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只今、絶賛パニック中。

 目が覚めると、部屋の中は薄暗かった。 日が昇ってまだ間もないのかもしれない。


 んー。 なんか変な夢、見た。


 大きな白い虎が部屋にいて、自分は幼い子供になってしまう変な夢だ。 いつもは夢を見ても、起きればすぐに忘れてしまうが、今回はやけにはっきりと覚えている。


 短い夢だったけど、異世界転生ものの小説みたいだったな。 あんな夢、はじめて見た。 ・・・・・・ん~なんか頭、痛い・・・まだ早そうだし、もう少し寝てても大丈夫だよね?


 時間を確かめようと枕元の時計を見る。 だが、そこにあるはずの時計が無かった。


 あれ? 落としたかな?


 手でも当たってベッドの下に落ちたのかと思い、枕元の周囲を見る。 すると、想像していたものとは違った景色が目に飛び込んできて、私は慌てて飛び起きた。


 う、嘘・・・私、まだ寝てる?


 上半身を起こした状態で部屋の中を見渡す。 そこは、今、見ていた夢の中の部屋だった。 小さな部屋には、ベッドで寝ていた私以外は誰もいない。 あの大きな白い虎もいなかった。


 室内は山小屋のような雰囲気で、木の天井に木の壁。 木枠の窓が二つ。 そこから入ってくるオレンジがかった光と長く伸びた影が、今の時間が早朝か夕方のどちらかだと教えてくれていた。

 目の前にある壁にはドアが一つあり、その横には大きな扉付きの棚がある。 首をめぐらすと右手側の壁に、もう一つドアがあった。

 他には私が寝ているベッド。 木製で、シングルサイズくらいの大きさのものが二つ、隙間を開けずにぴったりと横にくっつけて並んでいる。 そのベッドの脇にはサイドテーブルというんだろうか・・・小さな棚が一つ、置いてあった。 家具はそれで全てだ。


 私は、二つあるベッドの一つ、小さな棚に近いほうに寝ていて、身体には、毛織物のようなものと毛皮のようなものの二種類の上掛けが何枚か重ねて掛けられていた。 そして、その上掛けの上には小さな子供の手が乗っている。


 ・・・・・・・・・・・。


 ゆっくり手を動かし、右手で左手の甲をつねってみた。


 ・・・うん・・・痛いね・・・夢じゃない・・・。


 やはり、間違いなく私の手のようだ。 夢ではなかったのだ。


 本当の本当に異世界転生? 今までの・・・36歳の私はどうなったの? 死んだの?


 死んだという実感がない。 というか、自分の名前が出てこないことに気付いて焦る。


 ??私は誰だ? なまえ・・・名前は?? お、落ち着け、私! ゆっくり思い出すんだ! え~と、まず、日本人。女。36歳でしょ。 家族は・・・え~と・・・。


 とにかく、思い出せることを整理しようと指折り数えてみた。


  地球の日本人

  36歳 女 未婚 子供なし

  家族  父 母 犬一匹 猫一匹

  趣味  ファンタジー小説を読むこと

      動物好きだったので、ファンタジーな動物が出てくるのが特に好き(竜とか、ペガサスとかね)

  あとは、日本の一般常識的なもの


 友人や通っていた学校、仕事、どこで育ったか、どこで暮らしていたのか、などの成長過程や、日々の暮らしのことが出てこない。 趣味は読書だとわかっても、なんていう題名の本が好きだったのか・・・そんな細かい事柄なんかも思い出せない。


 どうでもいい四文字熟語とか、電車の乗り方だとかの・・・日常記憶、ていうんだっけ? それは覚えてるのに・・・

 

 やはり、よく考えても自分の名前は出てこなかった。 親の名前や顔も思い出せない。


 これは・・・前世の記憶の一部分だけを思い出した。ってこと? ・・・・・・なんて中途半端な・・・なんで思い出したの? なんかこの世界に必要な記憶があるの??

 小説だと現代知識を使って大活躍。とかあったけど私の記憶じゃ特に専門知識とか無いし・・・これからさらになんか思い出したりするのか?

 他の転生小説あるあるだと、貴族とかに生まれて、領地改革?とかもあったけど・・・どうみても私、貴族、て感じじゃないよね・・・。 服とかボロボロなわけじゃないから、すごく貧乏なわけでもないだろうけど・・・平民だよ、きっと。


 元々、一般市民だから、もし貴族です。とか言われても困るけどさ。 ていうか、この世界に貴族とかがいるのかも、知らないけど・・・。


 ・・・・・・・・・これ、本当に現実なのかな?・・・・・・36の私は・・・死んじゃったの?・・・全然、死に際とか思い出せないんだけど・・・。


ちょっと、泣きそうになる・・・。 36歳までの記憶。ということは寿命で他界した訳ではないだろう。 『なんらかの病気や事故で他界』か、『向こうの身体は生きているが、植物状態か何かで、精神だけがこちらに飛ばされた』とかの、どちらかではないかと思う。 他の事態というのは、ちょっと私には想像がつかない。


 前者であったとしても後者であったとしても、または別の理由だとしても、確かめるすべが無い。


 だが、もし後者だった場合、非常にややこしい。 一日、二日で戻れれば、「面白い体験したな」ですむが、いつまでなのか? ずっとこのままなのか? が、当然、私にはわからないのだ。


 わからない以上、前者の『他界した』。 つまり、もう地球の身体は死んでしまって元には戻れない。と思った方が良いだろう。 期待していても戻れる保証なんてない。


 それに、なんとなくだが・・・もう戻れない気がするのだ・・・割り切って、こちらの生活になじんでいくほうが、きっと良いのだろう。


 ・・・・・・家族のこと普通に好きだったと思うんだよね。 ・・・親より先に死ぬなんて・・・親不孝しちゃったなぁ・・・。


 しんみりと前世の家族に思いを馳せながらボーとしていると、前方のドアの向こうで人が動くような気配がした。 ん?と思ったら、すぐにドアが開きはじめ、背の高い男性が入ってきた。

 その人を見て私は固まった。


 か、髪! 青!!


 その人の髪は青かった。 早朝なのか夕方なのか分からないが、明るいとは言えない部屋の中なのに、その男性の髪は鮮やかな青だとはっきり解った。 ちょっと見慣れないが、きれいな青だ。


 最初に前世を思い出してパニックになったとき、『目が覚めたら縞のない白い虎が部屋にいた』という、ちょっとあり得ないことを経験したため、ここは異世界では?と思ったのだが、「いやいや、突然変異種なんじゃない? それか私が知識不足なだけで、地球は広いんだから、そういう種類の虎さんもいるんだよ!」

 と、『目覚めたら部屋に虎』という、サーカスでも動物園でも起こらなさそうな異常はさらっと無視して『ここは地球説』に、こっそりしがみついていた私の願いは、その青い髪によって打ち砕かれた。


 あんな青い髪の人・・・いない。 染めたとしても、あんなきれいな青、テレビでも見たことない・・・。


「ルーティア、目が覚めたんだね。 良かった・・・。」


 呆然としていた私に、ほっとした様子で男性が話しかけてきた。 青い髪による『異世界、ほぼほぼ確定説』に衝撃を受けながら、言葉がわかることに安堵する。という、少々、忙しい心境でいた私の耳に、高い子供の声が響いてきた。


「父さん、お水・・・。」


 ? ん・・・? 今、私しゃべった? あれ? 私、しゃべってるの? え?・・・ あ!! この体の子がしゃべってるんだ!!  え? え? 体の主導権って、どうなってるの? 私さっき、手とか動かしてたよね??


 前世を思い出してパニック状態の時、一度だけ『大人ではなく子供』と主張した4歳の子がいたことを、やっと思い出す。 だが、その主張以降、一切のリアクションが無かったので、すっかり忘れていたのだ。 ちなみに今も絶賛パニック中である。


「ああ、喉が渇いたよね。」


 一人で大慌てな私には当然気付かず、男性は私のそばまでやって来た。 ベッド脇の小さな棚に置いてあった木製の水差しを手に取り、同じように置いてあった木製のカップに水を注いでくれる。 水差しを戻してカップを持ち上げると私に渡してくれた。


「ゆっくり飲むんだよ。」

「うん」


 私、というか、ルーティアと呼ばれたこの子が、小さな両手でカップを受け取った。 自分の意志ではなく身体が動くというのは、かなり奇妙だ。 ルーティアは水をコクコクと飲みはじめる。 気付かなかったが、かなり喉が渇いていたようだ。 水がうまい。


「だいぶ、顔色が良くなったね。 ルーは昨日の夜から、ずっと寝てたんだよ。 ・・・今は夕方だから、そろそろ丸一日になるかな。

 ・・・ねえ、ルーティア、もしかしたら昨日から具合が悪かったのかい? 熱が出てたのに、父さんも母さんも気付いてあげられなかったね・・・ごめんよ。」


 男性はルーティアの頭をポンポンと優しく叩きながら、心配そうに顔を覗き込んできた。


 「朝、ルイシャが気付いてくれて、母さんをルーのとこに引っ張ってったんだ。 熱が高くて、すごく心配したよ・・・しばらくしたら下がり始めたから、ちょっと安心したんだけどね。 ・・・今度、身体の調子がおかしいと思ったら、すぐ言うんだよ?」


 もしかして、私が目覚めたことによって発熱したんだろうか? ・・・そうだろうな・・・私も混乱しているが、脳みそも大混乱だろう。 たぶん知恵熱じゃなかろうか? ・・・私が悪い訳じゃないけど、なんだか申し訳ない・・・。


 私が一人、反省していると、ルーティアはカップから顔を上げて男性を見上げた。


「昨日は何ともなかったよ。 朝、起きたら頭が痛くなったの、だから、そのまま寝ちゃった。 次、痛くなったら言うね・・・あ、今も、ちょっと痛いよ。」


「おや、頭痛か・・・。 ん~、良くなってきてるならいいんだけど・・・ルー、ちょっと熱を測らせてね。」


 ルーティアの額に男性の大きな手が当てられる。


 あ~、ひんやりして気持ちいい~。


 熱があるせいか、その手は少し冷たく感じられた。 ルーティアも気持ち良さそうに目を細めてじっとしている。


「うん。 さっき様子を見た時より、だいぶ下がってるね。 熱が下がれば、頭が痛いのもきっと良くなるよ。 ・・・まだ少し熱もあるし、今日はもう起き上がらないで、このまま寝てなさい。 お水、もう一杯飲むかい?」


 ルーティアが、こっくりと頷いてカップを差し出す。 男性はもう一度、水を注いでくれた。


「寝る前に、ごはんは食べられそうかな? お腹がすいてなくても、ちょっと食べておいたほうがいいんだよ。 今日一日、なにも食べてないだろう?」


 ルーティアは二杯目の水を飲み終えると、カップを男性に返し、こくこくと頷く。


「父さん。 ルー、お腹へった。」


「ふふ、そうか。 食欲があるなら良かった。 ルーがいつ起きても食べれるように、母さんが、おかゆ作ってくれてるから、温めなおしたらすぐ持ってくるよ。 それまでは横になってなさい。」


 男性は受け取ったカップを棚の上に戻すと、ルーティアに横になるようにうながした。 ルーティアの肩を引き上げた上掛けで包むと、その上から優しくポンポンと叩いて、入ってきたドアから出ていく。


 ・・・あ~、なにやら新事実が色々と判明です・・・。


 とりあえず分かったことは

 この子の名前は『ルーティア』。

 今は朝じゃなくて夕方。

 パニック後の失神?から、その日のうちに起きれた。


 うん。何日も寝込んだとかじゃなくて良かった。 そんなことになったら、あの人に、すごい心配かけたよね。

 あの男の人・・・「父さん」てことは、この子の父親てことだよね? ・・・心配症なのかな? このくらいの年の子は良く熱を出すと思ってたけど、あれくらい心配するのが普通なのかな? 子供いなかったから、よくわからないんだよね。

 あと母親がいて・・・父、母、子。 ここまでは普通の家族構成。


 ・・・・・・さて、ルイシャって・・・普通に考えると兄弟とかだけど・・・母親を引っ張っていった。って言ってたよね・・・ルーティアの様子が変だよ。とか、言葉で教えてくれたんじゃなくてさ・・・。

 ・・・うん・・・きっとそうだよね・・・ルイシャは、あの白い虎さんのことだよね? 親を呼びに行ってくれるなんて相当、賢そうだけど! お礼、言わなきゃだけど!! ・・・ペット・・・なのかな? ・・・この世界ではペットに虎は普通ですか??


 入ってきた情報を整理したかったのに、新たに混乱しましたよ。 そしてなによりの疑問は、この身体の主導権はどうなってるの???


なんだか、さわがしい主人公ですね・・・



18日中の投稿を目指しましたが、間に合わず・・・無念・・・

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