正義を名乗る少女
「正義って何だと思いますかぁ?」
その声は、高級なピアノのような美しい声だった。目の前の黒く闇を水に溶かしたような女性からは絶対に聞こえないような声だった。
その女性は両手を鎖で繋がれ首から下がっている鎖とさらに繋がっている。今ボクが着ているローブと同じものを着ているがその下には何も着てないように見える裸足で足裏は痛くないのだろうか。
汚れてはいるが足には鎖が付いていない。黒の髪は長い割に丁寧に手入れされているのか胸までの長さでストレートが艶やかに輝いている。
というか今の質問ボクにしたわけじゃないのか。とよく見ると彼女の前にもう一人女の子が居た。少しキリッとした顔が中性的に見えるがたぶん女の子だろう。
ものすごく見た目が派手で虹色のストライプ状の服で髪も同じように染めている。
「自己犠牲、優しいウソ、偽善、アナタは正義って何だと思いますかぁ?」
「…………誰かを信じる心とか?ワタシも質問いいかい?君好きな色は?」
「白ですかねぇ」
その見た目で?全身真っ黒なのに?とか考えていると、ジャラッと大きな斧を構える。今、手首の鎖サラッと外さなかった?
てゆうかその斧どこから出したの?ギャリリリリッ!と地面をこすりながら突っ込んでいく。これは死んだ。いや、マズイだろ。
目の前で人が死ぬとか無理無理。止めなきゃダメだろ。いや、何が出来るんだよ。仮に突っ込んで行っても死ぬだけだよ。このゲーム初期デッドエンド選択肢多くない?そんなにセーブ枠残ってないよ。考えて居る間に。体が動いていた。
「ちょっと待ったぁぁあ!」
「おや?」
「!?」
ガシャアッ!と目の前でピタリと斧が止まる。躊躇った?にしても人が割り込んで来ただけで止まるなら始めから切りかからないで。
と言ってもここからどうするかなんて具体的な案も無いのに突っ込んでどうするつもりだったんだ。こちとら登校初日だぞ。
まだクラスメイトに挨拶もしてないんだぞ。朝の登校イベントにしては食パンくわえた女の子からずいぶん進化したもんだ。
「京極。こんな所で問題起こすなよ」
「いやだなぁ、七色さぁん?少し質問がてら先走っちゃっただけですよぉ」
「え?何?君たち知り合い?」
「どうもぉ、京極・J・切亜ですぅ。名前あんまり好きじゃないんでJJと呼んでほしいですぅ」
「初対面だよ。ワタシは七色絵画。君ら転校生だろ?」
柔らかい表情と同時に斧も消えて幻覚だったかのように手首の鎖も繋がっていた。え、何コレ?ここ学校だよね?
「ボクは鎌倉蓮です。今日転校してきた者なんですけど」
「あぁ……昨日派手にやったのがキミか」
「まぁもう一人の方には手を出さないので今回はこれで勘弁してくださぁい。てゆうか道案内くらいしてあげたらどうですかぁ?私も実質今日が初登校なので教員室まで連れて行って欲しいですぅ。ついでに友達になってくれませんかぁ?」
そういうことか。つまり迷子仲間だな。迷子友達ってヤツだな。「こっちだ。着いてきてくれ」と七色さんが案内してくれる。すると道すがら出会ったばかりの二人と話す。
「これは興味本位で聞くんですけどぉ、鎌倉さんは正義って何だと思いますかぁ?」
「悪の反対?」
そう聞くと少し驚いた表情をした後、黙って考え込む。なんか変なこと言ったかな?自分がやったことが正義だとは思えなくても悪は明確にわかる。
「意味の補強として対色を使って存在を強くするというのは割とメジャーなんだけどね。君には新鮮だったのかな?」
「ではこの世の全ての悪を根絶すれば私は正義なんですかねぇ?」
「んな極端な……」
「私は正義であろうと努力してきました。正しくあろうと、頑張ることが正しいのだと。正しいことをするのが正義なのだと。世界の味方であろうと。努力は正しいのだと。報われたことなんてありませんでしたけど」
と階段を二つほど上がって三階に着く。三階なのに階段二つっていうのが不思議だよなぁ。まぁ一階が地面に着いてるから階段一つで二階って考えるのが基本だと思うとわかりやすいんだけど。
海外だと一階じゃなくてグラウンドフロア?とか言ったりするらしい。それで階段を上がって一階だとか。これはマンションとかで一階がエントランスになってるから、と考えると納得できる。
とか考えてたから京極さんの話を聞いていなかったとかではない。ガララと引き戸を開けて教員室に入っていく。そしてバタバタと慌ただしい教員たちを縫ってまっすぐとコーラルさんの所まで行く。
「おせーぞ鎌倉。初日くらい余裕持って出てこれねぇのか」
「コーラル先生ひどいわぁ私自分がどこのクラスかも知らないのにぃ」
「京極は何でエリザベートから聞いてねぇんだよ。いや、エリザだからか。そうだよな。まぁいい、エリザは受け持ちが違うんだ。オレのクラスだよ。このままじゃ遅刻ギリギリだ。教室まで一緒に行くぞ。七色もだ」
「ワタシはアトリエでゆっくりしてたいんだが」
「登校義務が無いのに学校来てるんだ。せっかくだし教室にも来とけ」
そしてボクの学園生活が始まる。登校初日にして自分と同じ転校生が一人。というかここ学校なのにみんな服装が自由過ぎない?
そして歯抜けの席がちらほらある。そして席数が異様に多い。確かにマンモス学校とは聞いていたがそもそも教室のサイズが広い。
一クラス何人くらい入るんだろうか。自己紹介もそこそこに授業が始まる。授業内容は魔法についてだったがなるほど生きていた頃に受けていた現代文や数学なんかと比べるとそうとうに面白い。
確かに詠唱や魔法効果など、基本として現実世界の知識を必要とするがこの魔法と言う学問自体が総合知識の塊のようでどれも新鮮で面白いのだ。
授業も終わり放課後になるととりあえず今日会ったばかりの京極さんに話に行ってみる。
「この学校には慣れましたか?」
「どいつもこいつも有象無象のバカばかり、くちばしの黄色い雛どもが。そっ首まとめてはねてみせようかしらぁ」
「こわ。えっ。こわっ。ニコニコ話しながらそんな事考えてたの?」
「あらぁ鎌倉さん。朝ぶりですね。部活見学でも一緒に行きませんかぁ?この浅瀬でちゃぷちゃぷ他人の表情を伺う空気大嫌いで吐き気が止まりませんのぉ」
「えぇ?ボク帰宅部でいいや。行きたいところとかあるなら付き合うけど」
「じゃあ生徒会にでも行きませんかぁ?生徒会長に呼ばれてましてぇ」
転校初日に生徒会長から呼ばれるってどういうことなの?アレかな?生徒会長なのに胸が大きくてやけにツンツンしてる感じなのに主人公にだけは優しい感じの生徒会長がいるのかな?居たらいいなぁ。
「というか転生者として呼ばれているんですよぉ。どうせですし一緒に行きませんかぁ?」
「え?京極も転生して来たの?」
「気付かなかったんですかぁ?じゃなきゃ朝一息に真っ二つにしてますよぉ。ところで生徒会室ってどこか知ってますかぁ?」
二人とも知らなかった。事前に場所教えてから呼んで欲しかったなぁ巨乳生徒会長。