言え、こんな凄え都市を歩くな言うほうが無理やろ」


「……分かりました。行ってらっしゃいませ!」


 オルミは笑ってそう言い、氷室は部屋を出た。


 外を出て、氷室は見慣れない建物などを観光感覚で見て回る。しかし、外をこうも歩き辛いとストレスが溜まって仕方がない。歩けど歩けどドワーフ達からの視線が突き刺さり、鬱陶しい。

 そう思っていると、ドワーフの集団が氷室の前に立ちはだかった。


「なんじゃ、お前ら」


「出ていけ疫病神共! もうこれ以上ワシらの生活を無茶苦茶にせんでくれ!」


 ドワーフ達の一人がいきなり力強く氷室の服を掴みかかり、懇願をするように叫んだ。

 氷室は厭わしくドワーフ達を振り払おうとすると。

 

「やめないか!」


 と、怒号が飛んでくる。全員が目線をそちらに向けると、ドワーフの長であるラズールが立っていた。

 

「ちょ、長老……」


「どうか、落ち着いてくれんか。武様もすみませんな、祭りが近づいて気が立っておるのじゃ」


 ラズールがそう言うと、ドワーフ達はお互いの顔を見合わせた後、渋々といった感じでどこかへ去って行く。


「俺をつけていたんか」


 ラズールの助けに割って入るタイミングが良すぎることから氷室はそう推測し、ラズールは隠す様子もなく素直に頷いた。


「すみませんな、心配だったもので」


「まあ、結果的には助かったわ。ありがとな」


「いえいえ。しかし、申し訳ないがあまり外を出歩くこと控えて頂けますかな?」


「……窮屈でしゃあないが、元はと言えば、俺が勝手に敵を作ってしまった訳やしな」


「すみませんな」


 ラズールは氷室へ深々と頭を下げた。


「ただ、一つ聞いてええか?」


「何でしょう?」


「オルミ、アイツは何者なんじゃ? ただの頭の良いドワーフとはちゃうやろ」


 それは、ここ数日で氷室の中でオルミ対して抱いていた疑問だった。周りのドワーフ達とは違う、オルミは何か浮いた存在に思えたのだ。周りより幼さがあるにも関わらず、ラズールとは違うリーダー的な一面があったり、それなのにどこか恐れられている。そんな、あべこべな位置にオルミはいる気がした。


「…………実は、あの子は前回の祭りの我々の戦果でしてな。祭りに勝利したその日に、あの子はドワーフの村に現れた」


 ラズールは周りを見渡し、語り出す。


「この都市を考え、そして造ったのは誰でもない、あの子なんです。そこで歩いているロボットも、そこら中で動いている乗り物も、この巨大な建築物達も全て、あの子が考えた。あの子のお陰で、我々が何一つ不自由ない生活を送れているのは事実なんです。実際にドワーフの若い子達はあの子のことを支持し、都市建設に協力をしております。しかし、急激な変化を恐れている者はあの子を恨んでおる」


「さっきのジジイ共みたいな感じか」


 ラズールは頷く。


「きっとあの子ことを、得体の知れない怪物のように見えているのでしょう。姿はドワーフですが、神様の子のようなものだ」


「……どうやったら、オルミのことをドワーフの仲間だと、あのジジイ共に認めさせれる?」


「それは、ワシには分かり兼ねます」


「そうか。まっ、よくよく考えたら俺には関係のないことやな。祭りが終わるまでは、はみ出しもん同士仲良くやらせてもらうわ、そっからはお前らがどーにかせえや」


「……はい、あの子のことをよろしくお願いします」


 ラズールはまた深々と頭を下げ言った。


 ラズールと別れ、氷室はオルミの部屋に戻ると、待ち兼ねたと言わんばかりにオルミは椅子から飛び上がり、氷室を招き入れた。


「遅いですよ武様! 新しい武器を作りましたので、早速――」


 オルミがそう言いかけたところで、氷室は手で制止する。


「やめや、オルミ。みみっちいことはやめや」


「え、どういうことですか?」


 首を傾げて答えを求めるオルミに対し、氷室は親指で自分を指さして言う。


「俺の身体全身を、兵器に変えてくれ」


「………………アンビリバボーです」


 俺にもオルミをどうやったら、あのジジイ共に認めさせてやれるか分からん。だったら、俺なりの認めさせ方するしかないわな。

 氷室は悪巧みする子供のような笑みを溢した。


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