10. 工藤 純編①
「なるほど……大体分かりましたが、修行と言っても何をすればいいんです?」
あたりの見たことのない木が並ぶ森の景色と目の前の耳が長い男女を一瞥しながら、状況はある程度飲み込んだものの、強くなれと言われても漠然としすぎている。
「夢というわけではなさそうですし、せっかくなんで楽しみたいですね」
工藤が喋り終わるのを待つ前に女の子が動く。
「たとえばこんな事とか!」
元気のいい女の子が右手を払うような仕草をすると周りの木の葉が舞い上がる。
「こんなのもできるようになるよ!」
次は手のひらの上に火がついた、手品というわけではないようだ。なにを見せられているのかはわからないが、ここが別の世界というのは理解できた。
しかし、できるようになる。という言葉の意味がわからない、何もないところから火を出したりするのは元の世界では空想上の出来事だ。そんなものが自分にできると言われても、想像がつかない。
「魔法……とでもいうのでしょうか、それを習得しろと? しかし、どうやって?」
工藤が疑問を投げかけると、一人の男が答える。
「魔法という認識で大丈夫です。しかし、形式は問いません。強くなって勝ってさえくれればいいのです」
「私が教えるよ!」
あまり人の話を聞かないタイプなのか、遮るように女の子が喋る。
「少し黙ってください。失礼、客人。」
「むー……」
男が咎めると女の子は口を尖らせ黙った、どうやらこの男の方が偉いようだ。
「お気になさらず、しかし形式を問わないと言われましても困りますね。魔法は気になりますが、魔法以外にここじゃないとできないことはあるんですか?」
置かれている状況は飲み込んだものの、あらゆる疑問は残る、探究心、好奇心が強い工藤にとっては、謎が残るのが妙に気持ち悪い。
そんな工藤の気持ちを察したのか、エルフの男は各種族の得意分野を喋り出した。
「そうですね……我々エルフが得意とするのが魔法ですので、一番上手くは教えられると思います。他の種族は格闘が得意だったり、道具を使うのが得意だったり。またまた、単純に強力な力を持った種族もいますが……かと言って多分どの種族も成長の仕方に強要はしていないと思います、人にも得手不得手がありますしね」
「もちろん、魔法以外もできることなら教えます。強くなってもらわなければいけませんのでね」
説明を受けた工藤は、なるほどと小さく頷いた後少し考え込んだ。
格闘は明らかに不利じゃないのか?といってもここに飛ばされた時点で自分の物差しで考えても仕方ないか……。
多分、この異世界人たちの言う格闘や道具は、人では出せない力のことだ。なんせ百年に一度、繁栄の為なら今までの勝者から、勝ち星が多いものを教えるだろう。そして、前回の覇者はエルフではないことを考えても、魔法が有利と言うわけでもなさそうだ。時間があるなら全て知りたいところだが、たった百日。なら……。
「魔法を教えてくれませんか?」
結論は簡単だった、有利不利が無いのならば得意なものを教わる方が早い、後は単純に一番気になる。工藤の答えにエルフの少女が割って答える。
「私が見込んだだけあるね!じゃあ今日から早速取り掛かろう!」
いつ見込まれたのだろうか、わからないがこいつは苦手なタイプだ。
「待ちなさいシーナ。すみません、礼儀知らずで、まずは私たちの住んでいるところを案内します。」
「助かります、置かれた状況は理解したつもりですが、正直まだ完全には頭が追いついていませんし」
「当然です、そもそも急に信じろと言うのが無理な話です。しかし、理解が早くて助かりますよ」
工藤は苦笑いで返したが、内心今までに無いくらい心躍っていた。勉強で1番になるのが当たり前で、知らないことは全て調べてきた、なのにこんなに未知だらけの世界がある。これから始まるたった百日に、どれだけ智を詰め込めるか、想像しただけでわくわくする。
「遅くなりましたが、私はサリオン、この子はシーナと言います、気軽に呼んでください」
「よろしくお願いします。僕は工藤でも純でもどちらでも構いません。好きに呼んでください」
少し俯いて考えた後にサリオンは続ける。
「では……工藤で、町では歓迎ムードですよ。すぐ着きますので、落とされないように気をつけてくださいね」
サリオンがそう言うと体が宙に浮いた。
木の上まで上昇したあたりでシーナが言う。
「さぁ行くよー!」
体が引っ張られるように動き始めた。
初めての経験に工藤は心躍らせた。空を飛ぶ、というより浮かされて飛ばされている感触、冒険の序章にしては悪くない。
「これもできるようになるんですか?」
「すぐですよ、簡単な魔法です」
町に向かいながら、工藤がサリオンに尋ねるとすぐに答えが返ってくる。
そんな会話をしていると一緒に飛んでいるシーナが口を開く。
「サリオンも工藤も他人って感じー! これから一緒に過ごすんだからもっと仲良くしようよ!」
「普通はこんなものです、あなたの距離感がおかしいんですよ……まぁ私達からしたら工藤さんは客人ですからね、工藤さんはいつも通りしてもらってかまいませんよ」
「いきなり言われてもね……普段からこんな喋り方ですし……まぁ、徐々に慣らしていきましょうか」
「あまり困らせないでくださいシーナ……あ、今見えている建物が私たちの住んでいる町ですよ」
サリオンが指を差した先を見ると、中世……という感じだろうか、確かに町がある。てっきり森の中にある集落かと思ったが、案外イメージより発展している。
「宿や食料は心配しないでください。さぁ、そろそろ着きますよ」
「これから楽しみだね!よろしく工藤!」
「よろしくお願いします」




