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2.葛西 雅人編①

 

 意識を失った感覚も一瞬の出来事、すぐに葛西は目を覚ました。

 太陽の光が目を刺激する。さっきまで夜の闇の中にいたはずなのに、何故太陽が昇っている? 眩しすぎるくらいの太陽の明かりに目を慣らしながら呟いた。


「一体、何が起こったんだ……」


 まだ太陽の光に目が慣れていないが、状況を確認する為に葛西は仰向けでいた身体を起こした。ここは明らかに神社じゃない、というよりこんな場所は来たことがない。どこまでも平原が続き、所々に林が見える自然豊かな場所だ。


「……何処だ、ここ」


 思わず口から出たその疑問に答えるように、背後から声がした。


「ようこそ、ローダンへ! 君からすると異世界って言った方が分かりやすいかな?」


 驚いた葛西は、急いで振り向くと、獣のような耳や尻尾が生えた人が大勢立っていた。


 ……コスプレか? 本物じゃないよな?


 葛西はそう思っていたが、よく見るとピクピクと耳が動いていたり、尻尾をフリフリと動かしていたり、まるで本物の耳や尻尾のように見える。

 それにしても異世界? 突然そんな事を言われても理解が追いつく訳も無く、葛西はかなり面を食らった様子だ。


「異世界? 俺は神社で喧嘩の最中だったんだが?」


 人とも、獣とも違う生き物達にも疑問はあるが、単純に気になったことを葛西は聞いた。


「君に用があって勝手ながら僕達の世界へ呼ばせてもらったのさ。あ、君の世界にはその用事が終わり次第、ちゃんと戻してあげるから安心してくれ!」


 安心してくれ、と言われてもあまりに展開が急すぎる。そもそも、何故俺だけがこんな場所へ飛ばされなきゃいけないのか。


「どうして、俺なんだ?」


「お前だけではない、お前の周りにいた三人もこの世界へ飛ばされている」


 葛西の疑問に、獣人間達の中で一際威厳を放つ男が前に出て答えた。その男は、続けて言う。


「お前たち四人が丁度よかったんだ。こちらが強要するまでもなく、戦う動機があるようだしな。しかし、お前達の中に一人だけ実力が飛び抜けた者がいてな、今のままではその者が勝ってしまう。それでは面白くないからこちらの世界に来てもらったのだ。単刀直入に言うが、このローダンで一度修行をし、力をつけた後にまた四人で戦ってくれないか?」


「戦うってここで? そもそもあいつらの姿が見当たらないんだが何処にいるんだ? それに、俺が断ったらどうするつもり?」


 葛西は、次々に疑問を投げかけた。聞きたい事は山ほどある、そんな表情をしている。

 

「戦うのは今日から合わせて百回目の朝が訪れた頃にその戦いの場所へ連れて行く。それと、他の三人は別の種族の国にいるはずだ。拒否権はないと思ってくれ」


「拒否権はないか、まあそれは構わないとして。それよりも一番気になったことがあるんだが?」


 葛西は前のめりになって、威厳を放つ男に真剣な表情で聞いた。


「さっき言ってた実力が飛び抜けてる奴って佐藤のこと? あの年がら年中眠そうにしてる奴!」


「……お前ではないことだけは確かだと言っておこう」


「…………そっか、まだ負けているのか」


 葛西は項垂れて、あんなに修行したのになあ、と呟く。そして、葛西は大きく深呼吸をし、威厳を放つ男を見る。


「よし、分かった。もう一度修行して戦えるチャンスをもらえるっていうなら望むところだ。もう少し詳しく話を聞かせてくれよ」


 葛西はそう言うと、その場に座り込み、威厳を放つ男の話を聞き始めた。


「まず、自己紹介をしようか。私は、獣人と呼ばれている種族の長をしているグフだ」


 グフはそう言い、葛西に続いてその場に座った。

 獣人。元の世界では創作物の中でしか聞いたことない種族の名前だ。つまり、人間ではあるけれど動物の外見も合わせ持っているということ。あの耳と尻尾はコスプレではなく、本物という事が確定的となった。

 葛西がグフの後ろにいる獣人達を一瞥すると、獣人達は葛西に対して一礼をする。反射的に葛西も獣人達に小さく頭を下げた。


「それで、お前の名は?」


「俺は、葛西雅人だ」


「雅人、話の続きだ。雅人達を呼んだ用事の話だが、このローダンでは百年に一度、選ばれた種族同士で祭りをしている。その祭りの勝者はこの先百年の繁栄を神によって約束されるというものだ」


「……それは、俺には関係のない話だが?」


 葛西は首を傾げて言う。


「まあ、そうだ。雅人達には関係のない話だ。だが、雅人が私達獣人の代表として戦うと言えば関係なくはあるまい」


「俺が、お前達獣人の代表?」


「その為にお前達を呼んだ。お前の知っている三人も、他の種族の代表として祭りに参加するだろう」


「ちょっと待て、何で俺達を代表に立てる? お前達の中から代表を出せばいいと思うんだが?」


「フェアじゃないからだ」


「フェアじゃない?」


「種族にも色々ある。戦闘が得意な種族、技術を持つ種族、頭の良い種族様々だ。だが、結局この祭りの内容は何でもありの戦闘だ。一対一で戦い、最後に立っていた種族が勝者になる。戦闘に秀でている種族が有利になってしまうのだ、だから百年に一度人間をローダンへ呼んで戦ってもらっている。人間の間にも力の強い者と力の弱い者がいるようだが、私達種族間の力関係と比べると些細なものだ」


「俺達はその祭りを盛り上げる道具って訳か」


「ちゃんと人選はしているつもりだ。お前達には私達が何かを言わずとも、争う理由があるのだろう?」


 葛西は少し考え込む。


「まあ、確かにそうだが」


「しかし、今のままだとお前は確実に負ける。だから、私達獣人が百回目の日の出までお前の修行に付き合おう」


「俺を、強くしてくれるのか?」


「お前のやる気次第だがな。代表に選んだのだ、勿論フォローはするつもりだ」


「そんなの、俺はやる気だが? もっと強くなりたい。もっともっともっとだ!」


「いいだろう、まずは私達の村へ案内する。少し歩くことになるが、ついてこい」


 グフはそう言うと、振り返り歩きだした。続くように獣人達も歩き出し、獣人達のあとを葛西は追った。



 獣人の村へ着いた。村の見た目は至って平凡ではあるが、獣人が住んでいるということで葛西にとっては異様な場所に見えた。

 犬のような人、猫のような人、イノシシのような角の生えた人、クマのように毛がふさふさで大きな体を持つ人。色々な獣人が生活をしていた。


「雅人、申し訳ないが私にはやることがある。村の案内はこちらのライアにやってもらう、あとで合流しよう」


 グフは案内役の獣人の肩を叩き、村の奥へと去って行ってしまった。その案内役の獣人はナヨナヨとした雰囲気がある犬の耳と尻尾のついた青年だ。緊張をしているようで少し身体が震えている。


「えええっと、あっ案内役を務めさせていただきますライアです。よっよろしくお願いします!」


 ライアは過剰なまでに頭を下げて言う。


「緊張しすぎだが? 葛西雅人だよろしく」


「えっと、それでは村の中を――」


 ライアがそう言いかけた時、近い距離から悲鳴声が聞こえてきた。


「な、なんでしょう?」


 ライアは困惑して動けないでいたが、葛西は既に緊急事態と判断するや否や悲鳴声のした方へ駆け出していた。

 獣人の子供達が逃げて行く姿が見え、あっちかと葛西は更に足を早める。

 腰を抜かして逃げ遅れた獣人の子供を見つけ、葛西は急いで駆け寄った。


「何だ、どうした?」


「ゴ、ゴブリンが……」

 

 獣人の子供が指を差す方向には、緑色のした小柄の怪物が気味悪くケケケッと笑いながらキョロキョロと首を動かしている。すると、ゴブリンと呼ばれたその怪物は葛西の姿を確認をした途端に、いきなり葛西に向かって襲い掛かってきた。

 思いの他にゴブリンは素早い。一気に数十メートルほどあった距離を詰められ、ゴブリンは手にしていたこん棒を葛西の頭部をめがけて振りおろしていた。

 葛西はゴブリンの攻撃を避けることが出来ないと判断すると、両腕でガードをした。


「ッッ!」


 当然だが、痛みがある。実は心の中でどこか少し期待をしていた。これは、もしかしたら夢なのかもしれないと。そんな淡い期待はあったが、どうやらそういう訳にはいかないようだ。それに、何故だかは分からないがこのゴブリンは自分を狙っている。化け物が相手だろうが売られた喧嘩は買う、逃げるなどという選択肢は自分の中にはない。

 葛西は戦う覚悟を決めて、ゴブリンをこん棒ごと払いのけて距離を取った。この距離もゴブリンには一瞬で詰められてしまうが、懐に潜られているよりはよっぽどマシだ。


「雅人さん! 大丈夫ですか⁉」


 遅れて、ライアが声を荒げながらこの場所へ追いついた。

 ライアは逃げ遅れた獣人の子供を抱え、葛西に話す。


「避難していた獣人に聞きました。戦える獣人に応援を頼んでいますので、早く逃げましょう!」


「――必要ないんだが?」


「えっ?」


 葛西の返答に、ライアは驚く。


「冗談言ってる場合じゃないです! 普通の人間がゴブリンに敵うはずないです……」


「――そんなの、やってみなきゃ分からないだろ? 離れてろ」


 葛西の圧のある声に怯えて、ライアは口を紡ぎ葛西から距離を取った。

 葛西は拳を握り、ゴブリンへ集中をする。この距離では自分から仕掛けることはできない、自分の射程距離ではないからだ。無理に仕掛けようとすると、ゴブリンの方が二手三手素早く動ける分、こちらが不利だ。――さて、どうするか……。

 葛西はゴブリンを観察しながら思考を巡らせていると、ゴブリンの持つこん棒を見て、得物を持って喧嘩をする氷室のことが浮かんできた。何かと突っかかってくる上に正々堂々と戦わないアイツのことは嫌いではあったが、ここで氷室との喧嘩が生きてくるかもしれないとは、少しだけ葛西は氷室に感謝をする。

 相手は得物持ち、素早さは氷室より上だが体が小さい分リーチはアイツよりはない。ゴブリンの速さはさっき見た。ゴブリンの動きに反応が出来るとしたらこの位置、少しでも近づけばガードすら間に合わない。だとすれば狙うは――――。

 葛西は不敵な笑みを浮かべて、人差し指をクイックイッと曲げてゴブリンを挑発する。


「いつまで、そうしてるんだ? 足が竦んで動けないか?」


 葛西の挑発が通じたのか、ゴブリンはギィィィィ! と奇声を上げて葛西に向かって飛び掛かる。


「同じ単細胞で助かるんだが?」


 葛西は飛びかかってくるゴブリンの攻撃を間一髪で避け、ゴブリンの顔面へ拳を振り下ろした。


 ゴキッ……。


 ゴブリンから鈍い音とギィ……と力ない声が零れてふらふらと地面に倒れる。

 起き上がれないゴブリンを見て、葛西はフ~っと安堵した。


「すっ凄いです雅人さん!」


 ライアは飛び跳ねながら、歓喜の声をあげて葛西に近づこうとしたその瞬間だった。


 ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

 

 鼓膜が破れるかと思うような凄まじい雄叫びが聞こえ、その後すぐにドスンッと地面が激しく揺れた。


「な、なんだコイツは……」


 大木のような図体の怪物が、葛西達の目の前に跳んで現れたのだ。

 ライアはその怪物を見て、力が抜けたように崩れ落ちる。


「オッ、オークです……な、なんでここに……」


 オークは葛西の姿を確認すると、その拳を握りしめて、葛西達に向かって振り下ろした――。



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