一話 『魔法の世界の「お姫様」をお迎えに』
男向け。自分が読みたくて書きました。アルファポリスさま。カクヨムにも投稿予定。
感想はお気軽に何時でもどうぞ。
二年一組。斎藤一。
斎藤一という俺は、自分でいうのもアレだが、無気力・無関心・無感情であり、社交性がなく、社会不適合者である。
高校生に有りがちな、キラキラした将来の夢等もなく、高校までは学校にも通ったが、卒業後は、無職になると思っている。
いや、絶対にそうだろう。
だって俺は、誰とも関わりたくなく、死ぬまで引きこもっていたいのだ。
それが、夢と言っても過言ではないだろう。
俺が一番、解っている、俺は普通ではない。
でも、後、二年の辛抱である。
それだけ、普通の人間を演じれば、全てがうまくいく。いや、行かなくなる。
でも、それで良い。
そんな未来で良いの? みたいなニアンスの正論をよく説かれるが、
俺は自分にも他人にも未来にも、なんの希望も期待もしていない。
だからこそ、俺は何もせず、何もしないで、苦も楽もなく、老衰でこの世を去りたい。
もちろん、死ぬ間際に、泣いてくれる孫や、愛する伴侶、楽しかった懐かしい記憶……等、一切なくて良い。
ただ独り、静かに、誰にも気付かれることなく、死を迎えたい。
そんな程度の願いですら、叶える事は出来ないのだろうが……。
もちろん、こんな心境を誰かに語ったり等、しはしない。
ただ、もし、これを聞いている誰かがいて、俺を受けれてくれると言うのなら、助けてほしい。
誰にも理解されず、誰からも否定され、正論を説かれ、返す言葉も見つからない、浅はかな俺の心を。
俺すらも解らない……俺のはた迷惑で面倒臭い本心を。
どうか、解きほぐして貰いたい。
……そんなことは、ありえないだろうが。 斎藤一。
――約束いたします。私があなた様を救いましょう。……。
これが俺の始まりで、俺の終わりになる心の全て。
西暦二三三三年 四月一日の朝。
俺は通っている高校で、自分が振り分けられたクラスを確認していた。
高校一年生から二年生へと進学すると、クラス替えという、現役高校生達の中では割と大きなイベントが起こるからだ。
現役高校生と、わざわざ、タグを分けた理由は、俺にとってそれが、どうでもいいことだから。
ただし、どうでも良いと言っても、本当にどうでも良い訳ではなく、出来れば、気の合う友がいた方が良いとは思っている。
……それでも、やはり、どうでもいい。
――ハジメくん。好きですっ。付き合ってくださいっ!
……コレだ。
クラス表を確認し、振り分けられたクラスに向かっていた所を、同学年の女生徒数人に呼び止められ、その場で告白された。
「ほら、ハジメ。黙ってないで答えてあげなよ~」
「そうだ。そうだ。女の子が勇気を出したんだからさ」
林檎の様に頬を染めて告白してきた少女の周りで、少女の友達と思える女生徒達が俺に返事を催促している。
女生徒のこういうノリが俺は……心底、嫌いだ。
告白する勇気は確かに凄い、俺には出来ないことだから素直に感嘆する。
ただ、そんなに凄いを勇気を、決意を、他人に預けないで欲しい。
それでは凄さが、半減だ。
……それでも、俺は告白などできないだろうが。
「……ごめん」
「――っ!」
短く言って、彼女を振り、背中を向けた。
その際、一瞬、少女の顔が、醜く歪み、涙を零すのが見えたが……いまさら、振り返る事など俺には出来ない。
だから、そのまま立ち去ろうとしたのだが。
「まちなよ!」
彼女の友達の一人に道を塞がれた。
さらに、違う少女が、
「どうして断るの? ハジメくん。他に好きな人でもいるの!? ゆいちゃんのどこが嫌いなの?」
……俺に詰め寄って来る。
「嫌いって訳じゃ……」
「じゃあなんで!」
「……」
俺は昔から、よくモテるようで、告白されることもしばしばある。
ラブレターだったり、電話だったり、メールだったり……差出人の名前がない手紙を貰った事もある。
その全てを、断ってきたが、その理由を問うのは、ある意味で処刑に近いのではないか?
と、俺は思う。
でも、こうして道を塞がれて、人を泣かせてしまった以上、説明するのも筋か。
「そもそも……ゆにちゃん? だっけ? 俺は一度もまともに話したこともないし、名前の字っだってわからない」
「――っ! そんなことっ! 言ってるんじゃないでしょ! ゆいちゃんを嫌いじゃないならもっと誠実に……」
「誠実に……ね。まともに話したこともない人に告られ……の対応で」
「……っ」
と言うより、では、どんな事をいえば良いのだろうか?
……何度告白されても、正解の振り方が解らない。
「そもそも……さ。俺の何処が好きな訳?」
「……え?」
好き。好き。と、言われても、俺には『好き』がよくわからない。
だから、告白されても、色よい返事など出来ない。
「それは……だって……ハジメ君。優しくて……気が利いて……落ち着いてて」
シクシクと、涙を濡らしながら、俺の好きなところをあげてくれるのは、告白してくれた少女だ。
多分。この子は優しい子で、それこそ誠実な子なんだろう。
いまさら、フッた事を後悔するくらいには……でも、もう既に、解答は出してしまった。
俺の小さなプライドにかけて、それを覆す事だけは絶対にしない。
「残念だけど……俺はそんな人間じゃない。君の思うような人間じゃない」
「そんなことっ――」
――ない。と、言おうとするのだろう。
だが、それを俺は言わせない。
俺をこんな少女に確定させない。
「君は、俺の何を解っているだい? 一度もまともに話したこともないのにさ」
「はっ――」
その言葉が、少女が、全力で塞いでいただろう涙のダムを崩壊させた。
大粒の雫を瞳から零す。
「あーっ! ゆいちゃんを泣かせた」
「サイテー」
「大嫌いっ!」
「もう、消えて!」
「ぐず……っ、やめて……わたしが悪いんだよ……でも……でもっ、1年間同じクラスで話したこともあったよぉぉぉ~~っ」
そのまま走り去ってしまった……。
「……」
勝手に呼び止められ、行きなり告白され、こうなるとわかりきっていた質問に答えさせられ……それはないだろう。
と、思わなくもないが、わざわざ言う必要もなく、その場を静かに後にする。
……それに、そうやって言われた方が、答えが間違っていなかったと、少し楽になれる。
――バンッ!
そうして、少し歩き、人気のない廊下で、俺は壁を殴りつけた。
「……ふざっけな。泣いて逃げるくらいなら……告白なんて……してくんじゃねぇーよ。俺だって好きで……泣かせてるんじゃないんだよ!」
何も思わず出た言葉だが、コレは本心なのかも知れない。
……いや、やっぱり、好きとか嫌いとか、どうでもいい事だ。
「毎回ご苦労様。告白される方も大変だね」
「――っ!」
気を取り直そうとしていた所で、コレだ。
俺はつくづく間が悪い。
「でも、壁に罪はないんだから、当たっちゃダメでしょ?」
「……」
影となっている廊下の先から、歩いて来るのは、去年まで同じクラスだった女生徒。
高根優奈だ。
「……高根さん。何か用……ですか?」
「優奈で良いよ? 三年も同じクラス何だからさ」
「……三年?」
「そう。三年。ヨロシクね」
三年ということは、今年も一緒になったということなのだろう。
自分の名前とクラスしか確認していなかったから知らなかった。
でも、ラッキーである。
高根優奈は、日本人離れした可憐な容姿であり、性格もよければ、運動・勉強・料理その他諸々、何をやらせても超優秀な完璧美少女。
……視界に入るだけで、心が清掃される。
「は、はい。よろしく」
「……よろしく、してくれるの? 女の子がだーい嫌いな。ハジメくんが?」
「え? まぁ……それなりに」
「なぁーんだ」
かといって、それを鼻に着せることはなく、猫を被って男にこびることもなく、ただ普通に女の子をやっている。
俺と彼女の関係は、『少し気になるクラスのあの子』だ。
告白されてフッたばかりだが、話し掛けられると、ドギマギしてしまう。
……そんな俺が、俺は大嫌いだ。
「というか、そっちだって、男の子が好きじゃないでしょ?」
「え、なんで?」
「それは……」
何となく……という答えでは、失礼だろうか?
なぜだか彼女は、俺にはこうして話し掛けて来るのだが、他の男子に話し掛けられると、いずらそうにする。
……自意識過剰か。
「ま、当たってるけど」
「……」
「なんで? ハジメくんだけって? 知りたい?」
ゆっくりと詰め寄って来る高根さんに、俺は嫌な気持ちを覚え後ずさる。
高根さんから、先ほどの、モリちゃん? に通じる空気感を感じるからだ。
もし、高根さんが俺を好きだと言うなら……それだけは、
……やめてくれ。
そう、心が何度も同じ悲鳴を上げる。
「知りたくない」
「……逃げるんだ? 卑怯だね。好意はあっても向けられるのイヤ?」
「……っ」
淡々と言う高根さんの言葉に、もう返す詞はない。
「だよね。知ってる。……だから、私も楽なんだ」
「……は?」
「だって、私も、解らないから」
何が? と、問うことは、求められていない。
ただ、もしかしたら、高根優奈は、俺にとって初めての初恋になるかも知れない……という予感はあった。
「でね。ハジメくん。ちょ~~っと付き合ってくれない?」
「え? ……嫌だけど」
何度も断ってきたからか、告白には反射的に否定から入れる。
それが、良いことが悪いことかは、さておいて。
……なんでいきなり告白され――
「え、ん~? あっ。違うよ? 担任の先生に呼ばれてるだけ」
「お……おぅ。ごめん」
――て、なかった。
コレは俺の早とちり……。
正直言って超恥ずかしい。
「あははっ。全然良いよ。私の言い方が悪かったしね。……じゃ、いこいこっ」
高根さんは、その場でくるりと踵を回し、歩いていく……。
何処へ?
そう、問うと、高根さん再び、クルッと回転し、微笑を称えながら言うのであった。
「ん? 魔法の世界の『お姫様』をお迎えに。かな?」
「……え」
(続く)