父と一緒にお留守番
昼食の後は、母と一緒に弓の練習をすることになった。
聞けばルーティアは、一年ほど前から母に教えてもらって弓の練習をしているそうだ。 使うのは子供用の小さな弓なので、大人の弓と比べるとおもちゃみたいだが、やってみると、とても楽しい。 なかなか筋がいいらしく、的にバシバシ当たるのだ。
ルー、凄し! さすが狩人の娘!! という感じで私は大興奮だった。
練習は天候などにもよるが、ほぼ毎日しているらしい。 だが、練習時間は特に決まっていないらしく、ルーティアの集中力が切れると終了だ。
今日は練習していたはずが、いつの間にかルイシャと追いかけっこをしていて、家の周りをグルグルと駆け回っていた。 すごく楽しかったが、すごーく疲れた。
母の方も、最初はルーティアの練習を見てくれていたのが、気が付くと薪割りになっていた。
いつ切り替わったのかが思い出せなくて、なんだか面白い。
その後は、弓の手入れをしたり夕飯を食べたりして一日が終わる。
結局その日、父は目を覚まさなかったのだが、特に苦しそうな様子もないし、ちょっと顔が赤いかな?くらいで、静かに眠っていた。 母もルーティアも普通にしているので、よくある症状なのだろう。
そんなこんなで、私がこちらで目覚めて、初めてまともに一日を過ごしたわけだが、なんだか濃い一日だった。 もう何日も、この世界で過ごしたように感じる。
とにかく異世界には謎が多すぎるな・・・。 気長に学んでいくしかないけど、なんでも聞ける先生が、今、一番欲しいものかもしれない・・・。
★★★★★
翌朝
私とルーティアが目を覚ますと、隣で寝ていた父は昨夜と変わらぬ様子で眠っていた。 目を覚ました様子は無い。
父とは反対側の隣で寝ていたはずの母と、ベッド脇のラグの上で丸まっていたルイシャの姿は見えなかった。
『ルー、おはよう。 お母さんとルイシャ、いないね。』
『おはよー、【私】ー。 ・・・母さんは、隣の部屋にいると思うー。』
昨日も思ったけど、ルーは起き抜けがちょっと弱いね。 話し方が間延びして身体がゆらゆらする。 動いちゃえば、すぐ目が覚めるみたいなんだけどね。
『お仕事じゃないの?』
『んー・・・。 父さんが起きてないから、お仕事には行ってないと思うー。』
そうか、さすがに病人と4歳児だけにして仕事には行けないか。 ルー一人じゃ、朝ごはんの用意もできないもんね。
『ルー、まだ眠そうだね。 もうちょっと寝る?』
『ん~ん、もう起きる~。』
ルーティアは目をショボショボさせながらベッドを出ると、トイレに向かった。
トイレは納戸の隣にあるのだが、面白いことに玄関側からも入れる造りになっている。 トイレにドアが二つあるのだ。 たぶん外仕事が多いので、すぐ用を足せるようにそうなっているのだろう。 カギを両方かけなければいけないのが、めんどくさい。
トイレは水洗ではなく、いわゆるポットンだったのだが、特に汚いとか臭いとかは無い。 非常にキレイだ。 下に溜まってしまう構造のポットンだと、もっと匂いが気になってしまうと思うのだが、いったいどうなっているのだろう?
トイレの構造なんて、ルーティアは知らないと思うので聞いていないし、トイレの中を覗き込んで確認してくれとも頼みずらいので、トイレの構造も謎なまま保留扱いである。 用が足せれば特に問題無いしね。
トイレでの用事を済ますと、ルーティアは玄関側のドアからトイレを出て、居間に向かう。 玄関は寒いが、こっちのほうが近いのだ。
「母さん、ルイシャ。 おはよー。」
「おはよう、ルーティア。」
ルーティアが言った通り、母は居間にいて朝食の準備をしていた。 ルイシャは竈の近くで寝そべっていて、尻尾をパタンと振って挨拶してくれる。
なんだか、ルイシャがいると空間がゴージャスだな。
「イデアは、まだ起きないか?」
「うん。」
「そうか。 そろそろ声をかけて起こすか。」
ルーティアが台所の流しで顔を洗い始めると、寝室で物音がした。 そしてガチャリと音がしてドアが開くと、少しボーとした様子の父が寝室から出てくる。
「おはよー。 もしかしなくても私は、また倒れたのかな?」
「ああ、昨日の昼前にな。 具合はどうだ?」
「ん~。 少し熱っぽくて、ちょっと、だるいかな? そんなにひどくないから、すぐに良くなるよ。 あ~、お腹が空いた~。」
「すぐ用意するから、上着を羽織ってこい。」
「あ、そうだ。 忘れてた。」
父は首をさすりながら寝室へと戻っていった。
★★★★★
朝食を三人でとった後、母は父の様子を見て、大事は無い。と判断したようだ。 父も、安静にしてるから平気だ。と主張するので、母は私たちのお昼ご飯を準備をすると、ルイシャと一緒に森へ出かけて行った。
ちなみに、お昼ご飯は卵のサンドイッチ・・・いや、クルトサンドだった。 昼時に父が寝てたら勝手に食べろ。と母には言われている。
うむ。 お母さんは安定のぶっきらぼう加減だな。 うんうん。
「ルー。 父さん起きてると、母さんに叱られちゃうからベッドにいるよ。 いつもみたいに寝室で遊んでくれるかい?」
「うん。 わかった。」
ルーティアが頷くと、父は少しふらつきながら寝室へ向かった。
あれ、本当に大丈夫なんだろうか? なんか心配だな。
『お父さん、ふらついてるけど大丈夫かね?』
『熱でると、いつも、あんな感じだから大丈夫だと思う。』
『そうなんだ。』
ルーは反応が淡泊だよね。 お母さんに似たのかな? 昨日はお父さんの顔、覗き込んだりしてたから心配はしてるんだろうけど・・・。
『お父さんが寝込んじゃって、お家で遊ぶ時って、いつも何してるの?』
『んーとね。 ルイシャのベッドで、お絵かきとか、父さんの本、見たりとか?』
ルイシャのベッドっていうのは、ベッド脇のラグのことだな。 昨日もそこで寝てたし。
『ルー。 私、本が見てみたいな。 どんな本、見てるの?』
『えーとねー。』
こちらの文字はどんな感じなんだろう? 本を読む。じゃなくて、見る。って言ってるから絵が入ってる本があるんだろうな。 ルーはまだ字は読めないだろうし。
ルーティアは居間のはじに置いてあった本棚の前まで行くと本を選んでくれる。 並んでいる本は、どれも大きくて、背表紙を見る限り装丁もかなり立派だ。 なかなか、お値段も張りそうだが、子供が勝手に出していいんだろうか? いつも見てるって言ってるんだからいいんだろうが・・・。
『これが一番、よく見るやつだよ。』
ルーティアが手に取った本は、やはり大きくて立派だった。 重さもかなりのもので、日本でよく見た子供用の図鑑より、ずっと重い。
『ルー、大丈夫? 結構、重いけど。』
『うん。 いっつも見てるやつだから平気。 隣に持っていくね。』
片手で持って立ち読みなんて不可能な重さだ。 ルーティアは重い本を抱えて隣の寝室へ移動すると、ルイシャが寝ていたラグの上まで行き、ドンッと本を置いた。
自分もラグに座り込んで本を開こうとすると、ベッドで横になっていた父から声がかかる。
「今日は読書かい?」
「うん。」
父は、眠るつもりが無いらしく横になったまま、こちらを見ている。
父に見守られながら本を開くと、そこには動物の絵が描かれていた。 どうやら動物の図鑑のようだ。 小さな字で説明も入っているが、残念ながら文字に自動翻訳機能は発動されなかったようで全く読めない。
あ~、ちょっと期待してたんだけどダメかー。 地道に字を憶えないと・・・。
本を読むことが出来れば、この世界の一般常識をうっかり質問して周囲の人に引かれる。という危険を冒さずに知識を得ることができる。 前世では、人に教わるよりも本を読んで覚えるほうが好きなタイプだったのだ。 早く本が読めるようになりたい。
英語、苦手だったんだけど・・・大丈夫かなぁ。
自分の学習能力がちょっと不安であるけどね。
主人公が目覚めて三日目であることに驚く作者であります。
なかなか、テンポ良く書けなくて四苦八苦・・・(;^_^A
前回に引き続き、以前と比べると半分ほどの量になってます。
短くして、ちまちま上げようかなぁ・・・なんて考えはじめまして。