6. 氷室 武編①
「何じゃ、これは……?」
圧巻とも言わざるを得ない光景に、氷室武は思わずそう声を漏らした。
それは、高層ビルの数々に、その周辺を素早く飛び回る空飛ぶ車、その下で街を歩くロボットの姿。まるで、SF映画を見ているかのような都市だ。
「ドワーフなんてもんの代表になっちまったから、薄暗い洞穴にも連れて行かれるかと思ったわ」
「はっはっはっは! 武様の言う通り、百年前までは我々ドワーフは洞穴に住んでおりましたわ!」
氷室の横で豪快に笑う小柄な中年の男は、ドワーフの長であるラズールだ。ローダンに転移してきたばかりの氷室を案内しているところだった。
「ほー、百年でえらい変わりようやな」
「これが、ローダンの祭りに勝つということですな」
「なんや、前回の祭りはお前らが勝ったんかい」
「ギリギリの戦いでしたがねえ、あれは見ていて燃えましたわ」
「洞穴からこんな都市化か、まるで地獄から天国やな」
「……いやはや、それはどうでしょうかねえ。ドワーフ達の中には今の都市化を不満に思っとる者もいる」
「そんな奴がおるんか?」
「武様にはただの洞穴かもしれんが、我々にとっては故郷のようなものでな、捨てられぬ者もおる」
「……俺には分からん感覚やな」
「はっはっは、無理もない。しかし、技術が進んでロボット達がドワーフの仕事をするようになり、何といいますか、文明だけ進んで我々だけが置いていかれている。そんな感覚が、ワシの中にはありますな。っと、着きましたぞ」
ラズールが立ち止まった先には、そびえ立つ巨大なタワーがあった。見上げてみるが、頂上までとてつもなく高さがある。
「ここに、ドワーフ達が武様を待っておる。何か一言かけて貰えますかな?」
「この世界に飛ばされたばかりな俺に、何を喋れちゅーねん」
「何でも、武様が言いたいことを言えばいい」
ラズールはそう言うと、氷室にタワーの中に入るよう促す。氷室はため息をつきながらラズールの後に続いて、タワーの中に入る。
タワーの中に入ってすぐのところに巨大な扉があった。氷室はラズールと顔を合わせると、ラズールが頷いたので扉を開ける。
広い円形な部屋だ。中心に演壇があり、それを囲むように大勢のドワーフが席に座っている。
氷室は演壇に立つと、周りを見渡した。ここからだと、ドワーフ達の顔がよく見える。その何かを期待したような眼差しをこちらに向けてくるドワーフ達に、氷室はなんとなく葛西のことを思い出し、嫌気が差した。
これは、何の茶番や。こんな顔をしている奴らの前に立って、何を喋れと言うんや。
精一杯頑張りますなどと言えばこいつらは満足なのか、祭りへの意気込みを語ればこいつらは満足か、反吐が出そうだ。
「…………俺は、正々堂々と戦うなんてこたぁせん」
氷室の言葉にドワーフ達は困惑した表情を浮かべている。
「身体のあらゆる場所へ刃物を隠すし、その刃物には毒を塗る。勝つためには手段は選ばん、反論あるか?」
ざわめくドワーフ達を見て、氷室は彼らに対して失望の色を隠せない。何だ、こいつらは本気で勝つつもりはないのかと。前回は知らないが、あいつらは綺麗事で勝てるほど甘くないことを知っている。
「ッワンダフル!」
困惑するドワーフ達の中から、飴のようなものを咥えた少女のドワーフがパチパチと手を叩きながら前へ歩いてきた。
むさ苦しい、長い髭の生えたオヤジのような男のドワーフ達とは違って、その少女のドワーフの姿はちんちくりんで、あどけなさがあるが、整った顔立ちをしている。その綺麗な藍色の瞳で少女のドワーフは真っすぐに氷室のことを見つめた。
「武様の演説、超絶に感動致しました! ドワーフは脳筋で弱い癖に意地だの誇りだの大切にするんですよねえ、全く反吐が出ます!」
少女のドワーフがそう言うと、すぐ近くにいたドワーフが激怒して少女のドワーフの肩を掴むが、武はそのドワーフにやめんか! と一喝する。それに怯えたドワーフはすぐに手を離す。
「ははははは、そこのチビの言う通りじゃな」
笑う氷室は、少女のドワーフに尋ねた。
「お前、なんて名前や?」
「オルミといいます、発明家ですよ。武様の望む武器や兵器なんでも作ってみせます!」
胸を張って自信満々に言うオルミを見て、氷室はまた笑う。
「気に入った。お前、俺の武器を作れ」